泥棒猫!

文字数 4,086文字

「この泥棒猫!貴方だけは!貴方だけは絶対に許さないからね!」




「竜也君、あの、ちょっといい?」
「ん?香里か?どうした?」
「ちょっと人には聞かれたくない話だから……ね?」
「ん、わかった」

 そう言うと俺は立ち上がる。周りからは囃し立てる声が聞こえる。

「うるせーぞお前ら」

「少しらいいいじゃねぇか。いつ結婚するのかと思って見守ってたんだからよ」
「ああ、遂にコイツラもリア充の仲間入りか……あっ、もうすでにリア充だったわ」
「リア充爆ぜろ!」

 香里は顔を真赤にさせうつむいている。

「香里、お前もそんなふうに反応するから周りが面白がってこんなふうになるんだぞ?どうせいつものことだろ?」
「う、うんん、今日は違うんだ……」
「何かあったのか!?」
「いや、そっちじゃなくて」
「……心配させんなよ。何か合ったかと思って一瞬焦ったじゃねぇか」
「ご、ごめん」

 再度、教室が賑わう。

「ひゅーひゅー夫婦喧嘩は犬も食わないぞ~」
「夫婦喧嘩はよそでやってくんね?腹立つんだよぉ!リア充が!」
「リア充爆ぜろ!」

 香里は何時になく顔を赤くしている。

「何?お前、熱でもあるのか?顔真っ赤だぞ?大丈夫か?」
「だ、大丈夫……って言いたいけど大丈夫じゃないかも」
「あー、もー、まどろっこしいな。とにかく来い!」

 そう言うと、無理やり手を引き、廊下へ出ていく。後ろからの冷やかしはもうすでに気にしないことにした。が、香里が動かない。

「おい、お前本当に今日はどうした?」
「う、あ、う」
「なんだ?言いたいことがあるならはっきり喋れ」
「あの!」
「ちょっと待ちたまえ!」





 僕の名前は鈴木俊哉。まぁ、この世で一番美しく、賢く、気高い存在だ。そんな僕は最近恋をしている。誰に恋をしているって?そんな野暮なことは質問するもんじゃないぜ。ベイベー。おっと、話がそれてしまった。そして僕が恋している相手には幼馴染が居て、そいつが邪魔だ。はっきり言おう。邪魔だ。何度でも言おう。邪魔だ。横恋慕をするそいつのことが僕は憎くてしょうがない。さっきだけで人を殺せる世界に生まれていたら、絶対に僕はやつを殺しているだろう。それは間違いない。

「おい、俊哉、何ぼーっとしてんだ?」
「ん、ああ、連夜か。僕かい?僕は今恋しているんだ」
「あー、またかその話か?」
「失礼だな。君は。話を振ったのはそっちじゃないか」

 土井垣連夜。僕の親友だ。ソウルフレンドだ。まぁ、ちょっと顔が醜いのが玉に瑕だが。これほど僕を理解してくれる理解者というのも、そうそう居ないだろう。僕の恋人に着いてたくさん彼には話しているから、もう惚気話は訊きたくないのかもしれない。ああ、僕って罪な人だな。

「何にうっとりしてんだかわからんが、お前、その顔は通報されてもおかしくないレベルだったぞ?」
「失敬な。君の顔こそ通報したくなるような顔じゃないか」
「お前な、まぁ、お前ほど顔は整ってないからなんとも言えないのが悔しいが」
「天は僕に二物を与えたのだよ」
「お前って本当に自己尊厳の塊だな。恐れ入るよ」
「そう褒めるのはやめたまえ。照れるじゃないか。だが、ごめんよ。僕は美しいものにしか興味が無いんだ。たとえ親友だとしてもな」
「本当にお前っていい性格してるわ」
「まぁね」

 すると、僕の恋しているハニーに近寄ってくる醜いハエが今日もまた来る。そして、愛しのハニーを連れて行こうというのだ。僕はハラワタが煮えくり返る思いだ。だが今日は様子が違った。僕は直感でわかった。醜いハエは僕のハニーに告白しようとしていると!
先程からなにかもめている。とうとう醜いハエが何かを言おうとした。僕は嫌な予感がして、席から立ち上がり、叫んだ。

「ちょっと待ちたまえ!」





 俺の名前は土井垣連夜。一応、目の前のこいつ、鈴木俊哉の親友をやっている。そして、いつものことだが、やつを見てぼーっとしている。

「おい、俊哉、何ぼーっとしてんだ?」
「ん、ああ、連夜か。僕かい?僕は今恋しているんだ」

 俺は心底疲れた声が飛び出る。

「あー、またかその話か?」
「失礼だな。君は。話を振ったのはそっちじゃないか」

 はいはい。確かに話を振ったのは俺だよ。だけど、なんでまたこいつは厄介なやつを好いているんだろうな~。それにしてもイケメン顔がだらしないと本当にブサイクだな。

「何にうっとりしてんだかわからんが、お前、その顔は通報されてもおかしくないレベルだったぞ?」
「失敬な。君の顔こそ通報したくなるような顔じゃないか」

 くっ、腹立つ。

「お前な、まぁ、お前ほど顔は整ってないからなんとも言えないのが悔しいが」
「天は僕に二物を与えたのだよ」

 俺は呆れた。

「お前って本当に自己尊厳の塊だな。恐れ入るよ」
「そう褒めるのはやめたまえ。照れるじゃないか。だが、ごめんよ。僕は美しいものにしか興味が無いんだ。たとえ親友だとしてもな」

