第1話

文字数 1,596文字

「クロマニヨンズ」ってバンドを知ってるかい?
知らない人や、名前は知ってるけど聴いたことない人。もしいたらすぐにCDを買いに行った方がいい。
そして彼らのライブを観に行った方がいい。死ぬまでに絶対やっておくべきだ。

クロマニヨンズはブルーハーツ→ハイロウズという変遷を辿っている。
ブルーハーツの頃、自分はまだティーン。誰にでもわかる言葉で書かれた詩に込められた強力なメッセージ、本当によく聴いていた。音楽ってものを最初に知ったのがブルーハーツだった。

それから変遷を辿った彼ら。しばらく俺は彼らの音楽から離れていた。なぜか?
彼らの歴史は「詩から意味がなくなっていく歴史」だと言っても過言ではない。
俺のように歌詞を読んで「なるほど」と言っていたクチは「言ってる意味がわからない」多分そんな感じの理由で離れていったのだろう。

でも違っていた。メッセージがないのではない、意識的になくして行ったのだ。
彼らは詩で何かを伝えるなんて時期をとうに終わらせていたのだ。
言葉に決まった意味なんかなくたっていいじゃないか、そんなもの聴き手の勝手で解釈してくれ。
多分甲本ヒロトはそう言っている。
俺の音楽力が成長したのだろう。そこが理解できる位置に到達できて本当に良かった。

そのクロマニヨンズ。ボーカル、ギター、ベース、ドラム。
言葉から意味を奪った4人がシンプルな音を重ねる。単純にその音がカッコいい。
甲本ヒロトの声は楽器。歌唱力なんかじゃないぶっちぎりの歌のうまさ。
クロマニヨンズの歌はこの人にしか歌えない。
詩の方も、勝手な解釈でいいんだと思って聴くと、どうゆう状況の歌?どんな気持ちの歌?とかがいろんなように取れる。わからなかった所が、次に聴いてわかったり。Aと思って聴いていた曲がいやBじゃないかと思ったり。こっちの想像次第でどこまでも膨らんでいく。
彼らはこうゆうことがやりたかったんじゃないかな。
そしてごくたまに現れる普遍的でストレートな言葉に胸をブチ抜かれる。
なんてカッコいい、なんて。
彼らの音楽をブルーハーツで止めていたなんて、俺は今まで何をやっていたんだろう。

そして昨日。彼らはこの街にやって来た。
ベースもドラムもギターも観たかった。でも俺は、甲本ヒロトから目を離すことが出来なかった。
もっとよく彼の声を聴きたい。もっと近くで彼の動きを観たい。
この時間はあっちゅう間に終わってしまう。彼から目を離してるヒマなんて俺にはなかった。
究極のパンクロック体型で動きはキレキレ。ギラギラした目で客席を睨み付け、信じられないスピードで舌を動かす。
ステージ上のヒロトは「音を楽しむ」まさにそれ。音に乗り、踊り、歌う。
楽しそう!
それを観ていた俺も楽しくって楽しくて。尋常じゃない人口密度の中、踊りまくって頭はクラクラして、酒じゃない何かにずっと酔っていた。
カッコいい…こんなカッコいい人間がいるのか…

この人はそう。音楽のことだけをずっと考えて、ただただ毎日それを積み重ねて来たんだ。
歴史とか法律とか数学とか、そんなものほったらかしで音楽とだけ向き合ってきたんだ。きっとそうだ。
ライブ中そんなことを考えたら涙が出てきた。
カッコよくて泣くなんて、自分は今珍しい体験をしてるなあって思った。

さらにヒロトがすごいのは「大人に見えない」
だって喋り方は完全に子供だし、笑った顔も完全に子供にしか見えない。
「子供」ってハタチとかじゃなくて、5歳とかのレベルで「子供」なんだよ。俺の17コ上なのにだよ。
曲と曲の合間、そんな子供のような笑顔でヒロトは言った。

「僕たちはここに来るのをずっとずっと楽しみに待っていたんだよ」

まっすぐな気持ちだけの純粋な言葉。
本当に子供が喋ってるのかと思った。
彼の言葉に度肝を抜かれて、俺は何も言えなかった。

「俺もだよ!!」

って大きな声で言いたかった。次会った時は必ず言おう。


ちゃんちゃん。
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