短編小説
文字数 4,252文字
「ピーピー、ピーピー」、目覚まし時計が鳴り、男は静かに起き上がりそれを止める。
男の名は、夜川靖典、30歳独身、アパート暮らし。
「やべぇ、もうこんな時間。会社に遅刻する。」
いつもより遅い目覚めに焦る男はテレビの電源をつけるが、いつもと違う番組がやってることに気づく。
「なんだ、今日は休みか。」
会社が休みであることに気づき、静かに立ち上がり朝食を求めて台所へ向かう。朝食のバナナを片手に男が部屋に戻ると、ある異変に気付く。
「ん、、、」
男が見つめる先にはぽっかりと空いた「あな」。部屋の隅の床に約20cm程の穴が開いていることに気づく。
「穴?なんで穴が開いてんだ、、、」男は思い当たる節を探る。
そして、昨日は会社の同僚と飲み会があり、記憶がなくなるほど飲んでいたことを思い出す。
「やっちまった。」
男は酔った勢いで床に穴を開けてしまったと推測した。後悔の後、弁償のことが頭をよぎり、穴の大きさを確認する。
「にしても何をしたらこんなきれいな穴が開くんだ。いくらボロ屋だからって穴が開くほどのことをしたのかよ、、、」
男は穴の中を覗き込むが暗い世界が広がっており何も見えない。部屋は1階であり、抜けた床が落ちてないか探るためスマホのライトで穴の中を照らすが何も見えない。
「どんだけ深いんだよ。」
男は不思議に思いながら今度は片腕を穴に入れてみるが何も触れることは出来ない。
「大家さんに何て言おう。弁償する金なんてないのに。」
しぶしぶスマホを操作し大家の連絡先を探す途中、あることを思い出す。
「そういえば、アパートの掲示板にしばらく旅行で家を空けるて書いてあったけな。」
そう言って男は弁償代が貯まるまではこのことを大家に黙っていることに決めた。
「黙っておくにしてもとりあえず塞がないと。」
そう思い、穴の横に置いてあった雑誌で穴を塞ごうとしたその時、雑誌の上に置いていた朝食のバナナを誤って穴の中に落としてしまった。
「あっっ。」
とっさに手を伸ばすが間に合わず、バナナは穴の中に落ちていく。朝食を逃した男は落胆しながらも雑誌で穴を塞ぎ、そのまま一日を過ごした。
― 翌朝
目覚めた男はいつもどおり朝食を求め台所に向かう途中、昨日のことを思い出し、穴の方へ目を向ける。すると、思いもよらないことが起こっていることに気づく。
「昨日落としたはずのバナナ、、、が、、、2つ?」
なんと、蓋としていた雑誌の上にバナナが2本置いてある。一瞬、超常現象的な事を連想するが、さすがにそんなはずないと考え直す。
「まさかな。昨日食べようと思って置いたに違いない」
そう思いながら雑誌をどかしてみる。
すると、穴の大きさが昨日より少し大きくなっていることに気づく。
さすがにおかしいと思い、穴の中を確認するが何も見えない。男はおもむろに財布から100円玉を一枚取り出し穴の中に落としてみる。
しばらくするが音は返ってこない。
男は気味が悪くなり、再び雑誌を穴の上に置き、その日は穴の方を見ないことにした。
― 翌朝
寝坊した男は急いで支度をし、会社へと向かう。
そして、何事もなく一日を終えた男はアパートへと帰宅する。
部屋に入り明かりをつけた男は部屋の片隅の光る物に目を向ける。
「うそだろ、、、」
目線の先は「あな」。そして雑誌の上には昨日落としたはずの100円玉が2つ。
慌てて穴の方に近寄り、100円玉を確認する。
「間違いなく100円だよな。こんなことあるかよ、、、」
男は続く怪奇現象に恐怖を覚えるが、しばらくしてあることを思いつく。
「穴に入れたものは倍になるってことだよな。じゃあ大金を入れれば、、、」
男は期待に胸を膨らませるが、ふと、我に返る。
「でも貯金がない。地道に増やすしかないが大金にするには時間がかかるし、必ず返ってくるとも限らないし。」
「でも大金が手に入るチャンスだ。とりあえず、手持ちの1万円札を試しに入れてみるか、、、」
