第1話 夜の海

文字数 722文字

ジョルジュは夜の海が好きだった。
孤独で寂しくて哀しくて、それでも優しく温かく包み込んでくれる。
寄せては返す波のメロディーは、儚げだけど力強い。

街の人々が寝静まった後、ほんとうの夜が降りてくる。
母親のマリアはすっかり眠りについている。
ジョルジュはソッとベッドを抜け出すと窓辺に座った。

月の光に照らされた穏やかな海。
そこへ降り注ぐ満天の星空は、まるで宝石を散りばめたよう。
そうか、夜はこんなに明るかったんだな、とジョルジュは思った。

海と空が溶けあってひとつになっていく。
自分もその一部になっていくような気がする。
どこまでが自分の体でどこからが空なのか海なのかわからなくなってくる。
ずっと遠くの星にさえ手が届くような気がした。
その時、寂しさがほんの少しだけ和らいだ。

父さんは今ごろどこかの港で同じように海を眺めているのだろうか。
ぼくと母さんのことを想ってくれているだろうか。
それとも忘れてしまったろうか。

父さん、どうしてこの街を出て行ってしまったの。
父さんさえいてくれたら、ぼくだって街の子たちにからかわれずにすんだんだ。
それがわかっていて、ぼくと母さんを置いて行ってしまったの。

母さんは「父さんは船乗りだから仕方ない」って言うけれど、ぼくはやっぱりいやだ。
神父さんも「父さんはやさしい人だ」って言うけれど、ぼくにはわからない。

流れ星が夜空を横切って海に落ちていく。
キラッと光ったその瞬きはジョルジュを励ましているような気がした。

そうだ、明日は教会に行かなくちゃならないんだ。
神父さんが本を貸してくれるって言ってたんだっけ。

ジョルジュは急いでベッドに潜り込んだ。
部屋に差し込んだ月光の波はチラチラ揺れ、まるで海の底。
夜の海は変わらず静かに佇んでいる。













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