第1話

文字数 1,457文字

 「ねえ、タピオカって知ってる?最近流行ってるんだけど、ジュースに蒟蒻みたいなグミみたいな丸いのが入ってて美味しいんだって!気にならない?放課後行ってみようよ!」
「たぴおか・・・・・・。高岡?」
「いや、高岡誰だよ。た、ぴ、お、か!ほら、駅前にできたんだって。行ってみようよ!」
「正体分からなさすぎ。まあいいや、行こ!美和が見つけてくる流行りもの、大体美味しいし。」
「でしょ!決定!放課後、昇降口で待ってるね」
「了解」
もう、高校生も二年目か。こうして友達と帰りに遊んだり、勉強会やったり、週三回の部活で騒ぎながら広報部の新聞を作ったり、そこそこ女子高生を楽しんでいると思う。広報部に入った時は、まじめな人が多い部活だと予想していたけれど、案外そんなことはなかった。行事の前後になると先輩が急に本気を出し始め、在校生に行事についての情報を伝えるべく忙しくしているが、常時はオカルト新聞や個人個人興味のあるものや好きなものを、調べて記事にし気ままに発行している。自由度がかなり高いため、何もしないでお菓子パーティーをしていたら部活の時間が終わっているなんてこともざらにある。そんな中、美和は高校生になってからできた、友達第一号だ。美和も部活動体験の初日で広報部に来ていて、彼女はその時偶々リップを塗っていた私を見るなり突然、「スカーレットピンクの色付きリップ!限定色の!可愛い~、ね、見せて!」と言ってきた。それから、「流行りものに興味ある?」「甘いものは好き?」「スカート何折派?私、2折。」と質問攻めだったが、不思議と嫌じゃなくて、気が付けば楽しく会話していたことが私たちの友達になるきっかけである。美和は喋り口調も流行りの言葉をよく使っていた。私たちはお互いに、好きなものや、スカートを何回折るか、メイクはどこで買っているか、など一日でよく知ることができたけれど、名前を知ったのは別れ際だった。
 「あ、私ここで曲がるわ。じゃーねー、あれ?名前なんだっけ。そもそも聞いてなくね?」
「聞いてない。教えてもない。私たちずっと喋ってたのに、名前知らないじゃん!」
「それな!なんか一日でお互いの事すごい沢山知った気になってたけど、名前知らないとか!すごい笑える!」
馬鹿みたいに笑いあい、不安もあった高校生最初の春も美和という友達ができたことで未来への期待が大きく高まっていた、そんな一日の終わり。
「私は明智美和。周りの人からもかなりチャラいって思われてるからいつも驚かれるけど、歴史超好きなんだよね。ほら、私の苗字明智じゃん?それで、明智光秀も明智だから。興味沸いて。」
「そうなんだ、確かに意外!私は前島赤杜。ちょっと、男の子みたいな名前でしょ。あかと、なんて。」
「良くね?あかと。でも、本人がそんなに好きじゃないなら、赤ちゃんは?かわいいっしょ!」
「いや、赤ちゃんって。赤ちゃんじゃん!」
彼女に他意はなかったみたいで「あ、そっか」と言って笑った。美和と一緒だと本当によく笑う。このやりとりのおかげで、私は少し自分の名前が好きになれたから、今まで苗字呼ばれていたけれど今の友達には赤杜と呼んでもらっている。しかし、美和だけは赤ちゃんというあだ名が気に入ったらしく、偶に赤ちゃんと呼ぶことがあり、私も街中で大声で叫ばれない限りは許していた。今では美和は大親友である。そして、この時の私はまだ知らなかったが、そんな美和と別れがくるのも秒読み寸前だった。私が、余命宣告を受けるまであと――――――。
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