その6
文字数 1,656文字
私が眠っていると、深夜、幽霊の妻に揺り起こされた。
「どうしたがぞ、夜中に?」
私が寝ぼけた顔で言うと、妻が、
「ねぇねぇ、ワタシとアナタが映画館で最後に観た映画、何というタイトルやったかねぇ?
ずうっと考えようがやけんど、どうしたち思い出せんがよ。ほら、宮崎駿監督の最後から一つ前の作品で、小さな女の子が主人公で、女の子が男の子とボートに乗るやつよ、アナタ覚えちょらん?」
夜中に突然起こしてまで、聞いてくる内容の話ではないと、一瞬腹を立てそうになったが、幽霊の妻でも、こうして会えると嬉しいのである。
「何やったかにや……。そうそう、『ポニョ』『ポニョ』よや。『崖に立つポニョ』じゃ、なかったかにや」
「アッ思い出した、『崖の上のポニョ』だったね。そうよそうよ。
ああ思い出せて良かったちや。何か喉まで出かけちょうがに、思い出せんがって、糞詰まりみたいで嫌やし、スッキリできて良かった。アナタでも少しは役に立つことあるがやね、まあ、『崖に立つポニョ』じゃないけんどね。
それにしても、どうしてアナタは、いっつも、お覚え方が、中途半端ながやろうかね。アナタって何一つ最後まで、完全に覚えられんもんね」
「オイオイ、自分は全く覚えちょらったくせに、人がちょっと間違えたけんって、その言い草は無いろうが」
私はいつものことながら、妻の自己中な言い方に、少しムッとした。
「あの時の事、よく覚えちょうがよ。本当に映画が楽しかったけん、ええ気分やったがに、帰りの車の中でアナタに感想聞いたら、『別にそれほどでも』ってゆうたがよね。あれでワタシの幸せな気分が一気に冷めたがよ。アナタと何かするといっつもそうなが。アナタに意見を求めたワタシが、バカやったけんど。
しかし、本当にアナタは女心が分からんし、一緒に行動しても何一つ楽しいことが無いがよね。その時の夕食やち、本当は帰りに『スシロー』で食べたかったがに、自分がお腹空いちょうもんやけん、並んで待てんとかゆうて、結局『大介うどん』で食べたがよね。アナタはそれで良かったかもしれんけんど、ワタシは『スシロー』の天ぷら寿司が食べたかったがに、アナタがワタシの楽しみをいっつも奪うがよね。本当にアナタと行動すると碌なことが無い」
妻の愚痴は、何時もの様に食べ物の事に発展していく。
「まあアナタは、交際中のワタシを『豚太郎』に連れて行くような人やったけんね。
おしゃれなレストランなんて、今迄連れて行ってもろうたことなんか一度もないけんね。いっつも行くがは、土方のオンチャンが食べに来るような大衆食堂か、小汚いラーメン屋、そんな処しかアナタには、連れて行ってもろうたことが無いしね。本当にムードもヘッタクレもないもんね。
アナタみたいなガサツで野蛮な人には、それでもええかもしれんけんど、うら若き乙女が、どうして中年のオッサンしか来んような店で食べんといかんがよ。あの時アナタと結婚するが、止めちょったら良かった。本当に後悔するちや」
「しかしオマエやち、『豚太郎』の唐揚げ美味いゆうて食べよったやいか」
「あれは先代の親父さんが作りよった時の味やけん。息子になったら味が固定せんし、ダメになったがよ。あそこで食べるがやったら、自分で作って食べたほうが、よっぽど美味しいし、ましやけん」
妻の唐揚げはお世辞じゃなく、美味しいのである。
「それにしても、オマエも向こうでは、よっぽど暇ながか、何か知らんけんど、夜中にそんな用件で起こすがは、こらえてくれんか」
「ゴメン、そのことは素直に謝る。けんどね、あっちの世界とこっちの世界の時間差がよう分からんけん、何故かしらんけんど、出て来た時は夜中過ぎになっちょうがよ」
あっちの時間の事は私には理解できないが、どうやら妻が意図的に、深夜に現れていないことは、理解できた。
「まあ、オレにしたら、オマエに会えるがやったら、いつ出て来ても嬉しいけんどね」
と私が言うと、
「調子のええ事ゆうて、ワタシはもうアナタに騙されんけんね」
と妻が言って、笑った。
「どうしたがぞ、夜中に?」
私が寝ぼけた顔で言うと、妻が、
「ねぇねぇ、ワタシとアナタが映画館で最後に観た映画、何というタイトルやったかねぇ?