男は財布から1万円札を抜き出し、恐る恐る穴の上に差し出す。
「(ゴクリッ)。給料日はまだ先だが、試さずにはいられない。増えてくれ!」
そう言って男は穴の中に1万円札を落とした。
穴の前で何度か両手を合わせ、その日は眠りに付いた。
― 翌朝
目覚めた男はすぐに昨日のことを思い出し、恐る恐る穴の方へ目を向ける。
すると、なんと雑誌の上には1万円札が2枚。
「やった、やったぞ!」
男ははしゃぎ喜び、増えた1万円札に目を向ける。
「製造番号は違うな。全く同じものではないのか。」
と不思議に思うが、そんなことよりお金が増えた事が嬉しく浮かれている。
落ち着きを取り戻した頃、雑誌をどかし穴を確認するとさらに穴が大きく広がっていることに気づく。
しかし、男は気にせず、雑誌の代わりに大きめの段ボールを穴の上に置いて蓋をし、その後、会社へと向かった。
仕事が終わり、帰りの電車の中、ふと広告を見てひらめいた。
「これだ!」
男は次の駅で電車を降り、ある場所へ向かった。
「借りれるだけ借りたいんです。利子はいくらでもいいですから。」
男は消費者金融に相談していた。すぐに返すあてがあったため条件はいとわなかったし、大金を前に興奮しているため、一刻も早く借りたかったのだ。
数日後、消費者金融から連絡があり、1000万円ほど借れることになった。
借り受けの当日、男はこのことを誰かに言いたくてしょうがなかったが本当のことは言えないため、競馬で万場券を当てた、と会社の同僚に自慢して言いまわった。
男は消費者金融から1000万円を受け取りアパートへと帰る。
部屋に入り一目散に穴の前に向かい、息を整える。
「頼む。増えてくれ。俺の一生がかかってるんだ。」
1000万円という大金を前になかなか決心がつかない男はしばらくの間、穴の前を行ったり来たりしていたがようやく決心がつき、
「穴の中の神様、どうかお願いします。」
といい、札束を穴の中に放り込んだ。
その後、しばらくは穴の中を覗いていたが次第に落ち着きを取り戻し、眠気が男を襲う。
男は布団に入り、睡眠薬を飲んだかのように深い眠りについた。
ギシギシギシ、メキメキ
深夜に部屋中に異音が響き渡る。
深い眠りについていたはずの男も次第に意識が戻ってくる。
ギシギシギシ、メキメキ
「何の、、、音だ、、、」
男は次第に自分の足が軽くなっていく様な感覚を覚えた。
ギシギシギシ、メキメキ
男は静かに目を開け、自分の足の方に目を向ける。
「うわぁぁーー」
夢見心地で状況を探っていた男は一気に目を覚まし、一瞬で恐怖のどん底へ落ちた。
「おちる、助けてくれー」
なんと、「あな」が男の足元からみるみるうちに広がって行き、既に部屋の大部分に大きな穴が開いていた。
「あな」は止まることを知らずにどんどん男の方へ迫っていく。
男は逃げ場を失い、部屋の隅へ逃げるが穴はどんどん広がって行く。
ギシギシギシ、メキメキ
異様な音と共に広がる「あな」はとうとう男の居場所を飲み込み始め行く。
「うわっ」
男は耐え切れず「あな」の中に落ちてしまうが、なんとか右手一本で残った床に掴まる。
しかし、男の握力が無くなったのが先か、床が無くなったのが先か定かではないが、男は静かに穴の中に落ちていった。
「あな」は男の部屋の床をすべて飲み込み、真っ暗な夜の世界に同化した。
「ピーピー、ピーピー」
目覚ましを止める男。
いつも通り朝食を求め台所へ向かい、バナナを片手に部屋に戻る。
「あれ。」
昨日の事を思い出し、一瞬、恐怖を思い出すが、すぐに夢と気づき苦笑いを浮かべる。
「夢か。そりゃそうだよな。」
男は安心したが、穴のことが気になり恐る恐る穴の方を振り返る。
「えっ。」
男は先ほど払拭した疑念を撤回した。
目線の先にはまぎれもない大金、2000万円が存在している。
「やった、やったーーーー」
「やっぱり夢じゃなかったんだ!」
