文字数 1,360文字

「黒騎士さん! 村はずれの洞窟に住んでるクマの親子を追い払ってくれねえか……!」
次の街へ続く道の途中で、農作業の途中なのかクワを持った中年男性に話しかけられた。
どうしたんですか。凶悪なクマの親子はどんな害をもたらすのですか、と尋ねたところ。

「身体も小せえし凶悪なクマって事はねえんだけど! 畑の野菜を食っちまうんだわ!」
凶悪なクマではないのならば、畑にサクを作ったりなどして対処すれば良いではないか。
何より何かしらの対処をしたのかどうか伝えすらしない。説明不足すぎてイライラする。

「なんと、確かに顔色も良くねえかもな……。無理いってすまんです。気いつけてな!」
助力させて頂きたい気持ちはあるのですが、長旅で体調を崩してまして申し訳ないです。
特に体調を崩しているわけではないが、気乗りがしないのでそう告げて道を歩き始める。

しっかりと収穫して美味しい野菜だ、と食べてもらった人々に心から喜んでほしいとか。
あんな大人しいクマすら追い払われるのか、と本当に凶悪なクマへの抑止力になるとか。
何でも良い。明確な強い目標があれば気力も湧いたというのに。志の低いクソジジイが。

馬鹿と天才は紙一重という格言のように、この世の全ては何でも表裏一体なのだと思う。
なのである意味。体調が悪くない状態とは、体調が悪い状態とも言えるに違いないのだ。
ただのヘリクツとも言う。とりあえず面倒臭い。民を守る義務は放棄。俺もクソである。

「クロキシさま! くやしいから、ドウクツにいるおっかないクマさんをやっつけて!」
村の出口に差し掛かった道の途中で、またもや話しかけられた。今度は小さな女の子だ。
どうしたんですか。その小さなクマは恐いクマではないと聞きました、と話したところ。

「ちいさなクマさんにエサをあげようとしたら、おおきなクマさんにひっかかれたの!」
そう必死に話しながら、服に隠れていた左腕をまくって見せる。これは痛かっただろう。
なるほど確かに大人から見れば小さなクマでも、この少女から見れば大きなクマなのだ。

「でも、やっつけるっていっても。このぐらいのシカエシしてくれるだけでいいから!」
左腕の傷を見せながら涙目で訴える。自分が受けた以上の仕打ちは望まない優しい娘だ。
さっきの中年とは違う明確な強い目標に、きちんとした説明。素晴らしい。気に入った。

「え! いいの! やったー! ありがとう! クマさんのいるドウクツは、こっち!」
先を行く少女の後ろを歩きながら。どのように同じ傷跡をクマに与えるものかと考える。
少女が受けた攻撃は左腕への引っかき1回のみ。すなわち2回以上の攻撃は許されない。

また少女は三本の引っかき傷をつけられた。仕返しとしてどこまでも同じ内容にせねば。
しかしながら1本の剣のみで三本の傷をつけるには、ひと振りの斬撃だけでは不可能だ。
そのため、無くした時用を見据えて腰と背中にさげている同じ剣4本のうち2本も加え。

3本の剣を何とか両手で握って攻撃する必要がある。俺は手が小さめなので難度が高い。
なおかつ、少女と同じ程度の深さの切り傷となるとどのぐらいの力加減となるだろうか。
このぐらいだろうか、といった感じで両手をヒュンヒュンと振っていると洞窟に着いた。

いざ勝負だ。3本の剣を落とさないよう、両手でしっかりと握りながら洞窟の中へ進む。
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