黒いものについて

文字数 6,741文字

「君は誰か?黒いものよ」
僕の中心にある黒いものがなんなのかわからない。それが何を意味するのかわからない。その黒い塊はjohn lurieを好んだ。Marvin Pontiacを好んだ。
 カー、カー、あの日からカラスの声は聞こえなくなった。カラスとの旅を始める。
 僕の後ろに立つ影のような自分がいる。彼は知っている。黒いものが何かを。黒いもの自体である自分も、この世が仮想現実であることも知っている。
 黒いものは煙を好む。肺に煙を入れ、それを出す無意味な行為を好む。
 その黒いものは『はらいそ』を好む。そのバスタムを好む。
「この次はもうあなたよ」
その言葉の意味を考える。
 その黒いものは本質的という意味の言葉ではない。そんなに合理的な意味ではない。無秩序なものでもないが、そんなに芯を喰った意味の言葉ではない。それ自体として存在している。その黒いもの。それは自分を意味する。
 いつのまにか服装が黒くなった。意識してないのに、黒が集まってきた。黒のティーシャツに黒のディッキーズに黒の革靴。彼は統合失調症である。カラスの声を何かの注意と受け取り、カラスの跳び立つ姿を目にした時、それを行けの合図と受け取った。彼はカラスが好きなのだ。カラスは現実を教えてくれる。スズメも好きだが、彼らはカラスほど間近ではない。現実を間近に見るカラスほど、現実を教えてくれない。ハトも好きだが、ハトほどカラスは平和ではない。
 好きなものはなんなのだ。その黒いものよ。
 その黒いものはコーヒーを好んだ。カフェインを好んでいるのではない。その苦味が好きなのだ。その苦味の中にある甘みが好きなのだ。
 その黒いものはそんなに甘くはない。甘い生活をしていても、現れてくれない。甘くはない。しかし、苦くもない。苦しめば現れてくれるというものでもない。苦しんでも現れてくれない。心に従い続けていく中で、心が消失し、空洞となった時、現れるような気がする。そんなに甘いものではない。でも、それは本当の意味で甘くはない。甘いかもしれない。本当の意味で甘いかもしれないが、甘くはない。決して甘くない。現実のようなものだ。陰というわけでもない。もちろん陽でもないのだが。
 君は何を好む。
 心の映るものを実行していく。茶番かもしれない。それでも実行していく。そうすると心が変容する。その心の表層的な移り変わりは、表層的ではあるが、対応しない手はない。それが定めであるかのように対応していく。心の変容について行かなければならない。ついて行っている時点で、心と君は一体ではない。もっと早くということでもない。が、それでもついて行く。側。それは心の側だが、そんなものいらないのかもしれない。側のある人間は今自分に側がありますと伝えているだけにすぎない。その中身に実は存在する黒いものを知らないのか。黒いものを知った上で側を作るやつなどいない。そんな面倒なことはしない。心の変容で僕は文章を書いている。黒いものを見つけるために文章を書いている。それが表現なのだ。黒いものがなんなのか突き詰めたい。
 
 僕はきつい物事の中に楽しみを垣間見た。それを感じるために、もう一度きついことをしようとはまだ思わない。それが究極の楽しみ方なのだと、そんな感じがする。それは自分から迎えに行くものではないかもしれない。自然な流れの中でそういう状況に追い込まれるものなのだ。その中で楽しみが実はある。自分からきついことを求める人間はいない。求める者は無知なのだ。無知さゆえにきついことを求め、きつい状況から脱することで、ある一定の無知さから脱却しようとしているだけなのだ。その無知さを知っている者はもう一度きついことをしようとは思わない。わざわざ、自分からきつい状況を迎えに行くことなどしない。無知だからそうなるのだ。今僕は人間だ。黒いものの姿を捉えることはできない。

 少しだけ顔を出す。その黒いものはだんだん僕を侵食していく。侵食しているのではない。元々あるのだ。その存在に気づきかけている。というか気づいている。でもまだ、顔を出さない。その黒いものは。

