過去と今

文字数 1,063文字

「ようこそ我が家へ、と、とりあえず歓迎するわ」
 この世界は飛ばされてからはじめての来客に少し上ずった声で歓迎した。

「お茶請けはアイスで良いかしらね」
「いやアイスって…」

 来客の不満たっぷりの顔を横目に思い出したようにこう言った。
「そうだ、あんたそこに正座しなさいよ」
「正座?」
「そうよ、正座よ正座」
 そう言うと続けて背景に炎が見えるかのように憤っている顔でこう言った。
「あ、あんたが私になにしたか覚えてるの?」

「お前から市民を解放したことまだ根に持ってるのか?」
「当たり前じゃない、私がどれだけ苦労したかわかってるの?」
 あぁ、この男と話してると忌々しい記憶があふれ出てくる……。

「苦労ね……、それは重税を課したり魔女狩りをしたり?」
「それ以外に何があるのよ?」
「ほんとに?」
 俯きながら答えた。
「ほ、ほんとよ……」
 だめだ、自信を持って言うことができない。

「まあいいや……、後で政治について勉強しような」
 そういうとスマホに何か打ち込んだようだ。

「ところでなんで来たのよ?」
「お前の流刑についていろいろ説明しなきゃいけないことがあってな」
「説明? なんであんたが……」
 私なんて即決裁判で判決理由も教えてもらえずに飛ばされたのに。

「いいから黙って聞け」
「今日はなんで俺らがこの世界にいるのかについて話すからな」
 そう言うと男は持ってきたカバンの中から山のような書類を取り出した。

「まず、俺の経緯から話そう」
「そっちの世界に飛ばされて放浪していたのは知ってるよな」
「ええ、むこうで私に会った時もそんなこといってたわね」
 そういえば前もこんな感じで友好的な雰囲気を持って寄ってきたんだったのよね、あの時騙されなければ今頃悠々自適な生活を送れていたのに……。

「ここからはお前がこっちの世界に飛ばされたきっかけと重なっているんだが」
「私が飛ばされたきっかけと重なってるですって? どういうことよ」
 この男いきなり何を言い出すかと思ったら私の流刑と関係してるですって?

「まあ落ち着いて聞けよ」
「これが落ち着けるわけないじゃないの、私がどんな思いでこの世界に飛ばされたかわかってるの? 全く何も知らされてないのに、あなたは知ってるなんて……」
「悪かったよ、まあ要点だけかいつまんで話すから終わるまで黙ってろ。言いたいことがあるなら全部話し終わったら聞いてやるから、いいな?」
「わかったわよ……」
 今日はすごく疲れる一日になりそうね……。
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