第1話

文字数 493文字

「    」
君はそう言って微笑んだ。

 出会いはほんの些細なひとこと。
「タバコある?」
 喫煙所に現れた君は、多くの人の中から何故か俺に向かってそう言ってきた。
 俺は少し戸惑いながらもタバコを一本差し出す。
 君はとなりに腰掛け深く煙を吐き出した。
 他愛ない会話。その中に見つけた共通点は、自然と二人をつなげていった。
 それからというもの、俺は喫煙所へ行く度に君を探すようになっていた。
 いつも少し遅れて現れる君は、当たり前にとなりに座る。
 日に日に近づく二人の距離。
 最初に見つけた『孤独』という共通点は、やがて『二人』へと変換され、心にそっとあたたかな火を灯した。

 その日はいつもより少し遅い夕暮れ時。誰もいない喫煙所。
 今日はさすがにいないか、と冷たいベンチに腰掛ける。
 今は一人だけれど不思議と孤独ではない。
 その時。不意に後ろから声がした。
「タバコある?」
 いつもの声。俺は思わずふっと微笑んで振り返った。
 突然塞がれる唇。
 少しの驚きと、胸いっぱいのあたたかさに包まれる。
 何だか泣きそうに見える君は、

「あの時ナンパしてよかった」

 そう言って微笑んだ。
 ほろ苦いタバコの味がした。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み