待たないわ
文字数 1,992文字
「え。帰ってくるの?」
海外赴任していた大学時代の先輩の晴人からメッセージを受け取った園子は嬉しくなって空港まで迎えに行った。
思えば別れ際の雰囲気。あれは自分を一番のガールフレンドに思っていたくれたと夢見た園子であったが、空港には見かけたことのある男子大学仲間もいた。
「お前も来たのか?」
「う、うん、たまたま」
そんな中、晴人が出てきた。
日焼けした顔はどこか大人びて見えた。彼はみんなに明かるく挨拶をした。
「園子も来てくれたんだ?」
「はい……」
「ねえ。晴人!写真撮ろうよ」
他にも聞きつけた女子仲間達のそこどけ迫力に園子はすっかり負けてしまった。
やがてこの足で飲み会に行く流れとなったが、こんな大所帯になるとは思わなかったという幹事の先輩を見た園子は、晴人に話しかけることもできずに空港を去った。
大学を出た園子は就職をしており、晴人は外資系の会社。後日、そんな彼の歓迎する会が違うメンバーから声が掛かったが園子は断った。
「はあ」
「どうしたんすか。園子先輩」
「佐藤君。聞いてくれる?」
後輩の佐藤は彼女持ち。仕事では頼りにならないが、園子は晴人の心理を彼に尋ねた。
「私は迎えに来て欲しい、って意味に思ったんだ」
「このメッセージですか。失礼します……」
佐藤は仕事では見せない難しい顔で園子のスマホをチェックした。
彼の分析では社交辞令となった。
「でも来てくれたら嬉しいと思いますよ」
「他の女の子も来てたけど」
自分はドキドキしながら迎えに行ったのが虚しくなった園子は佐藤と共に仕事を進めていた。
こうした中。偶然、晴人のオフィスに二人は仕事で来社した。
「佐藤君は、黙っていれば仕事ができそうな顔なんだから。あんまり喋らないでよ」
「うっす」
「あ。どうも。お世話になっています」
こうしてはじまった仕事の話。無事に説明をした園子は、傍の後輩を伴いエレベーターまで歩いていた。
「おい。園子か?」
「……晴人先輩?どうも」
「そっちは、同僚?」
「そうです。あ。すいません、部長からメールっす」
佐藤が対応している間。晴人は首を傾げて園子を見ていた。
「お前ってさ。この前、来なかったよな」
「はい。先輩には空港でお会いしたし」
「まあ。そうだけど」
ここに佐藤がやってきた。
「園子先輩。取り引き先から催促があったみたいっす」
「それは今日までだよ。今日はまだ終わってないって部長に言って」
「うっす」
「あ、あのさ。園子」
「なんですか先輩」
するとまた佐藤がやってきた。
「園子先輩。向こうはなるべく早く欲しいって」
「向こうの入金が遅いからそうなのに。わかった。貨物コンテナの一番前に積んで居ますって言って」
「オッケっす」
「どういう意味?」
これには園子がふふと笑った。
「だって先頭だから、最初に着くでしょ」
「そんな子供騙し?え。君、それで先方は納得したのかい?」
「うっす」
やがて園子と佐藤にエレベーターがやってきた。
「晴人先輩。失礼します」
「どうもっす」
「あ。ああ」
どこか驚いた顔の晴人であったが、園子はこのビルを後にした。
そして仕事をこなした彼女は夜、晴人からメッセージをもらった。
自分の歓迎会をして欲しいという彼の話であったので、園子はスケジュールを伝え、予定を入れた。
「お疲れ!待ったかい」
「ええ。私は待っていませんけど。他の人は?」
「……いいから。こっちの方だし」
晴人は何気に歩き出した。そして今夜は二人きりだとこぼした。
「君だけ参加してないからさ」
「すいません。私なんか呼ばれてないと思って」
「そんなことないよ!」
彼は交差点で立ち止まった。夜風が二人に吹いていた。
「空港でもごめんな。一人がみんなに拡散しちまったんだ」
「そうなんですか」
「あの日は、その。お前だけに来て欲しかったんだ」
やがて青信号になった。歩き出した彼女に彼はボソと呟いた。
「あのさ。園子ってこの前の後輩君と付き合っているの」
「いいえ?佐藤君には恋人がいるし」
「そうなんだ、ハハハ!良かった!」
晴人は海外にいる間、園子のことを思っていたと話した。
「ほらさ、言っただろう。待っててくれって」
「言いましたっけ?そんなこと」
「ひどい?!俺、空港に来てくれて嬉しかったのに」
大袈裟に落ち込む彼に、園子はドキドキしてきた。
「先輩」
「ひどい」
「あの!これからはちゃんと待ちますから」
「本当?」
うんと彼女はうなづいた。
「でもあんまり待たせると」
「しない!さ、あの店に行こう」
予約したから待たせないよ?と彼はにっこり笑った。
秋の風。紅葉の街路樹。二人は微笑みながらレンガの道を歩いて行ったのだった。
