第1話

文字数 1,497文字

「あっ、にじ!」
 ひつじごやから、かけだすリリア。いぬのトムが、ワンワンほえながらあとをおいます。
 ここは、むらはずれのひつじぼくじょう。リリアはからだがよわく、よくねつをだしては、パパとママをしんぱいさせます。
「だったら、しばらくわしのぼくじょうにおいで。いなかはくうきもみずもきれいだから、リリアもきっとげんきになるさ。」
 おじいちゃんのことばどおり、ここへきてから、どんどんげんきになったリリア。
 いまでは、ひつじのせわをしたり、ぼくようけんのトムとかけっこしたり、たのしいまいにちをおくっていました。
 そんなリリアが、だいすきなもの。
 それは、にじ。
 あめがあがると、ひろいそらに、それはそれはうつくしいにじがかかるのです。
 あか だいだい きいろ みどり あお あいいろ むらさき
 やまとやまをまたぐ、なないろのにじ。
(ああ、なんてきれい……)
 うっとりと、みとれるリリアでした。

 ですが、そのひは、いつもとちがいました。
 にじのかたほうは、とおくのやまへ。
 もうかたほうが、なんと、ひつじたちがいるぼくそうちにかかっていたのです。
「あっ、にじのうえにだれかいる!」
「ワンワン!」
 リリアとトムがちかづくと、なんとにじのはしに、かわいらしいおんなのこがすわり、しくしくないています。
「ねえ、どうしてないているの?」
 リリアがたずねました。
「にじのあしをかじられてしまったの。」
「にじのあし?」
 よくみると、たしかににじのあしもとに、かみちぎられたあとが……。
「ほんとだ。だれがこんなわるさをしたの?」
「オオカミよ。はいいろのボスオオカミ。しってる?」
「うん。ときどきむれでぼくじょうにきて、ひつじをおそうの。」
「ガルル~」
 うなりごえをあげるトム。オオカミには、おじいちゃんもなやまされているのです。
 にじのうえのおんなのこが、かなしそうにいいました。
「わたしは、にじひめ。きれいなにじをかけるのがしごとなの。あなたのなまえは?」
「リリア。このおりこうないぬは、トム。ねえ、にじがかじられるとどうなるの?」
「しごとができなくなるわ。あめがやんでも、にじをかけられない……それがかなしくて。」
 にじひめのめから、なみだがぽろぽろ。
「そんなのだめよ。ね、おじいちゃんにそうだんしましょ。オオカミをつかまえるの!」

 そしてまよなか。つきにてらされたぼくそうちに、いっとうのひつじがつながれていました。ですがふしぎ。このひつじ、からだがなないろなのです。あたまからひづめのさきまで、キラキラピカピカ。
 そこへ、おおきなくろいかげがしのびより、ひつじにとびかかりました。すると――
「ワワワン!」
 なんと、くびもとにかみついたのは、トム。にじひめのショールをかぶっていたのです。
「ボスオオカミめ、とうとうつかまえたぞ。」
 おじいちゃんに、なわでぐるぐるまきにされたオオカミ。なきながらあやまります。
「ごめんなさい。ゆるしてくれ~」
 リリア、きっとにらんでいいました。
「かじったにじをかえしたらね。それと、にどとひつじをおそわないこと!」
「や、やくそくします……」

 こうして、ぶじにとりもどしたにじのきれはし。
 つぎのひ、にじひめにわたすと、にじはもとどおりになりました。
「ありがとう、リリア、トム。おれいににじのすべりだいにのせてあげる。」
「ほんと? わ~い!」
「ワ~ン!」
 かぜをきり、なないろのすべりだいをすべるリリア。トムもしっぽをふって、あとにつづきます。
「ヒャッホ~、おじいちゃ~ん!」
「ワオ~ン!」
 えがおでみあげているおじいちゃんとひつじたち。リリアはおおきく、てをふりました。

 
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