Sing of thinks ~デジビジ界のマ法使い~ 企画書

文字数 7,317文字

 若干17歳にして7つの企業を所有する泣く子も黙るカリスマ若手経営者、 茶虎 悠乃(ちゃとら ゆうの)

 自他ともに剛腕を認める彼女にも、実は”泣き所”があったーー。それは、祖父直伝の質実剛健な経営手法では対処不能なイマドキのデジタルビジネスを全く理解できないということ。

 忸怩(じくじ)たる思いを胸に、彼女は千代田区の一角”黒麹町”を訪れる。その街には、自ら『デジビジ界のマ法使い』と名乗る不遜な人間がいるとの噂を耳にしたからだ。


 だが出会ったその『マ法使い』は、なんと悠乃と同じ17歳の少女だった!そして経営コンサルならぬ『経営探偵』を生業(なりわい)とする彼女は、音楽の力 "Sing of thinks"で、あらゆる難解な謎を解くという……。


 ”運命の糸”という名の、なし崩し的展開に流されるがごとく、

  悠乃は『マ法使い』の少女とロックデュオを組み、様々な事件に挑み始める……。

①グループ名:『Sing of thinks』《シング・オブ・シングス》

②メンバー構成

 ・福山 シャロン(ふくやま しゃろん):ギター/ベース/キーボード/ボーカル

  ⇒六弦(ギター)と四弦(ベース)のマルチ・ネックギターに、

   更にショルキーを合体させた、常人には使用不可能な改造楽器を愛用する。

   くわえて美声である。


 ・茶虎 悠乃(ちゃとら ゆうの)  :ドラム/サブボーカル

  ⇒質実剛健を旨とする彼女は和太鼓の経験しか無かったが、野性的な勘で

   すぐにドラムを修得。呑み込みが良いらしい。(虎だけに…)

   

③メンバーの特徴


《福山 シャロン》

 ・女性、17歳、イギリス系ハーフ

 ・職業:自称『経営探偵』(経営コンサルと同義。実は趣味の延長…)

 ・特長:音楽の天才。にもかかわらず、その道のプロになろうとは全く考えて

     いないのは、シャーロックホームズと同じ生き方をしたいと思って

     いるから、らしい。

 ・性格:ありえないほど前向きでマイペース。いつどこでも飄々としている。

     ”ボクッ娘”である。

 ・特技:「天から舞い降りる音楽に謎を解かせる秘儀『Sing of thinks』こそ

      が特技」とは本人の談。音楽を即興で奏でることにより、

      自らトランス状態を起こし思考力と集中力を飛躍的に高める技だ

      が、周囲からはふざけているようにしか見られない。

 ・彼氏いない歴

    :17年。中性的な性格で男にも女にも興味がないという、とても

     困った美少女。恋愛自体に全くの価値を置いていない。そのくせ

     恋愛の曲作りは”お手の物”というのだから、男にとっては

     全く始末に負えない。



《茶虎 悠乃》

 ・女性、17歳、大和撫子

 ・職業:企業7社を経営する。多くは祖父から継承されたものだが、

    「ビジネスの虎娘」と恐れられる剛腕を発揮し、自ら短期間で

     立ち上げた会社も含まれる。

 ・特長:傲慢で好戦的で獰猛。勝ちに対する執着は常軌を逸していた。

     力まかせに押し切るだけの生き方をしてきたが、シャロンに

     出会ったことで、彼女の中に新しい”リズム”が生まれ始める。

 ・特技:常に「最強」であることを目指す彼女は、尋常ならざる

     集中力と執念で、広範囲の分野で高いスキルを習得している。

     曰く、『最強経営スキル』、『最強対人スキル』、

     『最強投資スキル』、『最強語学スキル』、『最強格闘

      スキル』、『最強社交ダンススキル』、『最強茶道スキ

     ル』、『最強華道スキル』、『最強和楽器スキル』など。

     明らかに意味不明な個所もあるが、獰猛な彼女に

     ツッコむ勇気を持つ者はシャロン以外に存在しない。

     なおドラムのスキルは難なく短期間で修得してしまった。

 ・彼氏いない歴

    :17年。この様な性格にも関わらず、モテすぎるほど

     モテるのだが、祖父以上に魅力的な男性など在り得ないと

     いう重度な”グランドファザコン”のせいで恋愛感情が

     芽生えないらしい。

④代表曲名


   曲のテーマは、企業経営や時事用語に関連するものが殆どだが、多くは本人以外意味不明。また

 『異常な天才』であるシャロンは、全ての曲を即興で作る。そして同じ曲を2度演奏することは稀。

 「自分にとって音楽は思考ツールに過ぎない」というのが彼女の言い分だが、ホントは忘れて

  しまっているだけらしい……。



 ◇シャロンが最近作った曲



  タイトル:『怪奇日蝕Evel』 (←コロナ禍をもじったもの…) 


  怪奇日蝕Evel!濡れた小舟はタイヘン!

