第6話

文字数 950文字

夜があけて、男はこのビジネスを入れ知恵してくれた金持ち仲間のところへいき、彼の息子の作るくだらない像をひとつ購入した。そして、その像をほんものの神様の像といれかえた。

いれかえるとき、像がなにか文句でもいうのではないかと思っていたが、特にそういうこともなかった。あれは幻聴だったのだろうか。そうだな、神様なんかいるわけがない。夢でもみていたんだろう。男は少しほっとした。しかしまた、いつあの像が話しかけてこないともかぎらない。念のため、このやっかいな像がおとなしくしているうちに壊してしまおう。



男がどこかへ電話すると、すぐに業者がやってきた。大きな機械でほんものの像は粉々に破壊され、ごみとして捨てられた。そして、〈願いがかなうと大評判!ほんものの奇跡の泉〉とかかれた、さらに大きな看板を設置して、業者はかえっていった。

もう、この泉にやってきても誰の願いもかなわない。しかし一度ひろがった評判は、そうそう消えるものではなかった。その後もこれまでの評判を聞いて、たくさんの人びとが泉をおとずれた。

そうこうしているうち、泉のまわりに生えていた樹齢何年ともわからない木々はあとかたもなく倒された。そしてそのあとに、泉の水を小瓶につめた土産ものを売るショップやら、泉の水でいれたコーヒーがのめるカフェやらが作られた。



いまや泉は人気の観光スポットとなっていた。男は笑いがとまらなかった。毎日お金を回収しないと、泉があふれてしまう始末なのだ。もはや、願いが本当にかなうかどうかなど関係がない。金儲けにほんものなどいらないのだ。

そもそもおとずれる人びとだって、ほんものなど求めてはいなかった。その証拠に、あの像がまったくちがう像にいれかわっていることに気づくものはひとりもいない。そんなことよりも、今話題の場所へいったということと、それをみんなに自慢することこそが重要なのだ。

人びとは流れ作業のように、泉に小銭をなげいれ、その前で記念撮影をし、お土産を買って帰っていった。そうして、男の懐はますます潤った。


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