1話完結ショートストーリー

文字数 1,417文字

 姉が死んでしまってから、私はこの物置部屋へよく足を運ぶようになった。

 姉の物がたくさんしまわれてあるこの部屋で別に何をするわけでもなく、懐かしいものを手に取ってみたりしながら一人静かに過ごす。ここに来るとほんの少しだけ心が落ち着いた。


 思えばあの日から、私の人生はそれまでとは全く違うものになった。そして私の心はあれからもうずっと普通ではない。未来を想像しようとしても、何も見えないし何も浮かばない。毎日痛めつけられる体はいつも悲鳴をあげているし、学校を休まなければならないことも多かったから友達だってほとんどいない。振り返ると楽しい思い出なんてあまりない。

 だけど私はやらなきゃならない。姉の分まで生きなければ。姉の代わりに成し遂げなければ。それがとてつもなく辛い。でもそれをやめたら生きている意味も価値もなくなってしまう気がして逃げられなかった。

 結局ずっとここでもがいていることしか私にはできないのだろう。


 そんなことを考えながらふと目線を本棚へ向けた時、一冊の本が目に留まった。タイトルはなくてすごく分厚い本。今までこの部屋で本なんて気にしたこともなかったけれど、なぜだかすごく気になって、引きよせられるようにその本を手に取り、表紙を開く。


___あなたが知りたいこと聞きたいことを頭の中に強く思い浮かべながら、好きなページを開いてください。そこにあなたの求める答えがあります。

「あぁ、そういう系の本か。お姉ちゃん好きだったもんね。」

 姉は占いとかそういう類のものがとにかく好きだった。だからこういった本は他にもまだたくさんあるのだろう。

 私のほうは昔からあまりそういうものに興味がない。でもせっかく手に取ったんだから一回くらいやってみようか、そんな気持ちになった。

 開いたページに私の求める答えがあるって?

 だったら教えてほしい。


「私はどうして生まれてきたの?」


 目を瞑ってゆっくりページを開いてから、恐る恐る目を開けてみると、、、


"カミサマノキマグレ"

 文字を読んで頭が意味を理解した後、何か強く破裂するような音が体の上の方で確かに一回バチンと鳴った。それと同時にずれてたものがカチッと元の場所に納まるような不思議な感覚もした。

「カミサマノキマグレ、グウゼンノサンブツ…」

 音と感覚は余韻を残してしばらく私の心に漂った。なぜだろう。すごく気分が良かった。

「私には背負うものも宿命もなにもなくて、神様の気まぐれで偶然生まれてきただけなんだ。ただそれだけなんだ…。」



 その日私は、理由のわからない謎の高揚感を抱えたまま、高く高く、誰よりも高く飛んだ。



「優勝おめでとうございます!今回は世界記録も更新ということで、前回までの長かった不調を乗り越えての素晴らしい結果となりましたが、率直に今どういったお気持ちでしょうか?」

「そうですね。今まで私は必要のないものをいっぱい背負い込んで、勝手にそれが自分の生まれた意味だって思い込んでずっとやってきたんですけど、そういうのが今はもう本当に何もなくて。今日私は初めて私の意思で、思うままの私を出すことができて、それがただただ楽しくて!」

「今回そのような新しい気持ちで挑めたのには何かきっかけなどあったんでしょうか?」


「そうですね。なんというか、一言で言うなら、、、"カミサマノキマグレ"ですかね!」




 私は私。これからは私の人生を思うままに生きよう。もう迷うこともおそれるものも何もない。
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