おぼえていてもくるしいだけ

文字数 433文字

あまい。
放置しすぎてしまったミニトマトは、
味蕾に不快感をもたらすほどの膿んだ甘味を帯びていた。
ぷじゅ、と口のなかに放出される種たちも、きもちわるくて、急いで飲みこむ。
コップの水をぜんぶ飲み干してようやく、息をついた。
もうどれくらい買い物に行ってないんだろう。
スーパーの青果コーナーの湿った匂いがぼんやりと思い出される。
まいにちは枯れるばかり。

彼女と別れたのは何日前だったか。
メッセージや写真のアプリを開くことすら嫌になってしまうほどに、
たぶん、彼女との日々は輝いていた。
わらうと一層影の濃くなる涙袋。
とろんとした黒目。
薄くて綺麗なくちびる。
もう、俺のものではないぜんぶが、くっきりと映像として蘇るたび、
醜くうめいて、そうなるともう、涙をこらえきれない。

なんて言葉を返せばよかったのかな。
「なんかさ、もう飽きちゃったかも。別れよ?」
君にとって俺ってそんなもんだったんだな。
別れたくない。
わかんない。
しらない。

他のひとのものになるなよ。
言えない。
もうもどらない。
なにも。
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