 肺が痛い。左の肺が痛いのは施設にいた時もだった。左の肺が施設の記憶を思い出させる。あそこに僕はいた。痛かった。あの時も左の肺が痛かった。白い部屋の中で、僕は孤独だった。左の肺が痛む。黄色く光る幻覚の中に僕はいた。白い壁に絵が映る。その絵は様々な死体が愛撫し合う絵だった。そんな酷な絵を見た。そんな粗末だけど、高尚な絵を僕は見た。僕が描いたのか、誰かの絵なのかわからない。僕は少し焦る。でも、冷静な自分もいた。その心の痛みを楽しむ自分がいた。そのためにここにきた。この状況を楽しむためにここにきた。しかし、その代償はある。心を苦しめ続ける状況を楽しんでいたが、心の感覚が鈍感になっていくのだ。心は幻覚を見せる。その幻覚を楽しんだ。次の世界へと次の世界へと、僕は急いだ。心を苦しめることによって、僕は新しい世界を見たかった。でも、それも疲れてきた。そんな時、僕は飽き飽きして、休むことに決めた。こんなに白い部屋にベッドが一台。僕は好きなだけ休める。何もしなくていい。幻聴は聞こえなくなってきた。そこにあるのは無。僕の心は僕に愛想を尽かして出ていった。何も感じない僕は好きなだけ無になった。表情は強張り、目は宙を見ている。目は虚。でも意識だけははっきりしている。そう僕は意識だけの存在となった。そんなこと僕は気づかないけど、今わかる。僕は意識だけの存在となった。心のない状態が続き。心が鈍感になった状態が続いた。たまにストレスや怒りを感じた。一緒に卓を囲んだ統合失調症患者に対して、ストレスや怒りを感じた。彼は東大卒の年上の統合失調症患者で、統合失調症というのは元々精神分裂病と言うのだと教えてくれた。彼は将棋がうまかった。

 心の消失がどれだけ楽か僕は考えた。生きていく上で心さえなければどんだけ楽に生きられるか僕は考えた。僕は直接的に手を下した。心を直接的な形で解剖しようと試みた。理性によって、心の芯からストレスを与える。耐えきれなくなる。そしたら、辞める。そしてまた、心にストレスを与える。耐えきれなくなる。そしたらまた、辞める。それを繰り返す。それを繰り返すことによってのみ、僕は道が開けると思っていた。そんなにつらいことを繰り返すことによってのみ、生きられると思っていた。だから、僕は絶望した。そんな道しか知らない僕に自殺がよぎった。そんなにつらいことを続けるのは絶望的だった。未来に自分が生きられる自信がない。そんなにつらいこと続けられるはずがない。でもそんなことしなくとも、心は消失したのだ。
 自殺を考えた。自殺する人の気持ちがわかった気になった。未来に希望を見出せられないのだ。唯一自殺する人と僕が違うのは、自殺をするという欲求すら湧かなかった。自殺する欲求すら湧かなかった。いつか死ぬのだろうと考えていた。この施設で死んでいくのだろうと考えていた。その時、僕はこの場所が施設ということすらわからない。この白い建物の中で死んでいくのだろうと漠然に思っていた。希望が見出せられないのだから、生きていく価値はない。そんな欲求はない。疲れ切っていた。そんな時、僕の中である言葉が蘇った。元カノであるオーストラリア人が言っていた。死ぬのなら私は食べるだろうと。死ぬ直前になれば私は食べるのだろうと。だから、僕は食べた。チョコやお菓子を食べた。飯を食べ、おかわりをして、食べ続けた。どうせ死ぬのなら、食べるしかないじゃないか。そんな欲求は僕を満足させるものではなかった。食べ続けても僕は満足しなかったが、どうせ死ぬのなら食べようと思った。僕は15キロ太った。モデルをやっていた頃の面影などない。ただまんまるに太った統合失調症患者がそこにはいた。みんな太っていた。そこの建物にいたみんな腹が出ていた。僕はそれを目指すのだと。その腹を目指すのだと、食べ続けた。

