1日の偶然性

文字数 1,788文字

 7月26日水曜日。

 目覚ましの音に合わせて起床。ベッドから起き上がると、私は決まってカーテンを開けて日の光を浴びる。

 朝食は牛乳と食パンだ。食パンにはハム・チョコ・イチゴジャムのどれかを乗っけて食べる。今日はチョコにしよう。

 朝食を終えた後、着替えに化粧と身なりを整えて外に出る。会社は原則スーツのため選ぶ必要はない。ただ、スーツにつける香水はフローラル・フルーティー・シトラス・オリエンタルの4つから1つを選ぶ。今日は柑橘系の果物を想起させるシトラスにしよう。

 職場に向かうための電車に乗る。いつも同じ電車に乗る彼は今日はいなかった。私は平日5日勤務で、彼は平日3日勤務のため2日は会わない日がある。

 職場に着くと自分の席へと腰をかけ、仕事の準備を始める。「おはよう」と隣の社員が挨拶をしてくれたので、私も挨拶を返した。彼女はごく稀に挨拶をしない時がある。二日酔いか機嫌が悪い時だ。私の計算では20日に1回くらいはそんな時がある。不機嫌な彼女に対して、最初は不快感を抱いていたが、今は冷静に計算ができるほど慣れていた。

 やがて勤務時間になり、私は仕事を始める。主な仕事は資料作成だ。今は5つの資料を作成しなければならない。今日はその中から1つを選んで終わらせる予定だ。

 12時になり、昼食の時間に入る。昼食は職場近くのコンビニへと足を運び、おにぎり2つと飲み物を買う。おにぎりは鮭・梅・ツナマヨ・鰹から、飲み物はコーヒー・抹茶ラテ・カフェオレから気分で適当に選ぶ。今日は鮭と梅と抹茶ラテにしよう。

 買い物を終えると自分の席に戻り、周りにいる社員とお話ししながらランチを楽しむ。この時間は私にとって至福のひとときだ。

 昼食の時間が終わると再び資料作成に入る。今日の午後は部署で新しい仕事の割り振りが決められる。8人いる社員の中から仕事が比較的少ない人に割り振られる。これは毎週水曜日の恒例行事だ。新しい仕事は毎週2つほど下りてくる。今回は私に割り振られることはなかった。ただでさえ大量の資料作成があるのだ。ここで新規追加がなくて本当によかった。

 恒例行事によって集中力が途切れたため、自販機で飲み物を買って休憩する。休憩時はいつも眠気覚ましにエナジードリンクを買う。自販機は購入後にルーレットが周り、当たりを引くともう1本もらえる仕組みになっている。しかし、確率は2%であるため滅多に当たらない。もちろんハズレだった。

 休憩室でドリンクを飲みながら少し休む。顔を天井に向け、まるで死んだかのように体を脱力させてボーっとする。十分に休憩できたところで自分の席へと戻る。この息抜きによって集中力を取り戻し、再び資料作成に励む。集中していると時間の経過は早く、気がつけば終業時刻になっていた。特に急ぎの仕事はないので、今日はこれで仕事を終えることにする。

 家に帰る前に近所のスーパーで夕飯を購入する。仕事で疲れているため平日の夕飯は曜日ごとに決まったメニューを選ぶ。買うものだけ買って素早く購入を済ますと家へと一直線に帰っていった。

 帰宅すると、先ほど買った夕飯とビール1缶をテーブルに置いて、パッドで動画配信サイトを見ながら食べる。登録した6つのチャンネルから3つを選び、最新の動画を視聴する。夕食を食べ終わると床で少しダラダラした後に入浴をする。入浴後はベッドの上で再びダラダラして、眠気が襲ってきたところで就寝する。

 これが私の1日。

 平日である確率71%。 
 カーテンを開ける確率100%。
 食パンにチョコを塗る確率33%。
 スーツに着替える確率100%。
 香水にシトラスを選ぶ確率25%。
 電車で彼に会わない確率40%。
 会社で隣人が挨拶してくれる確率95%。
 昼に鮭と梅と抹茶ラテを選ぶ確率17%。
 新規仕事が下りて私に来ない確率15%。
 自販機でハズレを引く確率98%。
 夕食が水曜のメニューである確率20%。
 夕食時に見た動画が選ばれる確率5%。

 今日が起きる確率。統計0.0005%。

 何気ない普段の日常。でも、それが起こる確率は奇跡と呼べるほどの偶然性を秘めている。毎日決まったルーティンを行なっている私でさえ0.0005%の日常を送ったのだから、他の人はもっと偶然な1日を送っているに違いない。

 今日という奇跡を送れたことに感謝しながら私は深い眠りについた。
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