第1話

文字数 848文字

池田が死んだ。
56歳という若さで。
12月に届いた訃報で知った。

彼の一生は稀有なものだった。
中学3年生の時に県内随一の進学校を受験するも失敗。
高校浪人という道を選んだ。
一年後、同じ高校に合格し、一年遅れて高校生活過ごすことになる。
高校ではバスケに打ち込んだ。
高校3年生の時、レギュラーとして四国大会で優勝。
勉強でも成果を挙げ、全国模試で全国2位、東大確実とまで言われた。
しかし共通一次テストで痛恨のマークミス、大学浪人することとなる。
東大に行くなら、東京でと東京での浪人生活。
誘惑に負け自堕落な生活、年度途中で地元に戻ることとなる。
得意なバスケを生かそうと体育教師を目指す。
地元の国立大学の教育学部体育専攻に入学。
そんな時彼と出会った。
入学してすぐの大学の健康診断で心臓に異常が見つかる。
精密検査の結果、すべての運動にドクターストップがかかった。
体育専攻の彼は大学を辞めざるを得なくなってしまう。
けど彼はめげなかった。
めげないどころか、彼の心臓の異常に気づいた大学の医師に感謝した。
そして医者になろうと医学部を目指すこととなる。
親に経済的な負担をかけまいと宅浪という道を選んだ。
周りはみんな大学生。
宅浪生活はうまくいくはずもなく毎年不合格を繰り返す。
気づけば3つ下の妹も大学に入学。
それでも彼からは焦りが見られない。
なすがままに現実を受け入れ、ひょうひょうと生活している。
医学部をあきらめ、司法試験を受けようと法学部を目指すようになる。
ようやく彼が大学に合格したのは妹が大学を卒業する年のことであった。
受かったのは、国公立の薬科大学と地方の国公立の経済大学。
彼が選んだのは地方の国公立の経済大学。
彼らしいと思った。

大学卒業以来、彼とは会っていない。
年賀状だけの付き合いとなってしまっていた。
しかし、自分が躓いたとき、挫折しそうになったとき、池田を思い出す。
彼ならどう受け止めるだろうか。
どう行動するだろうか。
生きている限りやり直しはできる・・・。
それを教えてくれたのが池田だった。
その池田が死んだ。


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