任務完了
文字数 1,995文字
『私はQ国で大統領の給仕をしている者です。
わが国の大統領は今にも戦争を仕掛け、侵略しようとしています。
それを阻止するため、私は大統領を殺害します!
どうか、お力をください』
局長の金森は険しい顔をしていた。
ここは、J国の国家情報局。いわゆるスパイ組織である。
Q国からのSOSともとれる手紙が送られてきたため、その対応に追われていた。
送り主の名前はない。ただ、大統領の給仕とあるだけだ。
「Q国ですか。我々も注視してきましたね」
部下の尾上は腕を組みながら言った。
「ああ、だが、ここまで事態が切迫していたとはな」
「手紙の信憑性は確かですか?」
「確認はとった。間違いない。送り主は大統領の給仕だ」
「で、では・・・」
「彼女に大統領の暗殺を委ねる」
「我々としては?」
「Q国へ飛んでくれ。このブツを彼女に渡すんだ」
そう言って、金森が渡してきたのは毒の入った小瓶だった。
「大統領は毎朝、ホットチョコレートを飲むのが日課らしい。その中に、こいつを混ぜさせるんだ」
「了解です。では、今回の任務は?」
「ああ、今回のミッションはこいつを手紙の送り主に届けること。彼女の暗号名はキャットだ。猫の手も借りるぞ!」
「了解!」
すぐさま、尾上はQ国へ飛んだ。
Q国の空港は物々しい雰囲気だった。
まるで、大統領が暗殺されるのを予期しているかのように、厳重な警備体制だった。
案の定、尾上も空港税関の荷物検査のときに、持っていた小瓶が問題となった。
液体の持ち込みは禁止されているらしい。
想定内だった。
予定していた通り、小瓶は香水だと、尾上は空港職員に伝えた。
そして、小瓶の液体を自分の体に振りかけてみせた。
小瓶は二重構造になっている。
上から押して出しても、単なる香水なのだ。
毒として使うには、中身を取り出さなければならない。
「パフューム(香水)、オーケー?」
空港職員たちは、しばらく話し合っていたが、納得したのか、手でしっしっという仕草をして、行け行けと指図した。
関門は突破した。
税関さえ通れば、こっちのものだ。
あとは、キャットに毒の入った小瓶を渡すだけ。
尾上はカバンの中に小瓶と、キャットに対する報酬としての前金100万を入れておいた。
当面の逃亡資金になるだろう。
成功すれば、残りの報酬を渡すことになっている。
そろそろ約束の時間だ。
空港の待合室で、カバンを交換することになっている。
キャットの目印は、赤い帽子だった。
いた!
つばのついた赤い帽子の女性が待合室に座っていた。
尾上は何も言わずに、キャットの隣に座った。
そして、カバンを足下に置いた。
キャットもカバンを足下に置いている。
キャットは黙ったまま、震える手で尾上のカバンを受け取ると、その場から立ち去った。
交換終了。
キャットは足早に駆けていく。
だが、とある男とすれ違ったとき、急に倒れた。
「え?」
尾上は見ていた。
すれ違い様、キャットはその男に刺されたのだ!
尾上は男を目で追った。
何者だ?
キャットは血を流して倒れたままだった。
「キャーッ!」
一般客の叫び声に気がついた警備員たちが駆け寄って来た。
尾上は、心配そうに離れたところからキャットを見守っていた。
大統領の仕業なのか?
尾上はすぐさま本部へ連絡を入れた。
『キャットは失敗!』
尾上はその場から離れようとした。
すると、空港警察が駆けつけて来て、誰もこの場から出すな! と叫んだ。
そして、空港を封鎖してしまった。
尾上は唇をかみしめた。
早いところ、この場から立ち去らなければ。
キャットは担架で運ばれていった。
意識がない様子を見ると、予断を許さない状態かもしれない。
ミッションは失敗に終わった・・・。
そう思われたとき、金森から連絡が入った。
『作戦成功、ニュースを見られたし』
見ると、空港のテレビでは大統領府が爆発された模様が映し出されていた。
つまり、大統領は爆弾によって暗殺されたのだ!
「え?」
こちらが失敗する可能性を見越して、プランBも動いていたらしい。
尾上はホッとした。
自分が捕まっても証拠はない。
すぐに解放されるだろう。
尾上は安心して、その場にとどまることにした。
「ん?」
妙な音がする。
どこからだ?
「カバンからだ!」
いつの間にか、キャットと交換したカバンの中に目覚まし時計が入っていた。
ピピピッ、ピピピッとけたたましい音を上げていた。
あまりの音量に、警察は銃を構えて、尾上を取り囲んだ。
尾上はゆっくりと両手を挙げた。
尾上は悟った。そして、覚悟を決めた。
「任務・・・完了」
尾上は目をつむった。
すぐに目覚まし時計が爆発、尾上は吹き飛んだ。
即死だった。
キャットは大統領に計画がバレて、利用されたらしい。
だが、大統領暗殺は秘密裡に成功した。
スパイとしての尾上の死に顔は、晴れやかだった。
終
わが国の大統領は今にも戦争を仕掛け、侵略しようとしています。
それを阻止するため、私は大統領を殺害します!
