第1話 わいはオペレーター

文字数 1,938文字

 誰が決めたんや
 
「それでは私、遠藤が製造の説明をさせて頂きます。概要は品質管理部長の高橋ですが、私はもう少し詳細になります。質問等有りましたら説明後にお願いします。」・・・
「遠藤さーん、ちょっと良いですかー、課長が呼んでいるから事務所に行って」
 工場見学の現場説明会の一ヶ月前に、わいは課長に呼ばれたんだがな。不良品を出したんだろか、女性問題では無いし、何事かと思い事務所に行くと、事務所内会議室に通された。そこには工場長、品質管理部長、製造部長が既に話しをしていた。あちゃー品質に関する事だなと思い神妙にしていたら、課長に促され椅子に座ると品質管理部長がいきなり話し始めた。
「遠藤さん、一ヶ月後の水曜日の午後にメーカーの工場見学があり、貴方に製造現場の説明をして欲しい。」
 何や、いきなりの事で、わいは目の前が真っ白になってもうた。こんな事って初めてだからどうしたら良いか戸惑ってしまった。課長が言うには対応の人選は既に決まっている様だ。いつわいに決めんやと言いたいが印象を悪くするから止めておいた。
 
 説明の段取
 
 わいの仕事は自動車の金属部品を製造している部署にいて、金属成型機を扱うオペレーターだ。所謂現場勤務だ。機械は工程内に八十台あり十六台を二人で受け持っている。三直の交替勤務で今週は遅番だ。説明当日は早番だけど引き続き勤務する必要がある。何で作業者のわいが説明しなきゃならんのかと聞いたら、わいが一番経験年数が長く現場を良く知っているからだと聞いた。わいは高校卒業して直ぐにここの会社に入り三十五年が経過している。まあそれなら良いかと続きを聞いた。初めに会議室で品質管理部長、製造部長がパソコン、プロジェクターを使って説明した後で現場に案内して、わいが工程で説明するとの事だ。工程内は騒音があるから無線マイク、イヤホンを使う。と言う訳で準備に取り掛からないといけない。資料を作る必要は無く、オペレーター業務の操作を説明すれば良いとの事だ。課長が大凡考えている様なので一緒に説明段取りを決めていこうだって。それからは、オペレーターの傍ら課長と話しをしながら説明の手順を決めて、説明会の一週間前には製造部長、課長の立合いの下で練習出来るようになった。
 
 説明当日
 
 ・・・会議室での説明が終わった様だ。もう直ぐこっちに来るな。さて準備だ。
 「まず初めに製造のロットが変わった時には、金型を交換しますが、専属のセットマンがおりまして・・」
 落ち着け落ち着け、わいは一生懸命準備して練習もしたでは無いか。今のところ皆熱心に聞いてくれている。課長も心配そうに見てくれているが、上司なんだろ自信を持ってくれないかなあ。あれっ顔を傾げたぞ、聞き取れなかったのか、意味が伝わらなかったのか、参ったな後で質問が来そうだぞ。
「・・それから試し打ちをし製品の寸法、品質に問題がないかチェックします。検査員が行い、問題が無ければ生産開始します。製造の準備としては梱包材はここにセットして・・一製品が出来ましたら製品票を貼り付けます・・」
 やれやれ、後もう少しで終わる。其れにしても、人数が多いんじゃないの、興味があるのかな。体格の良い人がいるな、きっと重役なんだろうな。わいなんて下っ端だからひもじい食事でスマートだぞ。
「・・以上ですが、其れでは質問が有りましたら挙手下さい・・」
 
 現場確認が終わり、会議室に戻った。わいも質疑には必要だから会議室に行くとの事。オペレーターの仕事は無いから早く終わって欲しいな。帰ってから一眠りしないとならないからな。
 
 また来るんだって
 
「現場確認も終わりまして最終の質疑に入りたいと思います。何か質問が有りましたら挙手下さい・・」
 誰だあの人手を挙げたぞ。
「私会社では品質管理を担当しております。ひとつ質問が有りまして、現場で説明されていた製品票の事ですが・・」
 えっ、そんな事も聞くの、部長しっかり回答して、わいにふってこないでよ。わいは回答するなんて嫌だよ。良かった、部長が回答してくれた。
「・・以上にて第一回の現場説明会を終わります。それからメーカー様の希望によりまして二週間後にもう一度同様の説明会を行いますので関係者は準備下さい、引き続き段取確認しますので説明関係者はそのまま待っていて下さい。」
 何なに、そんな事って、二週間後わいは深夜番だぞ、寝る時間も無いのか。課長なんとかしてよ。それから、わいは再び現場の説明をする羽目になってしまった。工場長、部長の強い希望があった。なんでも現場説明が上手く捗ったとの事だ。課長、説明会の打ち上げ会には是非わいも呼んで下されよ。
 
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み