第1話

文字数 1,084文字

 気付いたら僕は幽霊になって空を飛んでいた。
辺りを見渡すと僕と同じように浮いている霊が何人もいる。そして背中には小さな羽が生えていた。首を動かして僕の背中も見てみると、やはり羽が生えていた。もしかして幽霊じゃなくて天使になったのかな。僕は僕が何になったのか気になって、近くにいた同い年くらいの男の子に声をかけた。

「ねぇ、僕は幽霊なの?天使なの?」
「はぁ? 幽霊に決まってるじゃないか。君、新入りかい?」
「うん、多分」
「じゃあ教えてあげる。ここにいるのは天国待ちの幽霊だよ。羽が大きくなったら天国へ行けるのさ」
「天使になるってこと?」
「だから違うってば。羽は天国行きの切符なの。羽がない幽霊は地獄行きの印だよ。君の羽が大きくなれば天国へ行くし、羽が消えれば地獄へ行くってこと」

 それだけ言って、男の子は小さな羽をぱたぱたと動かしてどこかへ行ってしまった。
 今度は地獄行きの幽霊のことが気になって近くにいた眼鏡の女の子に声をかけた。

「ねぇ、地獄行きの幽霊ってどこにいるか知ってる?」
「地上にいるよ」
「羽はないの?」
「そうだよ。だって羽は、天国行きの切符だよ」

 さっきの男の子と同じことを言う。
 どうやらここでその話は常識のようだ。地獄行きの幽霊は、きっと人を殺したり、それと同等の悪いことをした奴等のことだ。

「君はどうして死んだの?」

 女の子は首を傾げて僕に尋ねた。そういえば、どうして死んだのだろう。それを考えても、詳しく思い出せない。

「足が滑って落ちたのは覚えてる。でもそれ以上は思い出せないんだ」
「ふうん。それにしても、君の羽は随分と小さいね」
「そ、そうかな?」
「なんだか今にも消えてなくなりそう」

 そう言われると、不安になった。ちゃんと背中にしっかり生えているか気になって、後ろを振り向こうとすると、女の子は「あ」と小さく声を出した。その直後、羽がふわふわと飛んでいるのが見えた。ただ羽だけが僕の前を通り過ぎていく。僕の手は自然と背中にまわり、その手が羽を触ることはなかった。

 僕の羽がない。

 浮いていたはずの体が一気に下降し、ひゅるると耳に風の音が入り込む。
 あぁ、この感じ、僕は知っている。覚えている。そうだ、思い出した。
 僕はただ足を滑らせて落ちたんじゃなかった。
屋上で、あいつを突き落とそうと両手を伸ばした。そうしたら、あいつは僕に気付いて咄嗟に体を動かした。僕の両手はあいつに届かず、空を切って、そのまま真っ逆さまに落ちていった。
 今、羽を失った僕が地上の幽霊になるため落ちているように、あのときもこうして下に落ちたのだ。僕には羽を奪われる理由があった。

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