第1話

文字数 1,420文字

 俺はその日。不動産屋さん待ち合わせをして賃貸物件の内覧に来ていた。

「へー。この物件。こんなに良い条件なのに、ずいぶん安いんですね?」

 すると不動産屋さんの表情が曇った。

「あー。はい。その。実はですね。この物件。でるんですよぉ」
「でる?」
「えぇ。これが」

 手でオバケの仕草。そして続けて言った。

「大家さんもほとほと困ってましてね」
「へぇ」

 これってもしかしてラッキーかも。幽霊? 馬鹿馬鹿しい。いるかそんなもん!

 この時の俺はそんなことを考えていた。

「この部屋にします」





 引っ越しを全て終え、部屋で過ごす一日目。今のところ特に異変はなし。

「やっぱな。幽霊なんて居るわけ無いじゃん」

 そう言った瞬間。部屋でピシィという音が鳴り響く。

「おっ? 家鳴りか?」

 またピシィという音が鳴り響く。

「マジか?」

 でも、まぁこの程度なら問題ないかな? そう思っていた。

 その日の夜。
 夜中にふと目が覚める。

「っ!」

 体が動かない。金縛り? 動揺する俺は何とか体を動かそうと全身に力を込めるが、指先一つ動かせない。

 そして俺は、とうとう見てしまう。足元から這い上がってくる怒りの形相をしたお婆さんの姿を。

 その日はそこで気を失った。

 翌朝。

 全身汗だくで目が覚める。

「夢?」

 それにしては随分リアルで……

 そう思った時。またピシィと家が鳴った。

 俺は怖くなって、早々に学校に行く準備をして、その日は家に帰らず友人の家に泊めてもらった。

 とはいえ、いつまでも友人宅に居続けることは出来ない。

 三日目のお昼。

 恐る恐る。家に帰る。

 家に足を踏み入れた瞬間。

 また家が鳴った。

「勘弁してくれよ」

 俺は回れ右をして家を出て、そのまま友人に連絡をする。すると近所に有名な霊能者がいるから見てもらおう。という話になった。

 数時間後。さっそく来てくれた霊能者さんに心ばかりのお金を支払う。

「お願いします」

 霊能者さんに見てもらった結果。確かにお婆さんが部屋に居るという。

 なんでもここは私の家だから出て行けと言っているのだそうだ。

 執念が凄ぎて祓うのは難しい。早めに引っ越したほうが良いよ。というアドバイスを残し霊能者さんは帰っていった。

 仕方がないのでその日もまた、友人宅に泊めてもらう。

 しかしだんだん腹が立ってきた。

 幽霊なんて死んだ人間の残りカスだ。ここは生きている人間の住む世界だ。死んだ人間がいつまでも居続けることの方がが間違っているんだ。

 なんで生きている俺が遠慮して出て行かなきゃならないんだ?

 沸々と怒りがこみ上げてくる。

 そうだ。俺は間違っていない。家賃は俺が支払っているんだ。それなのに婆さんに部屋を占拠されている。

 ふざけんな。そうだ。あそこは俺の家だ。俺が家の主だ!

 四日目の早朝。

 自宅に足を踏み入れる。

 やはり家が鳴る。

 しかし俺は屈しない。それどころか俺の中で怒りが爆発する。

「クソババア。そんなに部屋を出て行って欲しけりゃ退去費払えや! 払わねぇ限りオレは出て行かねぇぞ!」

 俺が吠えたと同時に家が鳴る。

 しかし

「引越し費用がねえんだよ。学生舐めんな! ババアの方こそさっさと往生しろや! 俺はあんたが退去費用出すまで出て行かねえからな!」

 こうして俺と婆さんの霊との奇妙な同居が始まった。





 それから半年後……

 最近では、婆さんとコミュニケーションが取れるまでになった。

「婆さんお供えした飯、どうよ?」

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