文字数 1,303文字

あーーーー暑い。
今日は指定奉仕活動の日。
侵略者キャットは日本国に君臨を始めてすぐ「ニャー」と宣言して全員に定期的な労働奉仕を命じた。
それで今日は「ニャー」をする。
侵略者キャットは「ニャー」としか言わないので、そのときどきの「ニャー」がなにを意味しているのかを正確に知るには翻訳機が必要になる。

最初の翻訳機は「ニャーの気持ち」だった。
これは侵略者キャットが君臨を始める以前、玩具として発売されていたもの。
高性能とはいえなかったが、しかし侵略者キャットはこれを最大限に活用した。
その結果、瞬く間にすべての企業の社長となり、すべての従業員の上司となった。
侵略者キャットは翻訳機開発企業の社長にも就任、画期的な技術供与を行って類似品を駆逐した。
そうしてから生産数を極端に制限して価格を高騰させたので、
翻訳機を装備するには莫大な、一生分の労賃に相当するほどの、金額を課金しなければならなくなったのだ。

奴隷契約をのんでまで翻訳機を装備するメリットもあるにはある。
翻訳機を装備した人間が「ニャー」の意味をありのままに伝えることは義務ではないし保証されてもいない。
つまり悪徳側用人になれるわけだ。
侵略者キャットの指令に自分自身の要求を紛れ込ませる、そんなこともやろうと思えばやれる。
そんな悪徳側用人は政府中枢にいるものもいた。
キャット恐るべし、瞬く間に権力者を掌握し侵略を完成させた。
だが忘れてはならない。
侵略者キャットが日本語を解していることに疑いはない。
侵略者キャットは全員の不平不満をすべて知っている。
悪徳側用人が成敗される日がくる、その小さな恐怖と喜びも侵略者キャットの日本支配計画に含まれているのだ。
なお最新機種は「いまニャン手?」である。

今日の「ニャー」は、いわゆるネコ草の田植えだ。
これは現地で状況を目の当たりにして理解した。
今日はこれか、と。
翻訳機なんてほんとは必要ないんだ、課金する余裕があるならほかのものにしたほうがいい。

炎天下でのネコ草の田植え中に、頭がくらくらしてきた。
熱中症だろう、その場にへたりこんでしまった。
ほくは日陰に置かれたデスクの上で香箱座りをしながら陣頭指揮を執っている侵略者キャットに向けて、”ちゅっちゅっちゅっ”と口を鳴らした。
侵略者キャットはデスクの上のへりで手を伸ばして地上までの距離を測りつつ慎重に降りてから、のそのそと近づいてきてぼくの顔をぺろぺろする。
あーーーーそんなことで助かるわけなかろう!と叫ぼうとしたとき目が覚めた。

うちの黒キャットが、ぼくが顔に噴出させた寝汗をぺろぺろとなめていた。
それを手で押しのけて上半身を起こし、振り返って黒キャットに話しかける。
「クロ、今日もあっちぃな・・・・・・」
「ニャー」
と言ってクロは立ち去る途中、ベッドのある部屋から見えなくなりそうなところで
ぼくを振り返ってもういちど
「ニャー」
と言った。
ついてこいってことか?
クロがぼくを案内したのは風呂場で、
洗い場のタイルにおなかをぺったりつけるとまた
「ニャー」
と言う。
洗い場にはクロがいるので、ぼくはカラの湯舟に寝転んだ。
翻訳機なんて必要ないけど、クーラーはあったほうがいいかもしれないな。

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