 俺はため息をつきながら言う。

「本当にお前っていい性格してるわ」
「まぁね」

 いや、まぁねじゃねぇよ。つ~か、いつものパターンじゃねこれ?またこいつの機嫌が悪くなるぞ……本当にあの二人くっついてくれねぇかな~
 と、思っていると、今日はなんだか様子が違う。何か言い争っている。俊哉の方を見る。嫌な予感がする。俺が声をかけようとした瞬間、やつは立ち上がり言った。

「ちょっと待ちたまえ!」





 私は勇気を振り絞って、告白しようと思った。それを遮られた。勇気がどんどんしぼんでいくのが分かる。ああ、私って、やっぱり駄目な子かもしれない。

「なんだ?鈴木。なにか用でもあるのか?」
「君たち、付き合っているのかい?」
「は?いや、付き合ってないけど?」

 その言葉に私の心はえぐられた。

「そうか、良かった」
「……何が言いたい」
「Mr.竜也、僕は君に告白する。僕と付き合ってほしい!好きな彼氏は居ないのだろ?」


 教室中が静まり返った。後ろの方でこいつの幼馴染が「あちゃー」と言う声を上げている。私は放心状態に陥った。

「は?」
「はい?今はいって言ったのかい?」
「言ってねぇよ!」
「そうか、それで返事は?」
「NO!それ以外の返事があると思うか!」
「馬鹿な!ありえない!僕の誘いを断るというのかい!マイハニー!」
「誰がマイハニーだ!何?お前、ホモなの!?」
「NON,NON,そう答えを焦っちゃいけないよ」
「いや、色んな意味でドン引きだし焦るわ!」
「ふっ、そこの醜いハエが告白しそうな雰囲気だったからね。横恋慕は許さないよ!」

 その言葉に私はやっと我に返った。

「い、いや!竜也君は私のものだもん!」

 再度教室が凍りつく。竜也も目を見張る。

「そ、それって、こ、告白?」

 竜也君の質問に私は赤面する。そして、小さくこくりとうなずいた。

「えー!マジで告った!やっと告った!おい!こら!竜也!ちゃんと返事してやれよ!」
「これで、大手を振ってリア充死ねって言えるね」
「リア充爆ぜろ!」

 私は周りの冷やかしを聞いて更に赤面する。私の頭の中がぐるぐる目まぐるしく回ってる。だけど、もう一度勇気を出す。

「あ、あの!竜也君。私とお付き合いしていただけませんか!」

 言ってしまった。顔全体が湯だったかのように真っ赤になっているだろう。私は言い切った。目をつむりながら、返事を待つ。

「……わ、わかった。付き合おう」

 竜也君がそう言うと、教室中が沸いた。

「おいおいおいおい!マジかよマジかよ!告って答えてカップル成立かよ!」
「おお!見事にリア充の仲間入り!死ね!」
「リア充爆ぜろリア充爆ぜろリア充爆ぜろリア充爆ぜろリア充爆ぜろリア充爆ぜろリア充爆ぜろ」

 なんか変な人が一人居るが、私は気にならなかった。竜也君が私の告白にオッケーしてくれた!そんな喜びが湧き上がってくる!

「ふっ、まぁ、そうだよね。僕のこと、好いていないなんてありえないもんね。付き合ってあげようじゃないか。マイハニー」

 教室が凍りつく。再度どこかで「あちゃー」という声が聞こえる。

「いや、お前に言ってないからな?」
「Mr.竜也、そのような冗談は君には合わないと思うよ」
「お前の存在がまず冗談だろ?」
「……マイハニー、それは本気で言ってるのかい?」
「本気だが?というか、そのマイハニーって言うのをやめろ」
「……まさか、僕は振られたのかい?この世界一美しい僕が?なぜ?ありえない!そんなことがあっていいわけがない!」
「まさか……そこの醜いハエが君の好みだと言うのかい?」
「おい、訂正しろ。醜いハエだと?俺の香里にそんなことを言うんじゃねぇ!」
「ば、馬鹿な。ありえないありえないありえないありえないありえないありえない!!!!!」
「馬鹿なとかありえないとかいう暇があったら、香里に謝れ」
「竜也君」

 この格好良さにキュンとときめいてしまった。

「僕が、そんな、ありえない!おい、そこの泥棒猫!貴様がなにかしたのだろう!」

 矛先が私に向いた。が、すぐに渡しの前に竜也君が立って守ってくれる。私は「あ~、竜也君の背中ってこんなに大きいんだ」などと心の中で思っていた。

「いい加減にしろよ?」

 竜也君が格好良すぎて、再度キュンとする。

「ぼ、僕は諦めないからね!」
「だから、それ以前にちゃんと香里に謝れ」
「クッ、どこまでもどこまでも邪魔なやつ!」
「それ以上言ったら、本気で殴るぞ」

 予想以上に低い竜也君の声。それだけ怒ってくれてるって思うと、とても嬉しい。そして、最後に一言捨て台詞を言った。

「この泥棒猫!貴方だけは!貴方だけは絶対に許さないからね!」


 そして、クラス中のみんなが一斉に言った。


『いや、お前が言うなよ』
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