最終章:萩の月

文字数 914文字

それから5日後、英恵さんが亡くなった。

騒動があってから、英恵さんを見舞った人たちからもらった手土産の一つに、毒が入っていたらしい。警察は事件として捜査していますが、犯人は分からないままだということです。『最後に食べていたのは萩の月なんですよね。』君枝さんはそういうと、買い出しの袋を片付けながら住吉さんに話しました。『萩の月ですか・・・おいしい銘菓ですよね。』『えぇ。ただ、母が若い時から好きだったお菓子なので、母以外は手を付けないようにしていたんです。ちょっとでも元気になればと思ったんですが。』

『あ、住吉さん。そういえば押し入れから母の日記が見つかって。どうやら亡くなった上岡さんと母は、昔から知り合いだったみたいです。知り合いというか・・・元々恋仲だったみたいで・・・』

『え・・・』住吉さんは言葉が出なかった。

『そうなんですよ。私たちも知らなかったんですが、これー』

5月10日 将から別れを切り出される。どうやら女ができたらしい。酒乱で暴れん坊の将に今までずっとついてきたのに、どうして。悲しい。あの女許せない。

弱しい筆跡であり、英恵さんの心情を考えると、住吉さんはいたたまれなくなりました。『ちょうどその1年後に父と母は結婚しているので、上岡さんに振られたってことで父と結婚したみたいですね。』君枝さんがそう言うと、住吉さんは嫌な予感がしてしまった。

『そういえば上岡さんは奥さんに先立たれて、娘さんを一人で育ててたんですよね?奥さんが亡くなったのって食中毒でしたよね?まさか・・・』そこまで言うと、住吉さんは大きな咳ばらいをして、今まで話したことをなかったことのように、君枝さんに日記を返しました。

『私もね、何となく・・・でも何も証拠もないし、自分の両親が二人ともそんな人だったなんて思いたくないので・・・』君枝さんは不意に遠い目をしてかすれたような声でそう言いました。『上岡さんの娘さんはその後どうしているんでしたっけ。どこかに住まわれているんですかね?地元にはいらっしゃらなかったですよね?』住吉さんが尋ねると、君枝さんは目を見開いてサッと血の気の引いた顔で、住吉さんを見ながら一言だけつぶやきました。

『仙台・・・』
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