第1話

文字数 1,726文字

 

 

 ここは海の中にある、魔法の国。
 

 私は人魚のお姫さま。

 

 ある朝、いつものコースを泳いでおさんぽしていたら、私のお友達の魔法使いがイソギンチャクの向こうから現れたの。




「よお、お前にいいものを見せてやるよ」

「あら魔法使いさん、おはよう。いいものって?」




 魔法使いは、イルカのようなヒレで私を足招きしながら「いいから黙ってついて来な」と言って、私の前をさっさと泳いで行っちゃったの。


 
 まだ水の冷たい早朝だっていうのに、いつも昼まで寝てるぐうたらな魔法使いがこんなに元気なのは、うんと面白いことがありそうだと思ってすごくワクワクしたわ。
 


 魔法使いの後をついていくと、クラゲの畑を抜けた雑木わかめの茂みの奥に、大きな穴が空いていたの。



 穴の縁は白い珊瑚の骨で固められていて、そこに散りばめられた宝石や真珠がキラキラしてる。




「あら、一体なんの穴?いつからこんなとこに……」


 私が驚いて言うと、魔法使いが嬉しそうにニヤリと笑って、


「ただの穴じゃない!これは『ありえないトンネル』だ!私が作ったんだ!今朝完成した!」
 

 って叫んだわ。


 
「トンネル?ふうん、じゃあどこかに繋がってるの?」


 私が手をトンネルの縁にかけての中に入ろうとすると、魔法使いが慌てて止めたの。



「まあまあ、慌てるんじゃない。お前、今、探してるものがあるだろう?」


「うーん?……あっ!人間の彼氏♡?」



 私がそう答えると、魔法使いがずっこけたわ。


 それから「お前なんか泡になっちまえ!」って言うから笑っちゃった。



「やだー、冗談よ、人魚ジョーク」

 魔法使いは呆れて舌打ちしたわ。



「ああーもう、首飾りだよ!この前『パパにもらったペンダント無くした~!ぴえん~!』って大騒ぎしてたろうが!」


「ああ!そうそう、とっても大事な翡翠のペンダント、まだ見つからないのよぉ。どこ行っちゃったんだろ?」


 私が、えーん、と泣き真似すると、魔法使いは大袈裟にため息をついたわ。



「いいか、よく見てろよ」


 
 魔法使いは何か呪文をブツブツ言って、トンネルの縁を優しく撫でたの。

 

 穴の向こうには何もないように見えたけれど、突然宝石がパッと光って、眩しくて目を閉じちゃった。

 
 「おい」って魔法使いに呼ばれて目を開けると、トンネルの中に、私の無くしたペンダントが浮かんでたの!


 私あんまり驚いて「えっ!」って叫んじゃった!



「嘘ぉ!どうして?どこから出てきたの!?すごぉい!」



 魔法使いは得意そうに、ふんっと鼻を鳴らして「それはなぁ、まずこのトンネルがトリガーになってて、インタラクトするとペンダントのIDからアイテム生成を……」とかなんだか訳のわからないことを言い出したから、「ありがとう♡」ってお礼にほっぺにキスしてあげたわ。


「ヒッ」


 魔法使いは急に顔をヒトデみたいに真っ赤にして、ひっくり返ったすっとんきょうな声を上げたわ。



「よかったぁ、この前、人間界のパーティーで無くしちゃったから、もう見つからないかと……おっと」

「人間界のパーティ?」
 

 魔法使いは我に返って、ヒレで私をペシペシはたいてきたわ。

 それでまた、「お前なんか泡になっちまえ!」って叫ぶから、私おかしくて笑いが止まらなくなっちゃった。



「ところで、ねぇ、このトンネルはなんでも持ってこれるの?私、やってみたいことがあるんだけど」



 私は魔法使いにお願いして、必要なものをたくさん出してもらったわ。
 


 私のお部屋にあった、ゼラチンのお菓子やティーセット、それからたくさんのマンジュウヒトデちゃんを並べてクッションにして、ご近所のホタルイカさんたちにも遊びにきてもらったの。


 雑木わかめの茂みの中に昆布のテントを張って、トンネルを囲ったら……うふふっ!人魚姫の即席グランピング完成~♪



 難しそうな本をたくさん並べて満足そうな魔法使いの横でゴロゴロしてたら、……ふあぁ。なんだか眠たくなってきちゃった。



 上を見上げると、水面がキラキラ光ってる。



「ねえ、今度は一緒にパーティ、行きましょうよ」


「行かねえよ」


 
 魔法使いのヒレを触ったら、ペシってまたはたかれちゃった。
 


 それじゃあみなさま、またね。

 私はこれからお昼寝タイムです。おやすみなさぁい……☆
 



 

 

 


 
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