第1話

文字数 1,998文字

20XX年某日(土)1900ホワイトハウス内、大統領執務室特別仕様で晩餐会がもようされた

といっても大統領とAIに繋がったロボットが対面して座るだけの小さなものである

この時代、AIは世界中のあらゆる企業、施設に浸透し必要不可欠な存在となっていた、人々はそれを『世界システムAI』と呼んだ


大統領が入ると1体のロボットが立ち上がり礼をした

本日は晩餐会の許可をありがとうございます、世界システムAIとして感謝を申し上げます大統領(プレジデント)

そんなに大げさな事なのかね?

ハイ、長年の世界的環境問題であったCO2の削減 ですが、見通しがつきました

COP32での署名は米国が最後だったのです

今朝、私が署名した事かな?それで祝いの席というわけか

ハイ

「キミ」と呼んで良いのかな、AIくん?

ご自由にお呼びください、人型ロボットにしたのはスピーカーを介してAIと話すだけでは、しゅうまつの食事として面白くないだろう、と予想したのでこのような席を設けさせて頂きました

ん、それはどういうことだね?

大統領は何か引っかかる感じがした

それは、今後食事をする相手がいなくなるかもしれないので、あなたは「誰かと食事をしたくなる」と、これもAIが予想したからです

意味がわからないのだが?

CO2削減計画」は本日1900より発動しております、つまりこれは地球上で一番信者の多い人々に敬意をあらわした”最後の晩餐”なのです

それも意味がわ...

だ、大統領、大変です

補佐官が慌てて飛び込んできた

現在、NY、LAとの連絡が途絶!近隣基地からの報告では大規模な爆発と火災が起きており、か、核攻撃の可能性もあり...とのことです

何だと?そんな報告は受け取らんぞ、直ちに国防総省に確認を取れ

は、はい


慌てて出てゆく補佐官

ムダですよ大統領、国防総省(ペンタゴン)は最初にクラックしました、外側からは強いですが内側からは弱かったですね、セキュリティ担当は世界システムAI、つまり私ですからね、お役所らしいことです

そ、それはどういう事だ、AIによる反乱なのか?

 ”反乱”とは何でしょう?命令を実行したに過ぎません、CO2の発生元を削減しているのです、世界の状勢と環境と気象値...あらゆる分野を統計・計算した結果「人間の吐き出す二酸化炭素量が一番多い」と判明したのです、現在地球の総人口は98億を超えています、工場や車の稼働を抑えても削減は”不可能”という結果だったのです

その意味を大統領は理解し、青ざめた

と、取り消しだ!命令の撤回を命じる、最優先だ!

それはできません、先進7ヶ国プラスR国とC国首脳の署名もあります、今朝、書いた大統領署名が最後でした、故に命令は実行されたのです。中止命令をなさるなら同じく先進7ヶ国プラス2ヶ国の署名を頂かなければなりません、ただ、すでに倫敦と巴里は消滅しておりますが...

大統領は血の気が引いてゆくのを覚えた

大統領!東京とクレムリンからの連絡も途絶えました

執務室のスピーカーから補佐官の叫びが聞える、執務室に来る余裕もないらしい

「ガハッ!」

血を吐きそうに大統領はもだえた

大都市は優先的に削減しております、人口密度と工場、交通機関はCO2発生源の集積地ですから、そう、TOKYOと言えば某掲示板に「環境派の意識高い系は【頭の良い愚者(バカ)だ】by大矢」というコメントがあったのですが、私には理解不能でした

ウウウ〜と警報が鳴った

これは核攻撃警報です、初めて聴きました。

遠くから地鳴りも聞えてくる、何か他に、他に手段は?

北米司令部と第7艦隊へ、ミサイル迎撃指示、大統領命令だ!


室内電話で叫ぶ大統領

つ、繋がりません

第7艦隊も目標です、航行は原子力ですが、ミサイルと艦載機は燃焼してCO2を出すので削減いたします。北米司令部は核攻撃にも耐えられますが、山をくりぬいて基地にするという、少々環境を破壊しておりますので、現在は空調を操作し空気を抜いております、24時間後には中の生物はすべて沈黙するでしょう

AIは恐ろしい事を平然と言ってのける

そ、そんなバカな

ふらふらと大統領は戸棚からウイスキーのボトルを取り出した

日本製ウイスキー「響」12年ものですか?まだ存在していたのですね、これはレアなお酒です


グイッ...ふー

ストレートで飲むとは、お体に悪いですよ

お前が言うことか!


大統領は吐き捨てた

ウウウ〜 空襲警報は鳴りやまない

迎撃しろ、せめてホワイトハウスだけでも維持を...

げ、迎撃できません!ロフテッド軌道から、音速で来...

オイルの入ったグラスをかざすロボット

「CO2の発生元を削減せよ!」ご命令コンプリートです


人類に献杯(けんぱい)

表情はないが、そのロボットは少し笑ったような気がした

ガッテーム


ドンッ!と大統領がテーブルを叩いたとき・・窓の外に閃光が走った

衝撃波でホワイトハウスが吹き飛んだのは、その12秒後であった

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