第1話

文字数 1,602文字

私は大学の講義の帰りに歩いて50メートル位先のスーパに食材を買いに行った。
オクラやピーマン、ナスなどの夏野菜を大量にカゴの中に入れる。理由は簡単。何度もスーパーに買いに行くのが面倒だからだ。レジに並ぶ直前になり、牛乳を切らしていることを思い出した。お風呂上がりの牛乳が今日はなしになるところだった。危ない危ない。牛乳も3本くらいまとめてかごに入れる。セルフレジで精算を済まし、マイバックに買ったものを詰め、外に出る。まとめ買いしたため、かばんがとても重い・・・まあ、いつものことなんだけど。

 私はスーパーの隣に見慣れないお店があることに気がついた。正確に言えば、お店ではない。看板に「野菜銀行、はじめました。」と書いてある。
そういえばマンションのポストに新しく銀行の支店が出来るって書いてあったっけ・・・。興味がないから直ぐさまゴミ箱直行コースだったことを思い出した。
看板の隣にチラシがはってある。
チラシには次のようなことが書いてあった。
 「スーパーの重たい食料品を買って家路に急ぐそこのあなた。ないと思って買った食材が実はまだ冷蔵庫の中に入っていたことや野菜が下に埋もれていくことに気づかず、気づいたときには野菜が真っ黒だった。なんてことはありませんか。野菜銀行はそんなことはさせません。野菜銀行は買いすぎてしまった野菜を預かり、新鮮な状態をキープ致します。
※牛乳など痛みやすいものもお預かり致します。
※ご存方法は企業秘密の為、公表しておりません。が保存状態には自信が御座います。是非、安心して食材をお預け下さい。」
と書いてある。

 なんだここの銀行はとてつもなく胡散臭い。本当かな。すごく気になる・・・。だって食材が入ってるかばん思いし。私は「そのまま直帰する」と「野菜銀行で食材を預かってもらう」の2つを天秤に掛けた。私の頭の中で「野菜銀行で食材を預かってもらう」が軍配が上がっている。私は野菜銀行に足を運んだ。
 中に入ると銀行そっくりで受付がいくつかあり、待つための椅子が幾つも並んでいる。
私は受付の人に声をかけられた。
「いらっしゃいませ。ご利用は始めてでしょうか?こちらが番号札になります。椅子に座ってお待ち下さいませ。」と言って1番の番号札を私にくれた。
「はい。」
椅子の近くには本や雑誌が入っているラックがあり、お茶やジュースなどのフリードリンクが飲み放題で中々快適だ。
5分くらい待つと「1番の番号札でお待ちのお客様、一番ブースに起こし下さい。」とアナウンスが流れてきた。

 一番ブースに行くと、銀行みたいに担当の人がいた。
椅子に座ると、「本日はご新規だと承っております。まず最初にシステムを案内させて頂きます。うちはその名の通り腐りやすい野菜や食材を預からせて頂きます。利用料金は預ける量によって異なりますが一番お安いプランだと1ヶ月1000円からになっております。なお、どれだけ長期間お預けになっても料金は発生致しません。そこはご安心下さい。」と言って担当者は料金表を見せてくれた。

料金表
1キロ 1000円
3キロ 2500円
6キロ 5000円
12キロ 10000円

ふーん。思ったより安い。今日は重いので預かってもらうことにした。牛乳1本と野菜半分でちょうど一キロ。担当者に1000円渡し、野菜と牛乳を預ける。預けたあとで私は疑問に思った。預けたいときは銀行に行くとして、これって取り出しはどうすればいいんだ?
「お客様がご在宅の時間をお知らせ下さい。野菜配達用ロボットがご自宅に届けに上がります。」と担当者が心を見透かしたように言った。
 

 私はその後、頻繁に野菜銀行を利用するようになった。便利だから。以前ではどこに何があるのかわからない状態だったが、お陰様で冷蔵庫の中身は常に綺麗な状態を保つことができている。しかし、困ったことが一つだけある。それは野菜銀行に何を預けたのか忘れてしまうのだ。
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