お嬢様のダイエットがはじまる

文字数 1,998文字

 愛とか彼氏やときめきはお金で買えるものではないの。ダイエットをするのよ。だって、今体重が80キロあるから50キロくらいになれば割とモテると思うのよ。ダイエット教室でテレビでも有名なイケメン先生に個人レッスンしてもらうことにしたの。

 まずは第一印象としてピンクのワンピースでお出迎えよ。きっとイケメン王子はかわいいと思ってくれるはず。

 インターホンが家敷中に響く。大きな一戸建てにはトレーニングジムやプールも完備されている。広い敷地にはあらゆるものが揃っているけれど、私の贅肉は全くなくなる気配がないわ。

「こんにちは、ダイエット出張教室の久世(くぜ)です」

 やっぱりイケメンすぎる。かっこいい。

「私が依頼した太岩恭子(ふといわきょうこ)です」

「まずは簡単に食事について説明した後、トレーニング方法についてレクチャーするから、着替えてこい。だいたいそんな格好で運動するつもりかよ」

「もしかしてもっとセクシーな衣装がお好み?」

「好み云々じゃねーだろ。運動できる格好しろ」



「食事についてだ。まず、この肥え方からいくと、一日のカロリー限度を超えすぎだ。メス豚!!!」

 噂に聞いていた毒舌王子ね。でも、私、この方についていくわ。メス豚呼ばわりすら快感よ。

「いいか、食べることは美を作る最大の方法であり、最も効果のある行為だ。筋肉を作ることも食べることが基本だ。食べる順番も大事だ。最初に野菜、魚や肉のあと、最後に炭水化物だぞ。とりあえずレシピのコピーを置いておく。これを参考にして、自分で作れ」

「だってうちにはお手伝いさんがいるしぃ」

「甘ったれるな!! 甘ったれた結果がこの贅肉満載の体だ。自力で作る、体を動かす習慣を作れ」

「タンパク質をたっぷり? サプリでいいでしょ?」

「サプリは空腹をみたさねーだろ、その楽しようとする姿勢を1から鍛え直してやる。運動について説明する。有酸素運動がダイエットには効果的だ。走ったり歩いたりっていうような持続的な運動のことだが、筋肉をつけていると太りにくい体質になる。体質改善はリバウンドを生みにくい体にするってことだ、よって筋肉をつけることは最重要課題でもある。運動の後にタンパク質を摂取するのが効果的だ」

 2人っきりの有酸素運動は絶対に愛が芽生えなさそうな予感しかしない。

 部屋にある大きな鏡を見ると私がおぼれそうな魚の顔をしていた。王子に芽生えるものは何もなさそうだった。いや、あんな顔を見て好きになる男性はいないだろう。私の顔は真っ赤になり、汗だくになり、非常に苦しい顔をしていたのだ。ひととおり終わった後に私は死んだ魚の目をしていたと思う。肥えた魚だ。

「少し休んだら筋トレを伝授する、スクワットは太ももの広い筋肉を使うから有効だぞ。しかし、やり方をまちがいると足腰を痛めるからな。膝は足の指より出ないように!自分で毎日運動だ。食事を作ったあとも、写真を撮ってここに送ること」

 王子は名刺を差し出した。連絡する口実になるから、がんばるぞ。

「素敵な体型になった暁には付き合っていただけますか?」

 死にかけた魚に告白された王子は災難だったと思うが、ここで断ったら本当に死んだ魚になってしまうかもしれないと思ったのかもしれない。

「目標体重になった時にはもう一度告れ」

「そこで私を振るって言うこと?」

「さあな」

 そう言うとイケメンは次の仕事があるということで帰宅準備をはじめた。
 さあな、って脈ありだと思っていいの? 

「ケツに穴あいてるぞ。ちゃんと直しとけよ」

 私はお尻を隠す。メス豚だって羞恥心がある。

  痩せた私が告白したら王子はなんて答えてくれるのだろう?


 レシピを参考に食材を買いに行ってみる。肉ではなく、大豆を肉に見立てた料理をつくるため、おからパウダーを購入する。大豆にはタンパク質と女性ホルモンが豊富。そして、ダイエットをするとカルシウムも不足して骨がもろくなるので、食事の際は1日1回は牛乳を飲むこと。牛乳には糖質を抑える働きがある。

 さすが、ダイエット王子だけはあって、詳しいな。メモを見ながら、買い物をする。おからにはかさまし効果、満腹効果、肉の代わり……色々あるらしい。おからパウダーで糖質オフなのね。しかも、ハンバーグだって食べることができる。意外とおいしそうなメニューがレシピには並べられている。糖質オフの基本と筋肉を作るための健康的な食事がたくさんある。毒舌王子特製のレシピには女を美しくさせる秘訣が満載だった。

 そこには『食べることは美の基本』そんなことが書かれていた。

 半年後には本当に自分でもうっとりするくらいのくびれが見える。告白のときが来たわ。

「私と付き合ってください」

 王子は沈黙する。

「ダイエットが成功するために期待させて、成功すると振るって作戦でしょ?」

「違うんだ。実は俺……ふくよかな女性が好きなんだ。俺の好みのタイプすぎて、優しくできないでいたんだ」


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