嘘の話

文字数 2,682文字

これは真実の話だ。

日本の女子高校生のあるスピーチが全世界の注目を集め、各国の世論が動かされた結果、
「地球の肺」と呼ばれるアマゾン熱帯雨林の大規模火災は見事に鎮火され、この星は正常な呼吸を取り戻した。
またその火災鎮火に伴い、改めてこの熱帯雨林の大切さに気づき、
一切の「森林伐採」を止める国際条約も結ばれた。
火災や森林伐採によって消失した面積を取り戻そうと全世界の問題として、各国が協力して取り組んでいる。
また、アマゾンの環境問題に着手できたことにより、
世界各地で起きている環境破壊にも多くの人が目を向けるようになった。
アマゾン熱帯雨林の大規模火災が鎮火された日付を国際的な記念日に設定し、
この星で長く暮らしていくためにどうするべきかを考える日として、毎年世界中で多くの協議がなされた。
それが実際の力となって、各国政府も共通の重要課題として連携するようになり、
また一般レベルでも募金活動やボランティアで大きな力が注がれた。
その甲斐あり、地球の緑全体もその息を吹き返していった。
美しい自然は人々の心を癒し、その大切さに気づき守っていく。
この素晴らしいサイクルはずっと続いていくだろう。

これは真実の話だ。

全世界のプラスチック製品の98パーセントが、自然に帰る物質で作られた製品に変わった。
アマゾン火災鎮火から始まった環境保全運動の一つとしてプラスチック製品のゴミ問題が取り上げられ、
それに変わる新しい素材の研究が急速に進んだ結果だ。
動物がそれを食べて死に至る問題は解決し、人類はこの星で共に生きるものとしての責任を一つ果たした。
また、海や山の動物たちがその美しさと力強さを取り戻していく姿が発信されたことで、
ゴミに対する「責任意識」は全世界に浸透し、そもそもの「捨てる」という行為自体も見直されるようになる。
不法投棄は無くなり、リサイクル意識は当たり前の倫理となって、地球上のゴミはどんどん減っていった。
先進国の食べ残しの問題も政府と飲食系大企業の連携で、まず「作りすぎ」が解消され、
食べる側も「残さずに食べる」ことはもちろん「過度な注文」をしないようになった。
年々、食料ゴミの量も減少している。

これは真実の話だ。

南極の氷を溶かし続けた「地球温暖化」は各国のCO2の排気量を削減する努力により、「適温」にもどった。
特に経済大国であるアメリカと中国が協力しあったことは大きく、
CO2の排気量はピーク年の1000分の1にまで減少した。
海面上昇は食い止められ、世界中で起こっていた異常気象も落ち着きを取り戻した。
「避暑地」を求めて旅だった生物たちも本来生きるべき場所に帰ることができ、心地良い生活を送っている。
また、ゴミ問題対策の大きな前進で焼却されるゴミの量が大幅に減り、
温室効果ガスが減少したことを受けて、「火力発電所」についても協議されるようになった。
それを解決するには、「原子力発電所」の反対運動との衝突は不可避だった。
しかし、「地球温暖化」という逆の方面からの注目を受けたことにより、
原発は災害対策や核燃料廃棄に対して国際社会からの経済支援や科学的協力を得られ、
安全かつ効率的な発電所となった。
温暖化解決による異常気象が落ち着いたことも、「安全保障」確立の一つの要因だ。
長年の緊迫した問題は別の側面から解決に向かうことができる。
これを知れたことも人類の大きな進化だ。

これは真実の話だ。

全ての核保有国がそれを廃棄することを宣言し、この星から核兵器が無くなった。
懸念されていた「核戦争」はフィクションのものとなったが、
その恐怖は教育などで正しく伝えられ、新たに生産する国もなくなった。
原発問題で世界中の科学力が注がれ、進化した核燃料廃棄の技術は、核兵器処理にも効果をもたらした。
そしてそのことが核保有国の世論を動かし、根絶に向かう大きな要因の一つとなった。
さらに核兵器根絶を達成できたことにより、「世界平和」というものが現実味を帯びてきたことで、
全世界規模の戦争反対運動に繋がり、ついに全ての戦争で休戦協定が結ばれた。
全ての問題は話し合いで解決され、互いの国が寄り添い合う国際社会となりつつある。
もう悲惨な戦いが起きないよう「休戦」ではなく「終結」となることが次なる目標だが、
現在の国際情勢からいえばその可能性は大きく、
地球から戦争が無くなる時代は、もうすぐそこまで来ている。

これは真実の話だ。

全ての戦争が休戦状態になったことにより、
それまで武力衝突しかできなかった国同士が話し合いのテーブルについて、沢山の意味ある議論が交わされた。
武力ではなく話し合いで解決するには互いが互いを理解し合う必要があり、
そのためには相手の価値観や宗教観、倫理観を尊重しなければならない。
それはあらゆる「差別」を解決する術でもあった。
逆に言えば、生まれた場所や肌の色、性別など
生まれながらにどうすることもできないことで優劣をつけることは、大きな争いの元になる。
互いを認め合うことで、多くの命は救われ「世界平和」に近づくという事実が、
人々の「差別意識」を消し去っていき、人種、階級、宗教など世にある全ての差別は無くなり、
人権は全ての人に平等となった。
奴隷制度や男尊女卑などの過去を見返して、
二度と同じ過ちを次の世代で繰り返さないように、子供達の道徳教育にも国際社会全体で取り組んでいる。
色んな国の色んな民族が肩を抱き合う姿は大自然のそれとともに美しい。

これは真実の話だ。

僕にはそんな素晴らしい世界を愛する彼女がいる。
そんな彼女のアマゾン熱帯雨林の大規模火災に対するスピーチは、たくさんの涙をこぼした。
その涙は火を消し、ゴミをなくし、高熱を冷まし、争いをなくし、命を伝えた。
「善意」というものは伝染し、世界を美しく変えていくということを、彼女のスピーチは証明した。
その一つの善意が回り回って「差別」が無くなったはずの世界で
彼女のSNSは否定的な意見であふれることはなく、
「偽善者」などと書き込まれることもなく、
クラスでのいじめに発展することもなく、
夜の校舎の屋上に向かうことはなく、
柵を越えて飛び降りることもなく、
今日も僕の隣で難しいことを考えながら、この素晴らしい世界を生きている。
ただただ、純粋なその笑顔は僕に問いかけ続ける。

「この世界は、どうすればもっと良くなるかな?」

繰り返すが、これは真実の話だ。
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