Fin
海外赴任していた大学時代の先輩の晴人からメッセージを受け取った園子は嬉しくなって空港まで迎えに行った。
思えば別れ際の雰囲気。あれは自分を一番のガールフレンドに思っていたくれたと夢見た園子であったが、空港には見かけたことのある男子大学仲間もいた。
「お前も来たのか?」
「う、うん、たまたま」
そんな中、晴人が出てきた。
日焼けした顔はどこか大人びて見えた。彼はみんなに明かるく挨拶をした。
「園子も来てくれたんだ?」
「はい……」
「ねえ。晴人!写真撮ろうよ」
他にも聞きつけた女子仲間達のそこどけ迫力に園子はすっかり負けてしまった。
やがてこの足で飲み会に行く流れとなったが、こんな大所帯になるとは思わなかったという幹事の先輩を見た園子は、晴人に話しかけることもできずに空港を去った。
大学を出た園子は就職をしており、晴人は外資系の会社。後日、そんな彼の歓迎する会が違うメンバーから声が掛かったが園子は断った。
「はあ」
「どうしたんすか。園子先輩」
「佐藤君。聞いてくれる?」
後輩の佐藤は彼女持ち。仕事では頼りにならないが、園子は晴人の心理を彼に尋ねた。
「私は迎えに来て欲しい、って意味に思ったんだ」
「このメッセージですか。失礼します……」
佐藤は仕事では見せない難しい顔で園子のスマホをチェックした。
彼の分析では社交辞令となった。
「でも来てくれたら嬉しいと思いますよ」
「他の女の子も来てたけど」
自分はドキドキしながら迎えに行ったのが虚しくなった園子は佐藤と共に仕事を進めていた。
こうした中。偶然、晴人のオフィスに二人は仕事で来社した。
「佐藤君は、黙っていれば仕事ができそうな顔なんだから。あんまり喋らないでよ」
「うっす」
「あ。どうも。お世話になっています」
こうしてはじまった仕事の話。無事に説明をした園子は、傍の後輩を伴いエレベーターまで歩いていた。
「おい。園子か?」
「……晴人先輩?どうも」
「そっちは、同僚?」
「そうです。あ。すいません、部長からメールっす」
佐藤が対応している間。晴人は首を傾げて園子を見ていた。
「お前ってさ。この前、来なかったよな」
「はい。先輩には空港でお会いしたし」
「まあ。そうだけど」
ここに佐藤がやってきた。
「園子先輩。取り引き先から催促があったみたいっす」
「それは今日までだよ。今日はまだ終わってないって部長に言って」
「うっす」
「あ、あのさ。園子」
「なんですか先輩」
するとまた佐藤がやってきた。
「園子先輩。向こうはなるべく早く欲しいって」
「向こうの入金が遅いからそうなのに。わかった。貨物コンテナの一番前に積んで居ますって言って」
「オッケっす」
「どういう意味?」
これには園子がふふと笑った。
「だって先頭だから、最初に着くでしょ」
「そんな子供騙し?え。君、それで先方は納得したのかい?」
「うっす」
やがて園子と佐藤にエレベーターがやってきた。
「晴人先輩。失礼します」
「どうもっす」
「あ。ああ」
どこか驚いた顔の晴人であったが、園子はこのビルを後にした。
そして仕事をこなした彼女は夜、晴人からメッセージをもらった。
自分の歓迎会をして欲しいという彼の話であったので、園子はスケジュールを伝え、予定を入れた。
「お疲れ!待ったかい」
「ええ。私は待っていませんけど。他の人は?」
「……いいから。こっちの方だし」
晴人は何気に歩き出した。そして今夜は二人きりだとこぼした。
「君だけ参加してないからさ」
「すいません。私なんか呼ばれてないと思って」
「そんなことないよ!」
彼は交差点で立ち止まった。夜風が二人に吹いていた。
「空港でもごめんな。一人がみんなに拡散しちまったんだ」
「そうなんですか」
「あの日は、その。お前だけに来て欲しかったんだ」
やがて青信号になった。歩き出した彼女に彼はボソと呟いた。
「あのさ。園子ってこの前の後輩君と付き合っているの」
「いいえ?佐藤君には恋人がいるし」
「そうなんだ、ハハハ!良かった!」
晴人は海外にいる間、園子のことを思っていたと話した。
「ほらさ、言っただろう。待っててくれって」
「言いましたっけ?そんなこと」
「ひどい?!俺、空港に来てくれて嬉しかったのに」
大袈裟に落ち込む彼に、園子はドキドキしてきた。
「先輩」
「ひどい」
「あの!これからはちゃんと待ちますから」
「本当?」
うんと彼女はうなづいた。
「でもあんまり待たせると」
「しない!さ、あの店に行こう」
予約したから待たせないよ?と彼はにっこり笑った。
秋の風。紅葉の街路樹。二人は微笑みながらレンガの道を歩いて行ったのだった。
Fin