第2話

文字数 892文字

 旅行日程は二泊三日で、一日目は宿に着いた後、そのまま海を見に行った。
 海は広い、大きいとよく話は聞いていたが、実際に目にするとその大きさは想像を絶する物だった。右から左まで海、海、海。初めて聞く波の音はなんだか初めてのような感じではなく、不規則なリズムで私の耳に残った。夜の海は全てを飲み込むように真っ暗な口を開けていた。
 二日目になり美ら海水族館にいき、ジンベイザメや魚や色んな生物が生きていた。本や図鑑などからでは分からない確かな生命力が水槽越しから私に伝わった。
 帰りにはまた全員で海を見に行った。私はもういてもたってもいられなかった。あの大きな海へ一目散に走った。あ、おい!と何人かが呼ぶ声が聞こえたが全て無視して私は海に飛び込んだ。
 気づいたら止める声はほとんどなくなり男子の数名も海へ続々と飛び込んだ。
「春なのに海に飛び込んじゃったよ。」
「寒い?大丈夫~?」
「高校の偏差値ばれちまうよ~」
 男子の何人かはお前そんなキャラだったっけ?とケラケラ笑い、砂浜の方では祐介や結菜がゲラゲラ笑ってる。
「おっしゃ!行こうぜ!」
 と祐介が号令し海へボチャボチャダイブした。真面目な森本ははぁ、とため息をつき
「体調悪くなったら僕のところ来てください~。あとあんまり沖には行きすぎないでね~。」
と声が聞こえた。
 春なのに割と暖かかったのもあって、体はそこまで冷えてなかった。初めての海なので、みんな膝下から腰が出るくらいの場所で遊んでいた。
 夕暮れになりそろそろ帰るよ、と森本から号令があった。名残惜しく海を後にしたとき、祐介はかき氷を二つ持ちながら誰かを待っていた。夕陽に照らされながら少し赤くなった彼からは潮の香りがほのかに香った。
「あ、美咲!これかき氷。俺のおごり。」
 まさか自分を待ってると思わなかったのでおっと変な声が出た。
「マジ!ありがとう。」
 私の顔を見ると彼はふふっと笑った。
「たまにはわがままやりなよ。」
 そう言ってかき氷を渡された。そういえばちっちゃい頃の私は誰よりも自由奔放だった気がする。イチゴシロップのかき氷は口の中に残った海水と混じってあまじょっぱく広がった。
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登場人物紹介

坂田美咲:主人公。高校三年生。小学校中学年までは活発な少女だったが、気づいたら外であまり遊ばなくなってしまった。昼休みの時間などでは絵を描いたり本を読んだりして過ごしていた。

神田祐介:高校三年生。スポーツ万能でリーダーシップがあったので級長を任される。小学校まではよく美咲と遊んでいたが、気づいたら疎遠に。ただ中学、高校と美咲と同じ学校に進んでいる。

山本結菜:高校三年生。中学校で同じクラスだったのをきっかけに美咲と一緒に遊ぶ仲に。部活が一緒とかではないのだがなぜか相性が合い美咲とよく遊ぶ。美咲の一番の親友。

森本涼太:高校三年生。神田祐介の右腕と呼ばれている。マイペースで緩い感じの印象を持たれやすいが根がしっかりしている。先生からの評価が常に高い。

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