  デカい波にさらわれた キミのハートをRescue!


  後悔(航海)してからナンパ(難破)!

  流れ着いた小道で 一人波を見つめている キミの瞳にMissing you!


  Ah つながること恐れて 何を泣いているの

  キミが もし今 (秘密のサインOKしたなら…)

  ボクは巨大化 

  I can change…,I can change…,I can change your mind!


  約束したよきっと(want you!)  万里の波頭乗り越え(want you!)

      キミのとなりで生きたいのさ! 遠い明日へ Fling for you!

  キミと一緒に Fling for you! 




  (※曲調:ハードロック。メロディーラインのみ筆者作成済)


  タイトル:『Do it today!!~共創しようよ~』 

                        


       寝坊して見上げる 窓の外は雨で 

   夢の色さえも 洗い流している

       輝ける可能性なら 形に変えようよ

   昨日 気付いた その希望が 消えてしまう前に……


  Do it today!! 今日、そうしよう!!

  南風が吹き始めた この街のどこかで 

  誰かが描いた 設計図も 未来仕様!


  Do it today!! 共創しよう!!

  舞い上がり踊る 光の花びらを集めたら 夢に描いた空へ

  続く道を 作りに行こう 心つないでさ…



  都会の雑踏と 苦笑いの中で

  自分との約束 破り続けてきた

  霧の中 傷付いても 手探りで駆け出そうよ

  動き始めた この世界に 置いてかれる前に


  Do it today!! 今日、そうしよう!!

  ボクらを見下ろす心臓破りの丘だって

  そう、みんなの夢掛け合わせ 駆け上がれ!


  Camon now!!共創しよう!!

  走り続けてく意味なら 未知の先にある

  だから顔上げて 進もう


  朝焼け空 赤く染まる 新しい世界へ

  続く道を 作りに行こう 心つないでさ




(※曲調:エモい系。メロディーラインのみ筆者作成済)

(※”Do it today” は、「今日そうしよう」とかけている)

    



⑥アーティストの歴史(その1)



《出会いと出会いのプロローグ》


 鬱陶しさの極致と表現しても差し支えない六月の雨にも、少しだけ良いところがある。それは、見飽きて見飽きて見飽き尽くしたこの東京という街を、ほんの一瞬ではあるが、見知らぬ異邦の風景に変えてくれることだ。太陽は分厚い雲と雨の中に溶け堕ちて久しく、土やアスファルトでできた地面は消え、滑らかな水鏡を敷き詰めた道路だけが存在している。その運河のような道の上を、水中翼船に生まれ変わった愛車のポルシェがすべり抜けていく。

 とまあ、その日はこんな気分で皇居周辺のドライブを堪能していたわけだ。兼ねてよりの懸案事項であった某社との協業案件をまとめ上げた直後だったので、ことのほか気分がいい。

 

 私の名前は、茶虎(ちゃとら) 悠乃(ゆうの)17歳。“ビジネスの虎娘”と呼ばれる超若手カリスマ経営者だ。だから高校にもいっていない。高校に通って勉強するよりも、金で高校を買えるようになった人物の方が強いからに決まっているからだ。とここまで書くと、堪え性のない貴兄らは、「何で17歳で乗用車を運転できるんだ?」とか、「生意気すぎるだろ!」とか、そんな浅はかな羨望まじりのことと推察する。

 よって、一つ一つ答えよう。まず何故わたしが17歳なのに一般道でポルシェを走らせることができるか? それは「金持ちだから」だ。当然だ。金があれば何でもできる。免許証を偽造することも、もし万が一警察につかまったら、替え玉を立ててそいつに罪を償わせることも。そういうものだ。ましてや私は企業オーナー。「人」「モノ」「金」の全てが、指一本でいくらでも自由になる。

 そして次の質問。「私が生意気か否か?」答えは「否」だ。なぜなら生意気とは、強者が弱者の分不相応な振る舞いに対し述べる苦言である。ならば貴兄らよりも強者である私が、そのような苦言を受ける云われは無い、ということは自明だ。

