第1話

文字数 1,558文字

「わかな、『ももちゃん』ってしってる?」
 きんようび、ゆうごはんのシチューをたべながら、ママがたずねました。
「ももちゃん? しらなーい。」
 おにくを、スプーンでおいかけるわかな。
「きょう、びょういんでね、おばあちゃんのでんごんをきいたの。わかなに、『へやのももちゃんを、よろしく』だって。」
「……おばあちゃん、だいじょうぶかな?」
 だいすきなおばあちゃんが、びょうきでにゅういんして、にかげつ。おみまいにいきたくても、かぞくですらあわせてもらえません。
「だいじょうぶよ。きっとかんちがいね。」
 ままが、さみしそうにほほえみました。

 そのよる、ねるまえに、おばあちゃんのへやをのぞいたわかな。でんきをつけ、ちょこんとベッドにこしかけます。
(このおへやに、ももちゃんがいるの?)
 きちんとかたづいたへや。たなには、くまのおきものや、おかっぱあたまのにんぎょうがかざられています。 
「……ももちゃん、いますか?」
 おそるおそる、たずねたわかな。すると、たなのおくから、ちいさなこえが……。
「ここじゃ。」
「えっ⁉」
 それは、てのひらにすっぽりはいるほど、ちいさなきのこけし。いろあせた、はながらもようのきものをきて、きつねのようにほそいめ。いばったように、つんつんいいました。
「みさどのは、どこじゃ? わらわをほっぽらかしにして。たいくつさせるでない!」
「えっと、それって、おばあちゃんのこと? びょうきでにゅういんしてるの。」
「なんと、それはいちだいじ! はよう、わらわをつれてゆけ。やまいをなおさねば。」
「だめ、あえないもん。」
「なぜじゃ? そなた、なまえは?」
「わかな……です。」
「おお、みさどののたからものか。やっとあえたの。わらわは『ももひめ』、『ももちゃん』とよぶがよい。」
 ほっぺにえくぼをうかべ、ほほえむこけし。うれしくて、わかなもにっこり。
「はじめまして。ももちゃんは、おばあちゃんのおともだち?」
「そうじゃ。こどものころからな。それよりわかなどの、なぜ、みさどのにあえぬ?」
 それから、ふたりでこそこそ――ひみつのそうだんをはじめたのです。
 
 そして、にちようびのごご。ここは、となりまちのびょういんです。わかなはゆうきをだし、ひとりでバスでやってきました。
「こんにちは。あの、おばあちゃんの『ささきみさ』へわたしてください。」
「わかりました。あずかりま……あら?」
 あたりをみまわす、うけつけのおねえさん。おんなのこのこえがしたのに、ちいさなかみぶくろだけが、おかれていたからです。
「へんね、どこへいったのかしら?」

 こうして、びょうしつへとどけられたかみぶくろ。べっどのおばあちゃんが、ももいろのリボンをほどくと、なかから、かわいらしいこけしがふたつあらわれました。そろって、
「みさどの!」
「おばあちゃん!」
「まあ、ももちゃん! わかな!」
 おどろいたおばあちゃん。ももちゃんがまほうをかけ、わかなをこけしにかえたのです。
「ああ、うれしい。あいたかったよ~」
 なみだをこぼし、てのひらに、こけしたちをのせたおばあちゃん。
「みさどの、やまいなどすぐになおしてやる。わかなどの、あとはわらわにまかせよ。」
「うん。おねがいね、ももちゃん!」
 へんじのかわりに、ももちゃんが、パチリとウィンク――するとあっというまに、わかなは、いえのおばあちゃんのへやへもどっていました。

 こうして、つぎのしゅうまつ、たいいんしたおばあちゃん。
「おかえりなさい!」
 げんかんで、おばあちゃんに、だきつくわかな。みみもとで、「ももちゃんは?」
「ウフフ、ここだよ」
 てさげぶくろのなかで、ほほえむももちゃん。ゆびで、ちいさくブイサイン。
「おかえり、ももちゃん。ありがとう」
 ももちゃんに、パチリとウィンクしてみせたわかなでした。
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