第1話

文字数 855文字

 今日も子供達の走り回る声で公園は賑やかだ。後ろを心配そうに付いて回るのは母親達か。一人の娘が額に玉の汗を作りながら、ブランコに走り寄り母親を大声で呼ぶ。母親は砂場からオモチャをかき集めバッグに詰め込むと急かす娘の所へやれやれという風に近寄っていった。子供達は一つの場所で長くは遊ばず、目が回るような忙しさで動き回っている。
  晩夏とはいえ日差しが強く、時折母親に呼ばれては、渋々木陰で真っ赤な顔をして水筒のストローに尖った唇を押し付けている。母親達は、嫌がる子供達を何とかなだめ、首の後ろを冷やしたり、小型の扇風機をあてたり何かと甲斐甲斐しい。そんな親達の心配をよそに子供達は親の手を振りほどき一斉に走り出す。一人が遊び始めると、不思議とそこに子供達は集まる。水が出るポンプをめぐって小競り合いしながら小川のような水場で遊び始めた。少年が遊びに熱中するあまりお尻をすっかり水に浸けてしまい、母親が小さく悲鳴をあげている。それすらも、老人の私からしてみればその全てが愛しい。
 子供達が成長し、成熟した大人になり、また子を連れて戻ってくる。桜の花びらが旅立ちを祝い、木下闇(こしたやみ)が一時の安らぎを与え、鮮やかな葉の彩りが人々の目を喜ばせ、細い枝葉から降り注ぐ陽の温もりが、四季折々寄り添うようにあることを私は知っている。ここはそんな大きな揺りかごみたいなものだ。その一端となり、小さな世界を作れたことを誇りに思う。
 そんな日常を見守っていた私もまもなく去るときを迎える。度重なる強い雨風や日照りにも耐え、何度も人の手により甦って来たが、遂に世代交代の波に追いやられてしまうようだ。寂しくも有るが、次世代に子供達の未来を託そう。

 立ち入り禁止の囲いに近寄り、「この滑り台、なくなっちゃうんだ」と残念そうに言う少女の頭を母親の指と風が優しく撫でた。

  (了)
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