 最後にもう一サービス。貴兄らが私に対してのたまわる最も在り触れた発言への回答も提示しようではないか? 言わずもがなだが、貴兄らの口から私に向け発せられり最も多くの比率をしめる言葉、それは私への賛辞であり賛美であり、そして私への愛の告白だろう。そんなことも分かっている。それを踏まえたうえで、私を慕う有象無象の貴兄らに伝えたい。「貴兄らが私と話すなんて、100年早い」と。別の言い方をするなら、「一度死んで、生まれ変わってから出直して来て欲しい」と。

 だって私は勝ち組なんだから。保有する7社のうちの3社が赤マル急上昇企業として市場からも注目を集めているし、その中の1社に至っては既に株式上場も視野に入っている。資金繰りは常に盤石で、各業界にも祖父の代からの強力な人脈があり、恐いもなど何もない。この絵に描いたような勝者が、しかもまだ十代後半のピチピチギャルだというのだから、モテてない方がおかしい。ゆえにモテまくっている。男にも女にも。まあ質実剛健な実の祖父にしか、男性の理想を見いだせない私が羽目を外したことなんて一度もないのだけれども。

 そんなことを考えながら半蔵門の信号を曲がる。黒麹町あたりまできたころには、私の心の高揚最高潮になり、この世で出来ないことなど何一つ無いような気さえしてきた。そうだ。私は何でもできるんだ。ならばもしかしたら、絶対に不可能だと考えていた「あのこと(・・・・)」も、今すぐにでも出来るのではないか?いや違う。絶対に出来る。出来ない筈がない!


 私は猛る心を抑えきれず、ポルシェを路肩に停め、傘もささずにドアの外に出た。

 そうだ。今やるんだ。今この瞬間やらなければ、こんなチャンス、一生廻ってこないかもしれないじゃないか!そうしたら、私はずっと後悔し続けるかもしれない。

 腹を決めた。意を決した。私は大きく深呼吸してから、右拳を高く掲げ、あの禁断の言葉を叫んだ。


「わっ、わっ、わっ、わっ、がっ、がっ、がっ、じっ、じっ、じっ、んっ、んっ、んっ、せっ、せっ、せっ、いっ、いっ、いっ、にっ、にっ、にっ……」


やっとのことでそこまで言葉を発した。それは戦いだった。己の羞恥心や常識というあらゆる(くびき)との戦い。正直、こんなに苦戦するとは思わなかった。でも私は、茶虎 悠乃だ。絶対に負けない。だって勝利はもう、すぐ目の前なんだから……。


「いっ、いっ、いっ…、ぺっ、ぺっ、ぺっ…、んっ、んっ、んっ、のっ、のっ、のっ……、くっ、くっ、くっ、くっ……、いっ、いっ、いっ……、なっ、なっ、なっ……」


 ついに、私は辿り着いた。勝利の女神の祝福の声が、もう聞こえてくるうう・・・…って、何ぃぃっ?!!



「のわっ?!!」



 いきなり、突然、私は謎のママチャリによる、体当たり攻撃(ジャスティスアタック)の直撃をモロにくらわされてしまったのだ。

 とっさに叫ぶ。



「イタっ!なにすんだ?テメー! っていうか、なんてことしてくれたんだ?ああん??今私は、人生をかけた、自分史上級の己との戦いに挑み、勝利をまさに掴みかけてたところなんだぞ!」 



 実は身体的にはそれほど痛くはなかったのだが、でも人生的には重傷といっていい傷を負わされたのだ。当然文句を言うべき場面だ。自転車に乗った男がトラウマになるぐらいに…。この泣く子も黙る虎娘を舐めんなよ?

「おう、テメーよ?どうしてくれんだ?アルマーニの特注スーツに、キタねえタイヤの跡がついちまっただろうが!ああんっ?」

 まず手始めにジャブ程度の恫喝をぶつけてみる。そのにくたらしい男の背中に……、て、女? ていうか…女の子?私と同い年ぐらいの?? ええええええ???


「 ちょっと待て、おかしいだろ?何でこんな女の子が、深夜の土砂降りの中で傘もささずに自転車こいでんの……?」


 柄にもなく困惑した。でも、こんな困惑は、これから始まるコイツとの腐れ縁の中では序の口も序の口だったのだが。

 そして女の子が振り向く。それは、ハッとするぐらいの、いや人間離れした、むしろ妖精っぽい感じの、華奢で繊細で、そして美しすぎる女の子だった……。現実味がない。非現実的すぎる。もはや神話に出てくる泉のほとりで不思議な何かと対峙してるような気持ちになっていた。

「……ハーフ?」 

 情けない話だが、そんな無意味に近い言葉を口から出すのがやっと、という状態だった。私は、まるで神託を待つかのような(おご)かな気持ちで、その謎の少女が発する言葉を待った。 


「あの、ハーフって誰ですか?ボクはそんな名前じゃないんだけど?」


 えええええ?イマドキそんな返しをするコがいていいの?室町時代の一休さん並みのセンスじゃん?っていうか、”ボクッ()”? えええええ??

