第2話 事件

文字数 794文字

「さすがは名探偵だ。聞かせてくれ」
「これは、じさ……」
「あの辞書、怪しくない?」
 妖精が割って入り、市毛は指差す方を見た。
「ネットで調べればいいのに、キレイなのが一冊だけあるっておかしいよね。ていうか、自殺って言おうとした? 足跡とか頭の傷とか、どう説明すんの?」
「……靴のまま上がって、あの金の像で自分の頭を殴った」
 すごい力で妖精が体を引っ張った。
「ト、トイレ行ってきます」
「こちらです」
 比嘉の妻について、市毛は階段を下りていった。残った五味刑事と部下で推理を続ける。
「本棚を見てましたが」
「ああ、この辞書がどうかしたのかな」
 五味刑事が辞書を取ろうと手前に引くと、本棚が少し動いた。
「これは!?」
 本棚を横にスライドさせる。すると裏に空間があり、中には血の付いたハンマーを持った男がいた。

 手錠を掛けられた犯人が、パトカーに乗せられる。男はこの家に携わった建設業者で、夫婦で外出する予定を知っていて、隠し部屋から金の像を持ち出そうとした時に比嘉が帰ってきて、揉み合いになったのだった。
「隠し部屋に気づいたことを犯人に知られてはいけない、そう思って我々に視線だけで伝え、さらに被害者の妻が巻き込まれないよう、部屋の外に誘導したのだよ」
「勉強になります。ところで、その名探偵は……」
 五味刑事と部下の元へ警察官が駆け寄ってくる。
「大変です。トイレで人が」
 開いた小窓から中をのぞくと、下は履いたまま、こめかみにボールペンが刺さった状態で、便座に腰掛けながら死んでいる市毛の姿があった。ドアは施錠されていて、中から言い争う声が聞こえたという供述もあったが、スマホにこの時間に通話した履歴はなかった。
 小窓は赤ん坊くらいしか通れない大きさで、捜査中に外部から侵入することもできない。五味刑事は謎を解くことができず、絶対不可能密室殺人事件として迷宮入りした。犯人は誰で、動機は何だったのか?
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