どうか、お力をください』
局長の金森は険しい顔をしていた。
ここは、J国の国家情報局。いわゆるスパイ組織である。
Q国からのSOSともとれる手紙が送られてきたため、その対応に追われていた。
送り主の名前はない。ただ、大統領の給仕とあるだけだ。
「Q国ですか。我々も注視してきましたね」
部下の尾上は腕を組みながら言った。
「ああ、だが、ここまで事態が切迫していたとはな」
「手紙の信憑性は確かですか?」
「確認はとった。間違いない。送り主は大統領の給仕だ」
「で、では・・・」
「彼女に大統領の暗殺を委ねる」
「我々としては?」
「Q国へ飛んでくれ。このブツを彼女に渡すんだ」
そう言って、金森が渡してきたのは毒の入った小瓶だった。
「大統領は毎朝、ホットチョコレートを飲むのが日課らしい。その中に、こいつを混ぜさせるんだ」
「了解です。では、今回の任務は?」
「ああ、今回のミッションはこいつを手紙の送り主に届けること。彼女の暗号名はキャットだ。猫の手も借りるぞ!」
「了解!」
すぐさま、尾上はQ国へ飛んだ。
Q国の空港は物々しい雰囲気だった。
まるで、大統領が暗殺されるのを予期しているかのように、厳重な警備体制だった。
案の定、尾上も空港税関の荷物検査のときに、持っていた小瓶が問題となった。
液体の持ち込みは禁止されているらしい。
想定内だった。
予定していた通り、小瓶は香水だと、尾上は空港職員に伝えた。
そして、小瓶の液体を自分の体に振りかけてみせた。
小瓶は二重構造になっている。
上から押して出しても、単なる香水なのだ。
毒として使うには、中身を取り出さなければならない。
「パフューム(香水)、オーケー?」
空港職員たちは、しばらく話し合っていたが、納得したのか、手でしっしっという仕草をして、行け行けと指図した。
関門は突破した。
税関さえ通れば、こっちのものだ。
あとは、キャットに毒の入った小瓶を渡すだけ。
尾上はカバンの中に小瓶と、キャットに対する報酬としての前金100万を入れておいた。
当面の逃亡資金になるだろう。
成功すれば、残りの報酬を渡すことになっている。
そろそろ約束の時間だ。
空港の待合室で、カバンを交換することになっている。
キャットの目印は、赤い帽子だった。
いた!
つばのついた赤い帽子の女性が待合室に座っていた。
尾上は何も言わずに、キャットの隣に座った。
そして、カバンを足下に置いた。
キャットもカバンを足下に置いている。
キャットは黙ったまま、震える手で尾上のカバンを受け取ると、その場から立ち去った。
交換終了。
キャットは足早に駆けていく。
だが、とある男とすれ違ったとき、急に倒れた。
「え?」
尾上は見ていた。
すれ違い様、キャットはその男に刺されたのだ!
尾上は男を目で追った。
何者だ?
キャットは血を流して倒れたままだった。
「キャーッ!」
一般客の叫び声に気がついた警備員たちが駆け寄って来た。
尾上は、心配そうに離れたところからキャットを見守っていた。
大統領の仕業なのか?
尾上はすぐさま本部へ連絡を入れた。
『キャットは失敗!』
尾上はその場から離れようとした。
すると、空港警察が駆けつけて来て、誰もこの場から出すな! と叫んだ。
そして、空港を封鎖してしまった。
尾上は唇をかみしめた。
早いところ、この場から立ち去らなければ。
キャットは担架で運ばれていった。
意識がない様子を見ると、予断を許さない状態かもしれない。
ミッションは失敗に終わった・・・。
そう思われたとき、金森から連絡が入った。
『作戦成功、ニュースを見られたし』
見ると、空港のテレビでは大統領府が爆発された模様が映し出されていた。
つまり、大統領は爆弾によって暗殺されたのだ!
「え?」
こちらが失敗する可能性を見越して、プランBも動いていたらしい。
尾上はホッとした。
自分が捕まっても証拠はない。
すぐに解放されるだろう。
尾上は安心して、その場にとどまることにした。
「ん?」
妙な音がする。
どこからだ?
「カバンからだ!」
いつの間にか、キャットと交換したカバンの中に目覚まし時計が入っていた。
ピピピッ、ピピピッとけたたましい音を上げていた。
あまりの音量に、警察は銃を構えて、尾上を取り囲んだ。
尾上はゆっくりと両手を挙げた。
尾上は悟った。そして、覚悟を決めた。
「任務・・・完了」
尾上は目をつむった。
すぐに目覚まし時計が爆発、尾上は吹き飛んだ。
即死だった。
キャットは大統領に計画がバレて、利用されたらしい。
だが、大統領暗殺は秘密裡に成功した。
スパイとしての尾上の死に顔は、晴れやかだった。
終