=SwallowTale=

文字数 879文字

 僕は星に願う。
 同じ幸せを、僕たちにも。

「朝が来たら、この子たちは戸惑うでしょうね」
 顔を並べて眠っている子らを見ながら、きみが言う。
「眠れないかい?」
 彼女は頷くこともなく、じっと見ている。
「一太、二葉、三太、四葉」
 大きくなった子らを見て、さみしそうに言うものだから、僕は瞬きをして言った。
「僕たちだって、覚えているだろう?」
「ええ…。でも…」
「でも?」
「あのときは、つらかった」
「そうだね」
 子どもに、そんな思いをさせたくないのは、きっと世界共通だ。
「でも、僕たちはやらないといけない」
「………」
 僕ときみの体温と、子らの体温と、すべて混ざり合って、去来する。
 きみはもう泣いている。僕は冗談を言った。
「ライオンの親は、子どもを谷に突き落とすというよ。それに比べたら、僕たちはまだ優しい」
「……そうね」
 きみが涙を拭う。そして、胸に溜めた想いを吐息にすると、また言った。
「朝が来たら、この子たちは戸惑うでしょうね」
「でも、僕たちはやらないといけない」
「おなかをすかした子に」
「朝ごはんをあげないだけのことさ」
「翼を見せびらかして」
「おいでと誘うだけのこと」
「………」
「それで、おしまいさ」
 僕たちは、こどものとき、等しく同じことを経験をしていた。
 けれど。
「一太、二葉、三太…、四葉……」
 大きく口を開けて泣いていた顔を思い出すと、泣けてくる。
 この子らの泣き声を聞くのも、あしたが最後だ。
 けれどそれは、夏空への涙…。
 僕たちだって覚えている。真っ青な、あの夏の空…。
 不意に、きみが不安を口にした。
「明日が過ぎたら、わたしたちはどうなるの?」
「………」
 そういえば、そのことは僕も知らない。
 けれど、知らないことでも、僕は応えたかった。
「変わらないよ、なにも」
 翼を広げて、肩を抱くと、きみは僕に寄りかかった。
 僕は、誇らしく言った。
「変わらない。きみの笑顔を知ってるから」
「……。わたしも……」
 すべて混ざり合って、去来する。
 きみはまた泣いているようだった。
 だから。
 今夜、星に願う。
 同じ幸せを、僕たちにも。

  =SwallowTale=
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み