第1話
文字数 1,720文字
君と私
僕には中学校からお付き合いしている女性がいる。
彼女は付き合った当初から、勤勉で、オシャレで、いつも笑顔を絶やすことはない。
それは、高校に上がってからも変わららない。
そんな彼女は当然だが男子にモテる。だから、彼女の彼氏はさぞかしイケメンで、運動も勉強もできるだろうと噂されているのだが、蓋を開けてみれば前髪で目が隠れ、そばかすだらけの地味な男。
それが僕で、それが彼女の唯一の欠点だ。
彼女は告白される度に彼氏がいるからと断るのだが、僕はその度にみんなに自分がその彼氏だとバレないように知らんぷりをする。
だが、そんなことお構いなしに彼女は僕に絡んでくる。
朝はお家まで迎えに来て、教室ではお昼ご飯を一緒に食べようと誘ってくる。
その度に僕は登校する時に彼女と時間をずらして学校に入り、昼はまるで哀れな僕を彼女が気遣って話しかけているように見せる。
彼女と一緒に行動する度に周りの目が気になる。
そんな日々が嫌で、それとなく拒絶してみたり、それとなく別れを切り出してみたりするのだが、彼女は鈍感でそれに気づいてくれない。
もう嫌だ、限界だ、もう許してくれ、心がそう叫ぶ。
僕は知らない間に彼女のことが嫌いになっていた。
嫌いで、嫌いで、嫌いで、嫌いだから、彼女と会わないためにその日から学校に行くのを止めた。
それでも、彼女は毎朝会いに来る。
また、一緒に学校に行こう。
また、一緒にお弁当食べよう。
また、一緒に授業受けよう。
そんな言葉が、彼女の声で、彼女の口で、部屋の前でまるで呪言のように繰り返される。
いくら耳を塞いでも、いくら彼女に罵倒を放っても、いくら謝っても、やめてくれない。
おかしい、なんで僕にそこまでこだわる、僕に良いところなんて一つもないのに。
ある日、「もう来るな」と叫んで閉まっている扉に向かってスマホを投げる。
すると彼女は「分かった」と言って、部屋の前から去っていく。
最初僕は彼女の言葉を信じられなかった。だけど、翌日になっても彼女は来ず、その次の日も、その次の日も、彼女が来ることはなかった。
僕は心が、彼女から徐々に解放されていくのを感じた。
彼女が来なくなって一週間が経った。
時計を見ると9時で、外は暗い。
僕はさっき母が扉の前に置いていってくれたご飯を取って、ゆっくり食べた。
今日のご飯はハンバーグで、まだ少しだけ熱が残ってる。
おいしい。
母も父もずっと学校に行ってない僕を待ってくれているのだ。
そう思うと、涙がこぼれた。
僕は扉の前に食器をおくのではなく、今日はリビングまで運んだ。
最初、母も父も驚いていたけど、温かく抱きしめくれた。
そんな父と母の優しさに僕はまた泣いた。
その日から僕は徐々に部屋から出るようになった。
もちろん母と父と一緒にご飯を食べ、まだ学校には行けないけど、一人で近くのコンビニに行けるようになった。
確かにまだ、彼女が近くにいるのでは、彼女とばったり会うのではと不安になる。でも、今の僕は母と父のおかげで前向きでいられた。
ある夜、コンビニからの帰り道。
後頭部に強い衝撃を受け、倒れる。
頭が強く痛み、意識が薄れる。
ただ、目にぼんやりと映る影と、懐かしい匂いだけは感じた。
目を覚ますとそこは真っ暗な部屋だった。
首には首輪をはめられ、どうやら鎖で何かに繋がれているようだった。
ふと、部屋の扉が開き、明かりが付けられる。
眩しい光の中、そこで見えたのは部屋の壁一面に貼られた僕の写真と開いた扉の横に立つ彼女だった。
「おはよう」
彼女の手には包丁とスマホが握られていた。
「いいでしょ、この部屋」
僕はあまりの恐怖に声が出なかった。
「君の写真でいっぱい」
僕は頭を抱え、声にならない叫びを上げる。
「今日からここが君の住む場所」
彼女が何かを言っている。でも僕には分からない、分かりたくないと理解したくないと脳が拒絶する。
「今日からここが君と私のユートピア」
言葉を拒絶する僕の耳にカメラのシャッター音が届く。
何回も何回も聞こえるシャッター音に僕はようやく彼女の深すぎる愛を理解する。
本当に鈍感だったのは彼女ではなく、僕だった。
