『しあわせになれる靴』
文字数 3,665文字
ホラーな話が昔から駄目なわたしにとって、本当に居心地が悪かった。
F美も、悪い子じゃないっていうのは分かるし、むしろいろいろと気にかけてくれて助かってはいるのだが、どうにもこの手の話は嫌なのだ。
だからこそ、わたしはこの一か月、学校の帰りに寄り道をしたことがなかった。
前の高校だったら、帰りにカラオケやファミレスに寄ったものだが、今は学校が終わったらすぐに家へ帰りたくてたまらない。
帰路が一人になるのは、怖い。
こうして、わたしたちは帰り道に、靴を探しながら歩くこととなったのだった。
革靴のそれは、気味が悪いくらい、綺麗に整ってそこに置かれていた。
他人の家にお邪魔するときに、きっちりそろえるような、そんな感じだった。少なくとも、たまたま落としてしまった、という様子ではない。
――その直後。
あのままF美が靴の元へ行っていたら、ただじゃすまなかっただろう。――いや、ただじゃすまないどころの話ではない。確実に、死んでいたはずだ。
そう思ってしまうほどに、車は猛スピードで突っ込んできていた。
幸い、運転手の意識はあるようで、少しだけ、ほっとした。
救急車が去った後も、なんだかまだ現実感がなくて、わたしは、警察の人と話をしながら、ぼーっと車の方を眺めていた。
そうして、いつの間にか、靴が消えていたことに気が付いた。
なんだか過剰に気にしてしまって恥ずかしい、と思ったが、どうやら警察の耳にしっかり入っていたようだ。
警察官なんて、お堅い職業、というイメージしかなくて、女子高生が話半分に噂する怪談話を知っているとも、ましてや信じているとも思っていなかったのだ。
流石、献花地町、というところだろうか。
おじさんも、幽霊とか、そういうのを信じてるわけじゃないが、危ないことに首を突っ込むのは良くない。
少なくとも、自殺志願者のような、人生諦めきってる奴に遭遇する可能性はある。
その日から、F美のオカルト好きはなりをひそめ、おとなしくなったのは、言うまでもない。