第1話 滴石氏の発祥

文字数 2,000文字

平泉藤原氏の滅亡によって、半独立的な存在であった奥六郡の統治形態は完全に終止符がうたれ、鎌倉幕府の直轄支配地域となった。
頼朝は戦に功績のあった関東の武士に、勲功に応じて藤原氏の旧領の地頭職に任じた。そして、岩手郡滴石庄・羽州山本郡四千六百町は滴石衡盛の所領とされた。

滴石城跡は、雫石町字古舘に築城されたもので、俗に八幡館と称している。ここは雫石盆地の中央に位置し、三角形台地の一部を利用し、数条の壕によって各部所を分けている。
南に蟹沢川、北には雫石川が流れ、その流れが要害となる条件を具備し、東西に数条の壕土塁を築いた城跡である。

雫石郷の中央に築かれる滴石城は、出羽(秋田)との交通の要地にあたり、国見峠(仙岩峠)を経て仙北郡に通じ、また待多部越しに沢内を通して、秋田の横手及び北上川下流の和賀郡・胆沢郡とも結ぶことができる。


ここで、「雫石」という地名の由来について述べたく想う。
古代人は「水」を、普通には「ペー」「ワクカ」「ウオル」の3種の言葉で呼び分けをし、言葉の組み合わせによって「シン」(スン)を用い、特に「飲水」については、様々な表現の仕方がなされたようである。例えば、「井戸」は「シン・スイ」(水・穴)、または「スン・スイ」(水・穴)などと呼んでいたといわれる。

ところで、「湧水」や「泉」を言い表す雫石盆地の言葉は、今でも年輩の人たちは「清水‥スズ」と呼んでいるが、この「スズ」は古代の言葉である「スン・スイ」の変化した言葉で、漢字の「清水‥しみず」は当て字であるというのが一般説である。

雫石盆地に生まれ育った年輩の人たちが、「清水」を「スズ」と呼んでいるように、「雫石」を「しずくいし」と発音せず、「スズ・ク・ウェス」と土着語的に発音するのは、古代人がこの盆地を「スズ・ク・ウシ」と呼んでいた名残りであろうと言われている(石‥ウェスは「ウシ」の変化した言葉である)。
「雫石」とは「スズ・ク・ウシ」という古代語で、「清水・飲み・つけている所(又は多い所)」と直訳することができる。

さて、ここで雫石の北に聳える岩手山について述べる。同山は岩鷲山とも言われ、裾野の長い綺麗な山容から、岩手富士、南部富士、南部片富士などと称される。
また、霧山嶽ともいわれ、約940年前の中央と安倍貞任等の十二年合戦の際、源義家が岩手山の観音に祈願したところ、霧が晴れて山容が姿を現したと言う言い伝えがある。約350年前の正保絵図には岩鷲山と見られるが、この名がいつから使用されていたかは不明と言われる。岩鷲の由来については、明治7年「岩手山神社考証書」(小原文書)に、今から約890年前、平泉藤原清衡初期の頃、「山上ノ岩ニ鷲タビタビ現レテ、其レヨリ岩鷲山ト称シ来レリ」と記述してあると言われている。また、約200年前、菅江真澄が「嵩に鷲のすがたしたる岩の在れば岩鷲ととなえ、おいわわしいうべきを、もはら語路あしく、はぶきていへり。いわては岩手(ガンシュ)の文字なれば、岩鷲(ガンジュ)山のこえに、いまし世の誰かいいたがいけん」と記している。

岩手の名が中央の歴史上に現れたのは、約1240年前に陸奥の産金が都に貢がれてからだと言われている。大和物語に「おなじ帝、狩いとかしこく好み給うけり、みちのく岩手の郡より奉れる御鷹世になくかしこければ、になうおぼして御手鷹にし給うけり。名をば岩手となむつけ給へりける」とあるから、志波城が徳丹城に移された約1180年前だろうと言う説もある。

歌の方では大江匡房が約900年前に、
くちなしの色とぞ見ゆるみちのくの岩手の里の山吹の花
と岩手の里を歌っている。また、約880年前の歌に、
おもへどもいわての山に年を経てくちやはてなん谷のむもれ木
というのがあって、これが「いわて山」の史上に見えたはじめだと言われている。

このように、雫石盆地の北の一画に鎮座するお山には、霧山嶽、岩鷲山、岩手山という3つの呼び方があるが、江戸末期までは岩鷲山が通称であったと言われている。
「岩手山」という名称は、明治2年の神仏分離によって、本来の山名に一定したと言われ、その由来は岩手郡にある霊山だから岩手山と呼んだと素直に解すべきだとの見解である。

陸奥の悲劇の英傑「安倍次郎貞任遺文」には、
「岩手の生んだ三人目の総理大臣で、先の大戦を終戦に導いた第一の功労者、米内光政は貞任の遠孫といわれており、故元自民党幹事長安倍晋太郎の遠祖は貞任の弟の宗任である」
と出てくるという。

前総理大臣の安倍晋三氏と陸奥岩手が縁があるとは、歴史を紐解くのはとても感慨深いものである。

そう言えば、ここで訂正をしておかねばならぬことがある。筆者と同じ6年で大学を卒業した「あべ」であるが、彼は「安倍」ではなく「阿部浩明」であることを想い出した。彼の祖先は如何なる人かは詳らかではないが、盛岡市の一部となっている玉山出身であった。
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