 ヤバい……、ヤバいぞ……。この私としたことが、完全に相手に飲まれてる。いや飲まれてるかはわからんが、少なくとも相手のペースに乗せられてる。おかしいだろ?被害者だぞ、私は。しかも、普通なら、私にこんな無礼を働いてタダで済むはずもないとわかりそうなものだろ? というか私は、私が恐いということを相手に思わせなきゃいけないんだ。だって、それが私という人間の生き方なんだから…。

 叫んだ。自分を鼓舞するために。私が私であり続けるために…。

「マジで東京湾の魚の餌にすっぞ、コラア!」

 さあどうだ、案の定じゃないか?この子も流石に神妙な顔をし始めたぞ…。私の叫びは猛虎の咆哮。常人がたじろがないワケなどないのだ。

 少し安心した。よし、このまま相手を睨みつけて、今こそ反撃のタイミング……のはずだった。しかし妖精のような少女の飄々とした発言は、またしても私の脳ミソの無防備な部分を直撃した。


「ああ、つい、自転車にブレーキを付け忘れてました………」

「………」

 え?聞き間違えじゃない、よね?  えええええええっ???唖然とした。だってそれ、もう純然とした交通法違反じゃん!

「ふざけんな、大問題だろ!自転車のライトを点けわすれてました、みたいに簡単に言うな!!」

 少女は、私のツッコミどころか、ザアザアぶりであることすら意識していないかのように飄々とした態度を崩さない。腹が立ってきた。

「じゃあ仮にだ!お前が、悪意など無く、『つい(・ ・)自転車にブレーキをつけ忘れていた』としてもだ、ちゃんと前を見えてれば、私にぶつかることなんてなかったはずだろ!!これはどう説明する気なんだよ?」

 この怒りが伝わっているのかいないのか、いやいないに違いない。彼女は見事なまでの自然体で私に言った。


「ああ、スミマセン、間違って、目隠ししながら自転車運転してました……」


って…、おま…え…?ええ? えええええええええええ???

「ホントだ……!! ホントにお前、目隠ししていやがったっ!!!」 

 それは昼寝グッズのアイマスクのように、いやそれよりもっと下手クソなタッチで布に大きな目が描いたような本当にふざけた目隠しだった。(コイツは、ずっとこれをつけたまま私と話をしていたのか?そして私はずっとそれに気付けなかったというのか?)



 だけど、どうしてこんなにも私の目は節穴だったのだろうか?暗かったから?土砂降りだったから?それもあるだろう。でも一番の理由は、脳が拒絶していたのだ。この目の前のヘンな少女の行動を理解してしまうことを、私の脳が全力で拒絶した結果に違いないのだった。でも、問題はそこじゃなくて、このボクッ娘の、飄々とした態度全般だろ?!




「ああ、大丈夫ですよ。こんな深夜じゃ、誰にも見られる心配ありませんから……」


「違っがあああああうっ!!『誰にも見られない』とか、そういう問題じゃないから!!!お前が、お前が前を見ろよ!お前が心配しろよ!もうそれ、前方不注意とかいうレベルじゃねえぞ!!!」



「いやあ、心配には及びませんよ?ボクはこの辺に慣れてますし」

「お前、自分がぶつけた相手にそれを言うって、どういう神経してんだよ!」

「でも、大切なのはリズム感ですから。そう…、自動車にも信号機にも、この世界のあらゆるものには、全て一定のリズムがあります。それは呼吸とも言っても間違いないんです。それさえわかれば、皇居の周りなんて目隠ししたまま百周でも走れます。ただ、あなたの動きは少し不協和音でしたのでぶつかっちゃいましたが……」

「私のせいになってる??!」

 ダメだ。もう意味がさっぱり理解できなくなってきた。精神的に疲労困憊(ひろうこんぱい)した私は、力なくポルシェのボンネットに両手をついて項垂(うなだ)れるしかなかった。

 するとボクッ娘は、今度は心配そうなそぶりを見せて、そして、そのふざけたアイマスクをおもむろに外したのだ。 

 目隠しをしてすら妖精に見えたその少女の本当の素顔を私は見た。


 息が、止まったーー。不覚にも、言葉が勝手に口の外に出てしまった。



「あなた…天使……なの?」




                              (続く)



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