男ははしゃぎまわり札束を手に床の上を転げ回る。
その後、男は穴の存在を思い出し、蓋をしていた段ボールを恐る恐るめくる。
すると、段ボールにあったはずの穴はきれいになくなっていた。男は安堵し、先ほど食べかけていた朝食のバナナのことを思い出し、机に向かう。テレビをつけ、バナナを食べながらいつも見ているニュース番組に目を向ける。
「えっ」
「おれ、、、なんで、、、」
男はそのニュースを呆然として眺めている。
「昨夜、○○銀行に泥棒が侵入し、1000万円を盗み逃走しました。銀行には防犯カメラが設置されており、警察による動画回析の結果、市内に住む会社員、夜川靖典容疑者(30)であることが判明しました。容疑者は現在も逃走しており、警察が捜索を行っています。」
「夜川容疑者は多額の借金をしていたことが判明しており、また、容疑者の同僚からの情報によると、ギャンブルにはまっていたことが判っています。このことから容疑者はギャンブル依存症により多額の負債を抱えていたことが推測されます。」
「どうなってんだ。まさか、、、」
男は自身が穴に落ちた事を思い出し、最悪の推測を立てる。
「速報が入りました。10分前に○○駅の防犯カメラが夜川容疑者を捕らえました。こちらの映像をご覧ください。」
テレビに映し出された映像は間違いなく夜川の姿である。
「ただ、、、」
「ただ、映像の乱れなのか定かではありませんが、電車に乗る瞬間、容疑者の姿が突如、防犯カメラの映像から消えました。現在各駅に警察が配置され、容疑者を捜索していますが、依然容疑者は捕まっていないとのことです。」
「消えた?」
混乱しながら男は必死で状況整理を行う。そして、一つの疑問が生じる。
その疑問を確かめるため、振り返ると。
10分前まであったはずの大金の半分が姿を消していた。
「ゴンゴン!」
「警察だ、開けろ」
部屋に残っているのは借りた1000万円と自分ただ一人。
男は頭が真っ白なり、必至で「あな」を探すが、二度と「あな」は現れることはなかった。
男の名は、夜川靖典、30歳独身、アパート暮らし。
「やべぇ、もうこんな時間。会社に遅刻する。」
いつもより遅い目覚めに焦る男はテレビの電源をつけるが、いつもと違う番組がやってることに気づく。
「なんだ、今日は休みか。」
会社が休みであることに気づき、静かに立ち上がり朝食を求めて台所へ向かう。朝食のバナナを片手に男が部屋に戻ると、ある異変に気付く。
「ん、、、」
男が見つめる先にはぽっかりと空いた「あな」。部屋の隅の床に約20cm程の穴が開いていることに気づく。
「穴?なんで穴が開いてんだ、、、」男は思い当たる節を探る。
そして、昨日は会社の同僚と飲み会があり、記憶がなくなるほど飲んでいたことを思い出す。
「やっちまった。」
男は酔った勢いで床に穴を開けてしまったと推測した。後悔の後、弁償のことが頭をよぎり、穴の大きさを確認する。
「にしても何をしたらこんなきれいな穴が開くんだ。いくらボロ屋だからって穴が開くほどのことをしたのかよ、、、」
男は穴の中を覗き込むが暗い世界が広がっており何も見えない。部屋は1階であり、抜けた床が落ちてないか探るためスマホのライトで穴の中を照らすが何も見えない。
「どんだけ深いんだよ。」
男は不思議に思いながら今度は片腕を穴に入れてみるが何も触れることは出来ない。
「大家さんに何て言おう。弁償する金なんてないのに。」
しぶしぶスマホを操作し大家の連絡先を探す途中、あることを思い出す。
「そういえば、アパートの掲示板にしばらく旅行で家を空けるて書いてあったけな。」
そう言って男は弁償代が貯まるまではこのことを大家に黙っていることに決めた。
「黙っておくにしてもとりあえず塞がないと。」
そう思い、穴の横に置いてあった雑誌で穴を塞ごうとしたその時、雑誌の上に置いていた朝食のバナナを誤って穴の中に落としてしまった。
「あっっ。」