ずうっと考えようがやけんど、どうしたち思い出せんがよ。ほら、宮崎駿監督の最後から一つ前の作品で、小さな女の子が主人公で、女の子が男の子とボートに乗るやつよ、アナタ覚えちょらん?」
夜中に突然起こしてまで、聞いてくる内容の話ではないと、一瞬腹を立てそうになったが、幽霊の妻でも、こうして会えると嬉しいのである。
「何やったかにや……。そうそう、『ポニョ』『ポニョ』よや。『崖に立つポニョ』じゃ、なかったかにや」
「アッ思い出した、『崖の上のポニョ』だったね。そうよそうよ。
ああ思い出せて良かったちや。何か喉まで出かけちょうがに、思い出せんがって、糞詰まりみたいで嫌やし、スッキリできて良かった。アナタでも少しは役に立つことあるがやね、まあ、『崖に立つポニョ』じゃないけんどね。
それにしても、どうしてアナタは、いっつも、お覚え方が、中途半端ながやろうかね。アナタって何一つ最後まで、完全に覚えられんもんね」
「オイオイ、自分は全く覚えちょらったくせに、人がちょっと間違えたけんって、その言い草は無いろうが」
私はいつものことながら、妻の自己中な言い方に、少しムッとした。
「あの時の事、よく覚えちょうがよ。本当に映画が楽しかったけん、ええ気分やったがに、帰りの車の中でアナタに感想聞いたら、『別にそれほどでも』ってゆうたがよね。あれでワタシの幸せな気分が一気に冷めたがよ。アナタと何かするといっつもそうなが。アナタに意見を求めたワタシが、バカやったけんど。
しかし、本当にアナタは女心が分からんし、一緒に行動しても何一つ楽しいことが無いがよね。その時の夕食やち、本当は帰りに『スシロー』で食べたかったがに、自分がお腹空いちょうもんやけん、並んで待てんとかゆうて、結局『大介うどん』で食べたがよね。アナタはそれで良かったかもしれんけんど、ワタシは『スシロー』の天ぷら寿司が食べたかったがに、アナタがワタシの楽しみをいっつも奪うがよね。本当にアナタと行動すると碌なことが無い」
妻の愚痴は、何時もの様に食べ物の事に発展していく。
「まあアナタは、交際中のワタシを『豚太郎』に連れて行くような人やったけんね。
おしゃれなレストランなんて、今迄連れて行ってもろうたことなんか一度もないけんね。いっつも行くがは、土方のオンチャンが食べに来るような大衆食堂か、小汚いラーメン屋、そんな処しかアナタには、連れて行ってもろうたことが無いしね。本当にムードもヘッタクレもないもんね。
アナタみたいなガサツで野蛮な人には、それでもええかもしれんけんど、うら若き乙女が、どうして中年のオッサンしか来んような店で食べんといかんがよ。あの時アナタと結婚するが、止めちょったら良かった。本当に後悔するちや」
「しかしオマエやち、『豚太郎』の唐揚げ美味いゆうて食べよったやいか」
「あれは先代の親父さんが作りよった時の味やけん。息子になったら味が固定せんし、ダメになったがよ。あそこで食べるがやったら、自分で作って食べたほうが、よっぽど美味しいし、ましやけん」
妻の唐揚げはお世辞じゃなく、美味しいのである。
「それにしても、オマエも向こうでは、よっぽど暇ながか、何か知らんけんど、夜中にそんな用件で起こすがは、こらえてくれんか」
「ゴメン、そのことは素直に謝る。けんどね、あっちの世界とこっちの世界の時間差がよう分からんけん、何故かしらんけんど、出て来た時は夜中過ぎになっちょうがよ」
あっちの時間の事は私には理解できないが、どうやら妻が意図的に、深夜に現れていないことは、理解できた。
「まあ、オレにしたら、オマエに会えるがやったら、いつ出て来ても嬉しいけんどね」
と私が言うと、
「調子のええ事ゆうて、ワタシはもうアナタに騙されんけんね」
と妻が言って、笑った。
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