僕には中学校からお付き合いしている女性がいる。
彼女は付き合った当初から、勤勉で、オシャレで、いつも笑顔を絶やすことはない。
それは、高校に上がってからも変わららない。
そんな彼女は当然だが男子にモテる。だから、彼女の彼氏はさぞかしイケメンで、運動も勉強もできるだろうと噂されているのだが、蓋を開けてみれば前髪で目が隠れ、そばかすだらけの地味な男。
それが僕で、それが彼女の唯一の欠点だ。
彼女は告白される度に彼氏がいるからと断るのだが、僕はその度にみんなに自分がその彼氏だとバレないように知らんぷりをする。
だが、そんなことお構いなしに彼女は僕に絡んでくる。
朝はお家まで迎えに来て、教室ではお昼ご飯を一緒に食べようと誘ってくる。
その度に僕は登校する時に彼女と時間をずらして学校に入り、昼はまるで哀れな僕を彼女が気遣って話しかけているように見せる。
彼女と一緒に行動する度に周りの目が気になる。
そんな日々が嫌で、それとなく拒絶してみたり、それとなく別れを切り出してみたりするのだが、彼女は鈍感でそれに気づいてくれない。
もう嫌だ、限界だ、もう許してくれ、心がそう叫ぶ。
僕は知らない間に彼女のことが嫌いになっていた。
嫌いで、嫌いで、嫌いで、嫌いだから、彼女と会わないためにその日から学校に行くのを止めた。
それでも、彼女は毎朝会いに来る。
また、一緒に学校に行こう。
また、一緒にお弁当食べよう。
また、一緒に授業受けよう。
そんな言葉が、彼女の声で、彼女の口で、部屋の前でまるで呪言のように繰り返される。
いくら耳を塞いでも、いくら彼女に罵倒を放っても、いくら謝っても、やめてくれない。
おかしい、なんで僕にそこまでこだわる、僕に良いところなんて一つもないのに。
ある日、「もう来るな」と叫んで閉まっている扉に向かってスマホを投げる。
すると彼女は「分かった」と言って、部屋の前から去っていく。
最初僕は彼女の言葉を信じられなかった。だけど、翌日になっても彼女は来ず、その次の日も、その次の日も、彼女が来ることはなかった。
僕は心が、彼女から徐々に解放されていくのを感じた。
彼女が来なくなって一週間が経った。
時計を見ると9時で、外は暗い。
僕はさっき母が扉の前に置いていってくれたご飯を取って、ゆっくり食べた。
今日のご飯はハンバーグで、まだ少しだけ熱が残ってる。
おいしい。
母も父もずっと学校に行ってない僕を待ってくれているのだ。
そう思うと、涙がこぼれた。
僕は扉の前に食器をおくのではなく、今日はリビングまで運んだ。
最初、母も父も驚いていたけど、温かく抱きしめくれた。
そんな父と母の優しさに僕はまた泣いた。
その日から僕は徐々に部屋から出るようになった。
もちろん母と父と一緒にご飯を食べ、まだ学校には行けないけど、一人で近くのコンビニに行けるようになった。
確かにまだ、彼女が近くにいるのでは、彼女とばったり会うのではと不安になる。でも、今の僕は母と父のおかげで前向きでいられた。
ある夜、コンビニからの帰り道。
後頭部に強い衝撃を受け、倒れる。
頭が強く痛み、意識が薄れる。
ただ、目にぼんやりと映る影と、懐かしい匂いだけは感じた。
目を覚ますとそこは真っ暗な部屋だった。
首には首輪をはめられ、どうやら鎖で何かに繋がれているようだった。
ふと、部屋の扉が開き、明かりが付けられる。
眩しい光の中、そこで見えたのは部屋の壁一面に貼られた僕の写真と開いた扉の横に立つ彼女だった。
「おはよう」
彼女の手には包丁とスマホが握られていた。
「いいでしょ、この部屋」
僕はあまりの恐怖に声が出なかった。
「君の写真でいっぱい」
僕は頭を抱え、声にならない叫びを上げる。
「今日からここが君の住む場所」
彼女が何かを言っている。でも僕には分からない、分かりたくないと理解したくないと脳が拒絶する。
「今日からここが君と私のユートピア」
言葉を拒絶する僕の耳にカメラのシャッター音が届く。
何回も何回も聞こえるシャッター音に僕はようやく彼女の深すぎる愛を理解する。
本当に鈍感だったのは彼女ではなく、僕だった。