 真昼間、ある看護婦が言った。楽しいことを考えてねと。楽しいことを考えたら楽しくなるのよと。僕は今でも覚えている。その時、その言葉の意味はわからなかったが、今でも覚えている。今わかるその意味が。涙が出そうになる。そんな真理僕にあの時教えてくれてありがとうと今では思う。少し心が感動を覚える。でもそれは少しだけ。涙腺に涙が届くか届かないかそのレベルで泣きそうになる。今でも心は健在である。僕に言葉を書かせるこの心の奥底にある黒いもの。その姿はまだはっきりとわからない。この言葉は僕が黒いものを見つけるための言葉なのだ。そんな言葉を読んでくれてありがとう。

 これまで、そうやって生きてきたが、心にストレスを与えて生きてきたが、今では思う。そのストレスの元はなんなのかと。それはメッセージであり、愛の変容なのだと。その痛みは愛の変容なのだ。その愛の奥にある黒いもの。それを僕は追い求める。それは存在そのものを疑った先にあるものなのかもしれない。裏側にあるその黒いもの。無意識との繋がりとも呼べるかもしれない。しっくりくる。それは無意識なのだ。意識しているわけではない。無意識を感じるという世界の中にいる。そういうトリップなのかもしれないが、感じる限り、それは現実だ。しかし、そんなこと考えていても生きて行けない気がする。やはり、黒いものなど現れない方が生きていけるのかもしれない。現実世界で生きていけるのかもしれない。表側の世界。そこで生きてなんぼのような気もする。でも繋がっているから、表で生きても裏に行き。裏側を見ても表に帰ってくる。自分の周りを周っているのだ。グルグルと。表と裏をグルグル周っているだけなのだ。だから、空洞なのだ。空洞の中を通って裏に行き、裏から表に帰ってくる。そんな行き来を人間は楽しんでいるだけなのかもしれない。そんな黒いものの存在を知らない人だっているだろう。注意深く観察していれば、でも気づく。
 そして、僕の脳は今聞いている音楽に戻ってくる。ほら、表に帰ってきた。この視点は上だ。上のような気がしていた。でもまた裏に返る。そんな行き来で世界を見つめているだけなのかもしれない。現実世界と裏側の世界、神的視点、そんな世界を行き来しているだけなのかもしれない。僕の心は空洞、脳が知覚する。脳で物事を考える。悪いことも良いことも。脳は必要以上に使い出すとネガティブな方向に動き出す。思考の方法がある。分野があるのだ。自分をもし、心地よくしたいのなら思考をポジティブな分野に持っていくといい。そうしていると心は安心する。それで、調子に乗って考えすぎると、心を置き去りにするのだ。心はストレスを抱え、自分は思考の世界の中へ。あまりにも非現実的なポジティブな世界の中で、ここにいたら大丈夫だと自己暗示する。そんな時、カラスが鳴く。現実を見ろとカラスが鳴く。ああ、忘れていた、心があったと思ってまた心に意識が向かう。そして、心を満たすために行動しだす。心に従い出す。その心を元に我々は思考を始める。そうするといい。余計なことを考えなくてすむ。ただ、自分の行きたい方向に舵を切って思考をする。そしたら、また、心のことを忘れ、心はストレスを感じる。なら、心を常に見とけばいいのか。そうすると、思考することを放棄することになる。思考は放っておくと悪いことをネガティブなことを考え出す。そして、心はストレスを抱える。だから、思考しないといけない。けど心を見捨ててもいけない。心を元に思考をすることを考えればいいのだ。そんなこと知らなかったよ。黒いものよ。君はその姿をずっと冷静に観察していたね。僕が思考や心に意識を向け、どっちつかずの、どっちつかずの判断で、どっちつかずの人生を送って悩んでいる時も、君は観察していたはずだ。君は常にいたんだ。ここに。今ここに。そして、尿が出そうだよ。そんな時も君はその姿を見ている。僕が文字を書いていることも知っている。常に見ている。黒いものに縋りたい気持ちが僕にはあるよ、黒いものよ。そこから景色を見てしまえば、どんなに楽だろう。痛みも苦しみも客観的に見てられる。でもその分僕は楽しめなくなってしまうかもしれない。人生を楽しめなくなってしまうのかもしれない。そんなに冷静に見つめないでくれよ。楽しめるものも楽しめなくなってしまうかもしれないだろう。でもそんなこと心配しなくたって良いんだよね。僕はたぶんありえないような心の一面を見ることになるんだきっと。予想を超えるような心の一面を見ることになるんだ。僕が生きている限り、そんなこと心配しなくたっていいんだよ。僕は生きているから楽しめるんだきっと。苦しみも痛みも楽しむことができる。生きることを楽しむことができる。僕の求めているのはこの社会でどうかますかとか、いくらお金が入るかとかそんなことじゃないんだ。君だよ、君に会いたいんだ。だから、生きている。それを感じたい。心の奥底から見つめる君を感じたい。そこに僕がいると思うから。僕はそれを感じたい。書くことだってきついさ。今だって僕はそのきつさを感じながら、君の存在を垣間見ようとしているんだ。今ここしかない世界で。垣間見ようとしても見えないよね。それは流れで出てくるはずだ。その顔はまだ見えないよね。流れで出てくるんだ。だから、また僕は現実世界に戻らなくてはならないんだ。君の存在を知っていながらも、それを待ち遠しく思いながらも、現実世界で生きなくてはいけないんだ。だから、僕はもう行くよ。

