第7話 自由の彼方、歓喜の羽田空港

文字数 1,224文字

○マリ出産から七年後、陸上自衛隊A駐屯地WAC隊舎44号室
ヒョンヒはもう七歳、普通なら近所の小学校にあがる学童年齢だわ。でも、三ヶ月ごとに国内の駐屯地をたらい回しにされてるようじゃ、それも無理ね。
ヒョンヒちゃんの教育については何の御心配もありません。四月から専属の家庭教師がついて全教科を履修することができます。
オモニ、ワタシは平気よ。ここで勉強するわ。
ヒョンヒ、違うの。ワタシはね、おまえのお婆さんに女手一つで育てられたのよ。ワタシは生まれてくる自分の子におなじ寂しい思いだけはさせたくはなかったのに....これは遺伝ね。
マリ、涙。
(ヒョンヒ)オモニ、お願いだから泣かないで。
高木さん、私達親子を北に送って頂戴!
えーっ、だから欲しいものがあれば何でもワタシにおっしゃって下さい。
違うの。私達親子に必要なものは人間らしい自由なの。こんな籠の鳥みたいな不自由な生活はもうまっぴらゴメンだわ。
で、ではワタシと結婚しませんか?ボクは以前からマリさんのことを...
それも上から指示された偽装結婚なんでしょ?嘘でも嬉しいわ。でも違うの、ヒョンヒの実の父親は北のトップであるキムJWなの、ヒョンヒに父親の顔を見せてやりたいのよ。そしてワタシには夫が必要だわ。
マリ、また涙。
高木さん、オモニをいじめないで。
もう何を言っても無駄なようですね。わかりました。上に掛け合ってみましょう。
○東京永田町、首相官邸
(国家公安委員長)首相、マリ親子が北への亡命を希望しています。
(首相)はーっ、これでマリ親子を北に送ってしまったら、Blood Shieldの態勢は崩れるな。北はまた核開発の路線に逆戻りだ。アタマがいたい。
(防衛大臣)何をおっしゃる。これぞ千載一遇の機会。今こそ腹を括る時。
(首相)ん?そうか、しかし北がそうやすやすと二人対二百人の人質交換に応ずるかな。
(外務大臣)応じるでしょう。こちらの切るカードは、ハートのエースとクイーンですから。
(首相)それでは韓国政府に掛け合って、韓国陸軍、KCIAと連携してマリ親子を38度線の板門店から北に引き渡す手筈を整えよ。
了解致しました。
○それから一ヶ月後の日本国羽田空港
(jptv)大変な奇跡が起きました。タイのバンコクを経由した大韓航空機で、日本側の拉致被害者約200名、ほぼ全員が帰国しました。発着ロビーは大変な混乱状態です。
わー、わー、わー、押すなよ
首相、拉致被害者の突然の全員帰国、これはどういったことなのでしょうか?
わー、わー、わー
ワタシも今朝、外務大臣から報告を受け、急遽永田町から駆けつけた次第でして、水面下の事務方の努力が実を結んだとしか申し上げられません。
以上、歓喜の羽田空港から首相の声をお届けしました。
○同時刻、38度線板門店
さようなら、マリさん。ヒョンヒちゃん。
北で御達者に。
(KCIA)アンニョンハセヨ!
北側へと消えてゆくマリ親子。
アンニョンハセヨ、バイバイイルボン。
さようなら、私の祖国日本。
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