第1話

文字数 626文字

 口で失敗しちゃうタイプ

 中野のモール内で占い師にみてもらったときのことだ。私のホロスコープを見て、占い師が言った。
「あなたは口で失敗しちゃうタイプですね」
 ギクッとした。思い当たることが多々あったのだ。すぐ浮かんできたのは、かつて勤めていた会社内での一場面だった。
 その会社は恐ろしいことにしょっちゅう売上会議があり、売り上げが少しでも落ちると、なぜ落ちたのか、社長が納得する仮説をむりやりにでも立てて担当者が説明しなければならなかった。納得できないと社長はすぐ大声を上げるので、毎回社員は戦々恐々としていた。(私だけ?)
 ある会議でのこと。それは売上会議ではなかったのだが、私は新しい企画についての説明をしていた。部長が社長の代わりに出席していた。私の説明が終わった後、テーブルに集まっていた一同が静まり返った。嫌な静けさだった。
「彼女が今言ったこと分かる人、手挙げてー。シーン」
 おどけた口調で部長が言った。確かに後から考えると、人に分かりやすく伝えようという配慮が足りなかったかもしれない。それからほどなくして私は別室に呼ばれ、部長に解雇を言い渡された。あの会議での発言が解雇につながったのだ、とそのとき私は直感した。
 何年も経ってから、部長が会社を辞めたことを人づてに聞いた。社長と喧嘩をして解雇されたらしい。
 占い師が断言したように、私は口で失敗しちゃうタイプらしいので、今後言葉にはじゅうぶん気をつけようと思う。すでに遅いかもしれないが。
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