とっさに手を伸ばすが間に合わず、バナナは穴の中に落ちていく。朝食を逃した男は落胆しながらも雑誌で穴を塞ぎ、そのまま一日を過ごした。
― 翌朝
目覚めた男はいつもどおり朝食を求め台所に向かう途中、昨日のことを思い出し、穴の方へ目を向ける。すると、思いもよらないことが起こっていることに気づく。
「昨日落としたはずのバナナ、、、が、、、2つ?」
なんと、蓋としていた雑誌の上にバナナが2本置いてある。一瞬、超常現象的な事を連想するが、さすがにそんなはずないと考え直す。
「まさかな。昨日食べようと思って置いたに違いない」
そう思いながら雑誌をどかしてみる。
すると、穴の大きさが昨日より少し大きくなっていることに気づく。
さすがにおかしいと思い、穴の中を確認するが何も見えない。男はおもむろに財布から100円玉を一枚取り出し穴の中に落としてみる。
しばらくするが音は返ってこない。
男は気味が悪くなり、再び雑誌を穴の上に置き、その日は穴の方を見ないことにした。
― 翌朝
寝坊した男は急いで支度をし、会社へと向かう。
そして、何事もなく一日を終えた男はアパートへと帰宅する。
部屋に入り明かりをつけた男は部屋の片隅の光る物に目を向ける。
「うそだろ、、、」
目線の先は「あな」。そして雑誌の上には昨日落としたはずの100円玉が2つ。
慌てて穴の方に近寄り、100円玉を確認する。
「間違いなく100円だよな。こんなことあるかよ、、、」
男は続く怪奇現象に恐怖を覚えるが、しばらくしてあることを思いつく。
「穴に入れたものは倍になるってことだよな。じゃあ大金を入れれば、、、」
男は期待に胸を膨らませるが、ふと、我に返る。
「でも貯金がない。地道に増やすしかないが大金にするには時間がかかるし、必ず返ってくるとも限らないし。」
「でも大金が手に入るチャンスだ。とりあえず、手持ちの1万円札を試しに入れてみるか、、、」
男は財布から1万円札を抜き出し、恐る恐る穴の上に差し出す。
「(ゴクリッ)。給料日はまだ先だが、試さずにはいられない。増えてくれ!」
そう言って男は穴の中に1万円札を落とした。
穴の前で何度か両手を合わせ、その日は眠りに付いた。
― 翌朝
目覚めた男はすぐに昨日のことを思い出し、恐る恐る穴の方へ目を向ける。
すると、なんと雑誌の上には1万円札が2枚。
「やった、やったぞ!」
男ははしゃぎ喜び、増えた1万円札に目を向ける。
「製造番号は違うな。全く同じものではないのか。」
と不思議に思うが、そんなことよりお金が増えた事が嬉しく浮かれている。
落ち着きを取り戻した頃、雑誌をどかし穴を確認するとさらに穴が大きく広がっていることに気づく。
しかし、男は気にせず、雑誌の代わりに大きめの段ボールを穴の上に置いて蓋をし、その後、会社へと向かった。
仕事が終わり、帰りの電車の中、ふと広告を見てひらめいた。
「これだ!」
男は次の駅で電車を降り、ある場所へ向かった。
「借りれるだけ借りたいんです。利子はいくらでもいいですから。」
男は消費者金融に相談していた。すぐに返すあてがあったため条件はいとわなかったし、大金を前に興奮しているため、一刻も早く借りたかったのだ。
数日後、消費者金融から連絡があり、1000万円ほど借れることになった。
借り受けの当日、男はこのことを誰かに言いたくてしょうがなかったが本当のことは言えないため、競馬で万場券を当てた、と会社の同僚に自慢して言いまわった。
男は消費者金融から1000万円を受け取りアパートへと帰る。
部屋に入り一目散に穴の前に向かい、息を整える。
「頼む。増えてくれ。俺の一生がかかってるんだ。」
1000万円という大金を前になかなか決心がつかない男はしばらくの間、穴の前を行ったり来たりしていたがようやく決心がつき、
「穴の中の神様、どうかお願いします。」
といい、札束を穴の中に放り込んだ。
