一 仙台

文字数 411文字

 雪が降り始めてから段々と量が多くなってくると、早朝から人が円匙(えんし)を担いで出てきて、上がり框(あがりかまち)を乗り越している積雪を一生懸命退()かしている。それも昼頃になれば、玄関前の雪が溶けて、土間(どま)に浸水してしまうからである。
「おや、貴方(あんた)も除雪ですかい?」
「へえ、この通り。昨晩、妻にやれなんべんも言われましてな──」
「ハハハハ。そらおもろい」
()()う貴方は?」
「俺は───俺も(おんな)じで。まぁ、妻が『靴が濡れるんが嫌や』と(うるさ)いもんで」
「お互い様ですなぁ」
「えぇえぇ」
   ×     ×     ×
 陽が白昼の時候になると、雪は一層溶けて、湿った土瀝青(アスファルト)の両脇に寂寞(ひっそり)と残っていた。
辰雄(たつお)やぁ、石投げるのやめなはれ」
「嫌やぁ。氷全部割ってから帰るんやぁ」
「そんなん言わんといて。なぁ、帰るよ」
少年は帰り(ぎわ)に大きめな石を一つ、ほいっ、と投げ捨てて母親に付いて行った。其れでも氷は全部割れておらず、張った氷の真ん中に、投げた石の穴が劃然(くっきり)と開いていた。
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