第1話
文字数 1,219文字
「百年って、どれくらい長いのかな?」
唐突なわたしの問いかけは、彼を困惑させたようだ。
「百年? 百年か……。普通は天寿をまっとうできるんじゃないか?」
それでも真面目に考えて、答えてくれた。
「それじゃ、十年って、一般的な感覚だとどれくらいの長さなの?」
「一瞬だな。十年なんて、すぐに終わってしまう」
さいわい彼はわたしの発言に違和感を持たなかったようで、さっきのように考えこむこともなく即答した。
そっか。やっぱり、「普通の人」にとっての十年って、ものすごく短いんだ。
「じゃあ……」
わたしの寿命は十年で、本当は二十五歳じゃなくて二歳半で、長くは一緒にいられないとしたら……、五年後にはもうしわしわのおばあさんになってしまうって言ったら、どう思う?
いちばん聞きたかったその質問は、なかなか口から出てくれなかった。
だって、信じてもらえるわけない。こんな、突拍子もないような話。
だって、言えない。こんなに好きで、ずっと一緒にいてほしくて、……うぬぼれじゃなければ彼もそう思ってくれていて。だけど、未来を約束することは、絶対にできない、なんて。わたしだけが先にどんどん老いていって、しわしわになって、まだ彼が若いうち……、長くても彼が四十歳になるまでには命が尽きる、なんて。
こうなることはわかっていたのに。だから、普通の人とは恋しないって、一年前――子供の頃から決めていたのに。
言わなきゃ。言えないのなら、今のうちに離れなきゃ……離れがたくなる前に。時が進んで、外見が変わり始める前に。
どちらの決断もできずに、ずるずると時間が過ぎている。そして今日も、その決断はできないまま。
「? どうした?」
言いかけたまま、なにも話し出さないわたしを、彼が心配げな顔でのぞきこんできた。
「なんでもない。えっと、そうそう。もし、わたしがこの先、たとえばね? たとえばなんだけど。病気になったりとかして、ものすごく見た目が変わっちゃったり、将来を望めなくなったりしたら、どうする? 別れる? 百年の恋も冷める?」
……なんだか、いろいろとごまかそうとするあまりに、ものすごく面倒くさい発言をしてしまった気がする。寿命うんぬん以前に、こんなことで嫌われたらどうしよう……。
こそっと表情をうかがうと、「それは絶対にない」、と、真顔で彼は言い切った。
「そんなことが理由で、別れるなんて、ましてや嫌いになるなんて、絶対にない。ささいなことだろ。もとより、君のいなくなった長い日々を過ごす覚悟はできている。この先君に何があっても、この千年の恋が冷めることはない」
「なんかおおげさだなぁ……。でも、ありがとう。なんだか、安心した」
よし、決めた。離れない。離れなくても、きっと大丈夫。話そう……わたしの運命を。この人はきっと、すべてを受け止めてくれる。
「実は、聞いてほしいことがあるの。ものすごく大事な話……」
この十年の恋を、きっと最後まで燃やし続けよう。
唐突なわたしの問いかけは、彼を困惑させたようだ。
「百年? 百年か……。普通は天寿をまっとうできるんじゃないか?」
それでも真面目に考えて、答えてくれた。
「それじゃ、十年って、一般的な感覚だとどれくらいの長さなの?」
「一瞬だな。十年なんて、すぐに終わってしまう」
さいわい彼はわたしの発言に違和感を持たなかったようで、さっきのように考えこむこともなく即答した。
そっか。やっぱり、「普通の人」にとっての十年って、ものすごく短いんだ。
「じゃあ……」
わたしの寿命は十年で、本当は二十五歳じゃなくて二歳半で、長くは一緒にいられないとしたら……、五年後にはもうしわしわのおばあさんになってしまうって言ったら、どう思う?
いちばん聞きたかったその質問は、なかなか口から出てくれなかった。
だって、信じてもらえるわけない。こんな、突拍子もないような話。
だって、言えない。こんなに好きで、ずっと一緒にいてほしくて、……うぬぼれじゃなければ彼もそう思ってくれていて。だけど、未来を約束することは、絶対にできない、なんて。わたしだけが先にどんどん老いていって、しわしわになって、まだ彼が若いうち……、長くても彼が四十歳になるまでには命が尽きる、なんて。
こうなることはわかっていたのに。だから、普通の人とは恋しないって、一年前――子供の頃から決めていたのに。
言わなきゃ。言えないのなら、今のうちに離れなきゃ……離れがたくなる前に。時が進んで、外見が変わり始める前に。
どちらの決断もできずに、ずるずると時間が過ぎている。そして今日も、その決断はできないまま。
「? どうした?」
言いかけたまま、なにも話し出さないわたしを、彼が心配げな顔でのぞきこんできた。
「なんでもない。えっと、そうそう。もし、わたしがこの先、たとえばね? たとえばなんだけど。病気になったりとかして、ものすごく見た目が変わっちゃったり、将来を望めなくなったりしたら、どうする? 別れる? 百年の恋も冷める?」
……なんだか、いろいろとごまかそうとするあまりに、ものすごく面倒くさい発言をしてしまった気がする。寿命うんぬん以前に、こんなことで嫌われたらどうしよう……。
こそっと表情をうかがうと、「それは絶対にない」、と、真顔で彼は言い切った。
「そんなことが理由で、別れるなんて、ましてや嫌いになるなんて、絶対にない。ささいなことだろ。もとより、君のいなくなった長い日々を過ごす覚悟はできている。この先君に何があっても、この千年の恋が冷めることはない」
「なんかおおげさだなぁ……。でも、ありがとう。なんだか、安心した」
よし、決めた。離れない。離れなくても、きっと大丈夫。話そう……わたしの運命を。この人はきっと、すべてを受け止めてくれる。
「実は、聞いてほしいことがあるの。ものすごく大事な話……」
この十年の恋を、きっと最後まで燃やし続けよう。