本文

文字数 2,000文字

 なにも変わらない日常。
 私の変わらない日常。
 私はそう思っていた。

 無機質な学校。
 彼の居ない学校。
 ただただ虚無な学校。
 本当は彼が居るはずの学校。
 そう、本当は彼の居るはずの……。

 彼は中学の時に身体を壊した。
 彼はそして成績を落とした。
 彼は志望した学校に進めなかった。

 私は彼を追い求めた。
 私は彼と同じ学校を目指した。
 私は彼の求めた物を手に入れた。

 そして、同時に無機質な学校生活となった。
 そして、彼の望んだ学校生活を手に入れたのだろう。
 そして、学校の後者と同じ色の青春を送るのだろう。
 そして、彼の居ないままの青春を……。

 ひたすら、学校に削られる日々になる。
 ひたすら、彼を追い求めたのに。
 ひたすら、彼を追いかけた結果がこれだ。

 身の丈に合わなかった学校。
 私はこの学校に入ったことを後悔している。
 もし、人生をやり直せるのであれば……。
 そんな思いにも、なってしまう。

 彼と一緒に笑いたかった。
 彼と一緒に遊びたかった。
 彼と一緒に歩みたかった。

 出来れば、二人の死で分かつ時まで……。

 それは私の恋心。
 結局は片思いの恋心。
 実らせたかった恋心。

 私の人生は、歯車があるのであれば、空回りしてしまったのかもしれない。
 実際には、最初から空回りしているのかもしれない。

 駅のホームで、そうぼんやりとしていた。
 いつものように乗るはずの電車。

 そのはずだった。

 ぼんやりと電車を見ていると、急に目眩がした。
 強烈な目眩で、私は……ホームから落ちて……。
 一瞬なにが起きたか、分からなかった。
 緊急ブレーキの奏でる金切り声を聞きつつも、身体は落ちたショックで動かない。

 迫り来る電車は、私の思考を高速回転させる。
 これが走馬燈なのだと……。
 そこで見た物は、彼との楽しい高校生活だった。
 嬉しかった。
 最後に見させてくれた夢は、優しいと。

 更に、私の前へ、彼が飛び込んできたのが見えた。
 優しいからなぁ……彼は。
 もし、この状況を見ていたら、助けてくれるかもしれない。
 でも、向こうからすれば、私の知らない人だから、そんな事しないだろうなぁと。

 いや!?
 違う!!
 前に飛び出したのは彼だ!
 本物の彼だ!
 助けに来た?
 いや……このタイミングでは助かるのは無理。
 なぜ?
 なぜ?
 私の中で疑問が駆けめぐる。
 しかし、無情にも電車は止まらない。

 私は最後に、彼の名を叫んだ。

『聞こえますか? 私の声が聞こえますか?』
「……はい、聞こえます。あなたは誰ですか? 私は電車に轢かれたはずでは?」
『はい、私は……そうですね、世界の狭間に仕える女神……とでも名乗りましょうか。ええ、そうですね、あなたの言うとおり、電車に轢かれて死にました』
「そう……ですか。では、あなたは私を地獄にでも連れて行くのでしょうか?」
『いいえ。地獄なんてありませんよ? 人間の作った幻想です。あるのは魂が浄化されるか、新しく生まれ変わるかです』
「生まれ……変わる?」
『そうです。どうやらあなたは、浄化されるよりも、生まれ変わり……転生に興味があるようですね?』
「はい、もし、生まれ変われるのであれば、彼と一緒の時を過ごしたいです」
『彼……とは、一緒に轢かれた子ですか?』
「はい。そうだ! 彼は一体どうなったのですか!? まさか私と一緒に死んだんじゃ……」
『残念ながら……。もうじきこちらの世界に来て、私の妹が対応すると思います』
「そ、そんなぁ……私の為に……なんで……」
『ショックは大きいでしょう。辛い状況だと思いますが、あなたはなにを望みますか? 魂の浄化ですか? それとも、生まれ変わりますか?』
「……もし」
『もし?』
「彼と一緒に生まれ変われるのであれば、それを望みます! それは可能ですか?」
『はい、可能ではあります。但しあの子次第ですね。メッセージは出しますが、あの子も転生を望まないとダメなのです』
「そう……ですか……」
『では、もう一度問います。どちらを望みますか?』
「……します」
『どちらをですか?』
「転生……します」
『分かりました。では新しい世界に、あなたの魂を移動させます。身体は……そうですね。そのままの姿で生まれ変わらせますね。それと、あの子が転生を選択しなければ、あなたは孤独になるかもしれません。覚悟はありますか?』
「はい、大丈夫です。ありがとうございます」
『どうか、よき人生を! 私からも祈りますね』

 そして、身体無き私は、遠くに吸い寄せられるように引っ張られた。
 気が付くと、そこは木々が生い茂る森の中、私を優しい風が撫でる。
 背中に固い感触があり、起きあがってみると、大きな岩の上だった。

 もしかしたら、来ない彼。
 もしかしたら、また出会える彼。

「う~ん、来ているかも分からないや……」

 私はこの世界で、精一杯生きる覚悟をした。
 そして、出会えるか分からない、彼を待ち続ける事に。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み