第1話 パンダの都市伝説を調査しろ

文字数 2,915文字

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

 俺の名前は馬喰(ばくろ)太郎。都市伝説ハンターだ。世間では芸能人の秘密を暴露することを生業とする人たちがいる。俺も暴露系と言えなくはないが、暴露する対象が違う。

 俺の暴露対象は都市伝説。都市伝説の秘密を追い求めるハンターだ。他愛無いゴシップを暴露するわけではない。
 世の中には様々な都市伝説がある。未確認生物、人面犬、サンチアゴ航空513便事件など挙げればキリがない。

 俺は世に溢れる都市伝説を検証し、その真実を暴露する活動をしている。
 今は都市伝説ハンターとしての活動を動画配信することで生計を立てている。収入はネット配信によるものだが、俺の仕事の本質はジャーナリストと言えると思う。
 過去にはツチノコ、徳川埋蔵金などの都市伝説を取材・検証した動画を配信し、それなりに有名になった。

 通常、ジャーナリストはテレビ、新聞、雑誌などと契約して取材活動をする。俺も過去には新聞や雑誌と契約して活動していたのだが、あまり実入りがいい仕事とは言えない。いくら手間暇を掛けて取材しても、スクープの内容が大したことなければ取材に掛った費用を賄えないときもある。

 俺たちジャーナリストの仕事は危険を伴う。それに、ジャーナリストが提供する情報は受領者によって価値は異なるはずだ。もっと報酬が多くてもいいのでは、と俺は思っている。
 この点、動画配信すると視聴者が多い動画は収入が増える。契約ジャーナリストとして活動するよりも安定した収入に繋げることができる。スポンサーに意向を気にせずに取材することも可能だ。
 だから、俺は動画配信で収入を得ることによって、スポンサーや契約先に忖度せず取材を行い、俺自身の目指すジャーナリズムを追求しようとしている。


 さて、俺の紹介はこれくらいにして、今回の都市伝説について説明しよう。昨日、スクープになりそうな情報を入手した。情報ソースは俺がいつも依頼している情報屋だ。

 今回の都市伝説はパンダ。そう、あの動物園にいるジャイアントパンダだ。
 パンダは日本にはいない。某国のある地域にしか生息していない動物だ。
 某国ではパンダの輸出が禁止されているから、日本は某国からパンダをレンタルしている。つまり、パンダの所有権は某国にある。

 パンダは謎の多い動物だ。どのような生活を送っているかは一般的に知られていない。何を食べているのかも本当には開示されていない。
 これは、国内の動物員の飼育員はパンダの世話をすることは許されておらず、某国から送り込まれた飼育員のみがパンダの世話をしているためだ。

 パンダは開園時間を過ぎれば専用の管理室に移動させられ、翌日の開園時間まで某国の飼育員が対応する。つまり、日本の動物園関係者がパンダを見られるのは、来場者と同じ開園時間のみ。日本の関係者が直接接触することは禁止されている。
 日本と某国の間で締結されたパンダ賃貸借契約でそのように規定されているためだ。

 パンダには、以前から様々な噂が流れていた。所謂、都市伝説だ。
 その幾つかを紹介しよう。

・クマじゃないのか?
・着ぐるみじゃないか?
・ロボットじゃないのか?
・食べているのは笹の形をした肉じゃないか?

 情報屋の話によれば、パンダに関する都市伝説はあながち間違いではないそうだ。

 情報屋は動物園の日本人飼育員から、パンダについていくつか気になる情報を聞いた。

 まず、パンダの飼育費は某国から毎月請求がきて、動物園が払っている。その内訳は大きく5つ。

 年間請求額は、レンタル料:2億円、技術指導料:1億円、人件費:1億円、食材費:1,000万円、予備費:1億円だ。

 レンタル料はパンダ本体のレンタル料だ。技術指導料はパンダの飼育方法に関するノウハウ提供に関するもの。人件費はパンダを飼育している某国飼育員の派遣料。
 食材費はパンダが食べる笹の仕入れコストだ。パンダは高級な笹しか食べないらしい。
 注目すべきは予備費1億円。何に使われているのか?

 動物員の日本人飼育員は、上司の園長から予備費の内容を調べるように言われた。これは、知事が動物園を視察した際に、「予備費の内訳は?」と聞かれたのが理由らしい。
 マネーロンダリングなど不明瞭な金の流れが見つかると、次の選挙に影響するからだ。

 日本人飼育員は予備費の内容を調査するために、パンダの檻と管理室を毎日監視した。すると、パンダの管理室には毎日夜間に大きな荷物が運び込まれていた。中身までは分からないが、同じ時間に食肉業者のトラックが動物園の前に停まっていたことから、予備費の一部は肉の購入代金に充てられていると考えて良さそうだ。

――パンダは肉食?

 俺はパンダの主食は笹だと思っていたが、実は肉食だった。
 そもそも、ジャイアントパンダは哺乳綱食肉目クマ科ジャイアントパンダ属に分類される肉食動物。肉を食べても不思議ではない。
 動物園ではパンダが笹を食べるところしか見せていないから、俺たちはパンダを笹のみを食べる動物だと思い込んでいる。つまり、パンダは肉食動物ではないと情報操作が行われているのだ。
 俺の疑問は深まるのだが、「クマだし肉食べるよなー」で終わりそうなネタだ。
 この謎を追いかけても、視聴者は食いつかないような気がする。


 情報屋は清掃業者から別の話を聞いた。動物園のゴミの中に大量のスプレー缶が入っているらしいのだ。
 スプレー缶、カセットボンベ、ライターは燃えると危険なので、他のゴミと混ぜずに捨てる必要がある。だから、ゴミ収集の際に清掃業者が気付いたようだ。
 その清掃業者は、白と黒のスプレー缶が毎回大量に廃棄されていると言っていたそうだ。

――パンダの模様はスプレーなのか?

 たしかに、俺はおかしいと思っていた。あの白と黒の模様が自然界にあるわけがない。実際のところ、俺はシマウマの白黒も疑っている。
 パンダはクマ科だから、熊にスプレーで白黒模様を付ければパンダに見える。馬とシマウマの違いが模様だけのように、熊とパンダの違いは模様だけだ。


 さらに情報屋は日本人飼育員から聞いた興味深い情報を俺に話してくれた。毎週日曜日の閉館後、黒塗りのワンボックスカーから数名の若い女性が動物園に入っていくそうだ。パンダ飼育員が家族と面会しているのだろうか? それとも……

 俺は昔、地方の旅館で似たような風景を見たことがある。旅館に泊まっていた宿泊客が旅館の女将さんに「女の子はいないのか?」と聞いて、コンパニオンを呼んでいた。
 某国飼育員は外出できないと情報屋が言っていたから、気晴らしにコンパニオンを呼んでいる可能性がある。

 あるいは……もっと直接的な……

 俺には黒塗りのワンボックスカーから出てきた女性が何者なのか分からない。

 今回の調査において警備の厳重なパンダの管理室に入るのは難しいだろう。
 そうすると……毎週日曜日の閉館後にやってくる黒塗りのワンボックスカーから調査を始めた方がいいのかもしれない。

 俺は本件を調べることにした。

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