 どんな世界でも僕は僕を証明したいのかもしれない。それには確固たる自分が必要だった。それは変化する世界の中で唯一変化しない自分を見つけたいみたいなことだ。

 そいつは完璧な存在なのさ。カッコつける必要もない。すでにカッコいいのさ。そいつは直接見ても意味がない。相対的に見てなんぼなんだ。だから、色んなことをやった方がいいのさ。そこから、そいつが見えてくるんだ。

 愛みたいなものを感じていたよ。そこから、この世界に愛おしさを感じて、また戻ってきた。

 まだここにいたい。そんな気持ちも置いてけぼりで視点は動く。またこの世界だ。想像する、裏側の世界を。それはさっき感じていたものとは別物の世界なんだ。想像する裏側の世界。それは裏側の世界とは違う。やっぱり、行動することによって裏側の世界に行ける。そして、愛を感じるよ。視点が動く中で愛を感じていく。もっと強い愛を。もっと強い愛を。それを望んでもまだ見つけられないね。旅の途中だから。カラスとの旅の途中だから。カー、カー、カラスが鳴く。もう聞こえなくなったと思ったのに、カラスが鳴く。現実世界に引っ張られる。僕は生きている。この次元で。三次元で。この世界は愛に満ち溢れているはずだ。ちょっと違うかもしれない。それは。それさえも一つの見方でしかない。ほんの一時感じるだけのものなのかもしれない。父親に対する愛を感じるよ。母親を思い浮かべる。弟を思い浮かべる。そして、空洞となる。また、愛を感じる。ここにいることだけの愛を感じる。時間を見る。時間はないのだったな。ここにいる限り、時間はない。時間のない世界に君はいる。黒いものは見ている。今時間がないから、感じられる。君を、黒いものを。無限に言葉は出てくる。この言葉は、この対話はアートではないかもしれないし、これこそアートなのかもしれない。誰も介在することのできない自分の世界。でも、誰もが、自分の世界を見ている。自分の舞台を見ている。自分で自分を演じ切って、演じきったものだけが何者かになれるそんな世界。でも違う気がする。演じ切るのは違う気がする。演じるのをやめて生きていきたい。自分というものが存在していることを証明したい。次に思うことは何か。心に従い、ここまで書いてきた。次の発見は何か。もうそろそろ行かないといけない。別の世界へ。でも自分は常にいるんだ。別の世界に行っても自分は常にいるんだ。そんな世界でも自分がいることを証明するために、僕はあらゆる世界へと旅をするんだ。一人の世界から抜け出し、あらゆる世界へ行くんだ。人がいるんだ。自分の世界を生きている人たちが僕の無意識の世界に存在しているんだ。だから、一人じゃない。もう一人じゃない。そんな違う世界を見てみたいじゃないか。一人だけの世界。そんな世界にも人はいた。あらゆる視点から世界を眺めてみたいじゃないか。だから、世界へと行くんだ。何かを発見するために行くんだ。
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