シダレザクラ

文字数 2,246文字

シダレザクラ、いつかのあなたに会いたい。。。
あれは桜の咲いている季節だった。桜祭り、今では見ることのできなくなった大好きなイベントであった(あのひと)に私は目を奪われた。その瞬間だけは鮮明に覚えている。そして今でも(あのひと)に恋をしている。
桜祭りは毎年4月に家の近くにあった川の周辺に植わっていた桜の成長を祝って行われていたイベントだ。その前にもう少し詳しく実家とその周辺を説明すると九州の方の田舎、周りには数々の自然や夏には結構大きな花火大会も川の周りで行われていた地域に住んでいた。恋愛がうまくいかず、占い師の人にも今年中に相手を見つけないと一生一人だと言われ今年が来てしまっている私は自分の故郷を思い出してどうにか現実を忘れ、恋心を思い出そうとしているが思い出せない。恋なんてしなければよかった。
。。。
ふと、桜の咲く音がした。目を開けると見慣れた天井。起き上がると昔好きだった人のポスター。部屋の壁も少し古く、ベージュ色の壁が広がっている。
「もう朝だよ。起きなさい。」
最後に聞いたときよりも随分と若い母の声がする。どうなっているのかわからないまま言われた通りに窓を開けて故郷の晴れ渡った空を見ながら肺いっぱいに空気を取り入れる。大好きな桜祭りの甘く少し焦げたような匂いと春真っ只中の爽やかな味がした空気は最高だ。でもこの雰囲気を経験したことがある。そんな気がした。とりあえず一階に降りよう。
「おはよー朝ごはんなに?」
この会話までも懐かしく感じる。
「何言ってるの、今日はみんなと一緒に桜祭りに行くんでしょ。はい、これお小遣い。特別だから大事に使いなさい。あと朝ごはん代も込だからね。」
今日は桜祭りの日らしい。急いで準備するために二階の自室に走って帰った。この日のために買っておいた春らしい白色の服を身につけ斜めがけのかばんともらった5000円をお財布に突っ込んだ。
「お小遣いありがとう!!無駄使いしないようにするね。いってきまーす」
「いってらっしゃい。気をつけて、そして楽しんできてね。」
両親の言葉を耳にしながら家の前から永遠に続くような坂を下りだした。

普段から買い物をしている八百屋さんや図書館を横目にしながら私の足は止まらない。街の一大イベントということもあってか人が少ない坂をもっと下っていく。高台から見える桜や川がきれいな場所だったり少し狭い小道をもっともっと下っていく。このきれいな瞬間を記録に残したい。のんきなことを思いながら時間に遅れていることにやっと気づき、走り出した。
少ししたら、
「お。来た来た。やっとだ。」「遅いよー」
みんなが見えた。待たせてしまっていたようで今にもお祭りの方へ駆け出しそうな友達もいる。
「ごめん、ごめん。遅れちゃった。」
謝りながら私はみんなの輪に参加する。
見上げると満開の、今にも食べてしまいそうなぐらい鮮やかな桃色をしたシダレザクラが眩しかった。
道端に咲いているシダレザクラにはそれぞれプレートがついてあってシダレザクラの特徴が書いてあった。
(シダレザクラは一年のうち春と秋から冬にかけて年に二回花を咲かせる二季咲きをする桜です。花言葉は純潔。)
なんだかこの桜にぴったりな説明だった。年に二回咲くのだから二回お祭りがほしいよねなんて会話をしているうちにメインステージの川まで来た。夜はここで大きな花火が打ち上がる。 すでにレジャーシートを持って場所取りをしている人もちらほらいるみたいだ。
「ここらへんで場所取りしよっか」
うん、と言いかけたとき川のほとりにひとがいた。もちろん場所取りをしているたくさんの人がいるけれど一人だけなにかが違うひとがいた。その瞬間、私の目が(あのひと)に奪われ、そして心までも近づきたくなった。何に惹かれたのかわからない。この気持ちはもう止まらない。ストーカーみたいなことを思い私は恥ずかしくなる。
「お腹すいたね。なにか食べようか?」
「そうだね。ちょっと桜餅買ってくる。」
そういえば今日は朝からまだ何も食べていない。
「待ってー私も行く!!」
2人で桜餅を買いに輪からそして(あのひと)から離れた。
桜餅を食べて談笑に花を咲かせ、時間を忘れて話していると周りが暗くなり空の澄んだ水色の空がどこまでも広がっているような漆黒になっていた。周りでは徐々に提灯に光が灯りはじめた。花火職人の人たちや町内会のおじさんたちも忙しそうに走っている。もうすぐ花火が始まるかなと思っていたら空に浮かぶ石炭をまぶしたような灰色の雲から透き通ったしずくが落ちてきた。雨だ。息をつく瞬間も与えられずに雨は豪雨へと変化した。急いで屋根のある建物の下に走って下についたとき川に(あのひと)がいた。(あのひと)と私の間の豪雨、それが私達二人の空間を引き裂いた。(あのひと)のもとへ行こうとしたそのとき
。。。
目を開けるとそこにはよく見知った、でも実家の天井とは違う天井がそこにはあった。一人暮らしをしている家の天井だ。何があったかは鮮明に覚えている。(あのひと)の肌の色、髪の色、シュッとしたほっぺの輪郭、着ていた服、そしてあの場所の空気。なぜだか顔は思い出せないのに。今のは夢だったのかわからない。もし夢だったら瞼を閉じて見る夢はいつか覚める、それはお昼寝を覚えた子供でも知っているあたりまえのことだ。もっと全力で走っていたら話せていたのかな?夢ならもう一度会いたい。こんな後悔の思いが胸の中で咲いては散っている。でもこれだけは言える、思い出せてよかった。
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