その後、しばらくは穴の中を覗いていたが次第に落ち着きを取り戻し、眠気が男を襲う。
男は布団に入り、睡眠薬を飲んだかのように深い眠りについた。
ギシギシギシ、メキメキ
深夜に部屋中に異音が響き渡る。
深い眠りについていたはずの男も次第に意識が戻ってくる。
ギシギシギシ、メキメキ
「何の、、、音だ、、、」
男は次第に自分の足が軽くなっていく様な感覚を覚えた。
ギシギシギシ、メキメキ
男は静かに目を開け、自分の足の方に目を向ける。
「うわぁぁーー」
夢見心地で状況を探っていた男は一気に目を覚まし、一瞬で恐怖のどん底へ落ちた。
「おちる、助けてくれー」
なんと、「あな」が男の足元からみるみるうちに広がって行き、既に部屋の大部分に大きな穴が開いていた。
「あな」は止まることを知らずにどんどん男の方へ迫っていく。
男は逃げ場を失い、部屋の隅へ逃げるが穴はどんどん広がって行く。
ギシギシギシ、メキメキ
異様な音と共に広がる「あな」はとうとう男の居場所を飲み込み始め行く。
「うわっ」
男は耐え切れず「あな」の中に落ちてしまうが、なんとか右手一本で残った床に掴まる。
しかし、男の握力が無くなったのが先か、床が無くなったのが先か定かではないが、男は静かに穴の中に落ちていった。
「あな」は男の部屋の床をすべて飲み込み、真っ暗な夜の世界に同化した。
「ピーピー、ピーピー」
目覚ましを止める男。
いつも通り朝食を求め台所へ向かい、バナナを片手に部屋に戻る。
「あれ。」
昨日の事を思い出し、一瞬、恐怖を思い出すが、すぐに夢と気づき苦笑いを浮かべる。
「夢か。そりゃそうだよな。」
男は安心したが、穴のことが気になり恐る恐る穴の方を振り返る。
「えっ。」
男は先ほど払拭した疑念を撤回した。
目線の先にはまぎれもない大金、2000万円が存在している。
「やった、やったーーーー」
「やっぱり夢じゃなかったんだ!」
男ははしゃぎまわり札束を手に床の上を転げ回る。
その後、男は穴の存在を思い出し、蓋をしていた段ボールを恐る恐るめくる。
すると、段ボールにあったはずの穴はきれいになくなっていた。男は安堵し、先ほど食べかけていた朝食のバナナのことを思い出し、机に向かう。テレビをつけ、バナナを食べながらいつも見ているニュース番組に目を向ける。
「えっ」
「おれ、、、なんで、、、」
男はそのニュースを呆然として眺めている。
「昨夜、○○銀行に泥棒が侵入し、1000万円を盗み逃走しました。銀行には防犯カメラが設置されており、警察による動画回析の結果、市内に住む会社員、夜川靖典容疑者(30)であることが判明しました。容疑者は現在も逃走しており、警察が捜索を行っています。」
「夜川容疑者は多額の借金をしていたことが判明しており、また、容疑者の同僚からの情報によると、ギャンブルにはまっていたことが判っています。このことから容疑者はギャンブル依存症により多額の負債を抱えていたことが推測されます。」
「どうなってんだ。まさか、、、」
男は自身が穴に落ちた事を思い出し、最悪の推測を立てる。
「速報が入りました。10分前に○○駅の防犯カメラが夜川容疑者を捕らえました。こちらの映像をご覧ください。」
テレビに映し出された映像は間違いなく夜川の姿である。
「ただ、、、」
「ただ、映像の乱れなのか定かではありませんが、電車に乗る瞬間、容疑者の姿が突如、防犯カメラの映像から消えました。現在各駅に警察が配置され、容疑者を捜索していますが、依然容疑者は捕まっていないとのことです。」
「消えた?」
混乱しながら男は必死で状況整理を行う。そして、一つの疑問が生じる。
その疑問を確かめるため、振り返ると。
10分前まであったはずの大金の半分が姿を消していた。
「ゴンゴン!」
「警察だ、開けろ」
部屋に残っているのは借りた1000万円と自分ただ一人。
男は頭が真っ白なり、必至で「あな」を探すが、二度と「あな」は現れることはなかった。