#1
文字数 1,359文字
記憶を取る悪魔は、嫌がらせで取っている訳じゃない。
ーーそもそも、記憶でなくても良いのだ。
対価として支払えるものならば。
けれど、何でも、という訳でもない。
契約した悪魔の欲しいものや、納得してくれた対価なら……。
天使で悪魔でやっぱり天使な、少し前まで僕より背の低かった弟は、今では僕の背をぐんと追い抜いて僕を見下ろしてくる。
でもそれはーー願っていたはずのそれは、弟にはコンプレックスの様になってしまったらしい。
三人いる弟の真ん中、このオリバーは気難しそうに見えてフレンドリーで、子供っぽさの残る表情で、大人を驚かせる思考能力を持っている。
『気難しくて子供っぽい思考はそっち、パークスの方だ』と紹介されるのが、この僕。
オリバーの交代人格、契約している悪魔を僕は王と呼んでいる。オリバーも王も同じ事を言うから、僕は本当に気難しくて子供っぽいんだろうね。
小さな郊外から、小さな島国ーー日本に来て、また長い時間が経った。
僕らは元々日本に居たものだったけれど、時令で海外へ行っていた。
僕は閻魔という役職を務め、オリバーは明華という閻魔に仕える事が代々になった家柄の鬼で、僕の補佐をしてくれていた。
話が前後していたり、二転三転しているヶ所は、気にしないで欲しいな。大人の事情ではなく、僕たちの話は君たちが思うより、ずっと長くて深くて広かったから……。
僕の契約している方の悪魔から、"今回の記憶を取れば、お前はもうお前ではいられないーーいられなくなる。出来れば取りたくないがーー……。決めているのだろうな、もう、お前は、止まらない。"ーーなんて言われて実際止まらなかった僕は、弟曰く、『世界を変えてしまった』らしい。病院のベッドで、弟と王が心配そうに僕を見ながら、そんな言葉を伝えてくれた。
オリバーの契約している悪魔も、記憶を取る悪魔。僕をなぞっているオリバーも、ならきっと世界を変える。僕はその時の為にーー……。
あぁ、その時の為に世界を変えて、記憶を失くしたんだ。
まぁ、失くした記憶は僕の方の記憶を取る悪魔が持っていてくれるし、消えたりしないのだけれど。
弟と王の話を少しだけーーそれだけ聞き、半分だけ上げられ傾いているベッドの枕に、頭をポスっと乗せて項垂れた。
「ありがとう、悪いけど、僕は少しーー」
「疲れたから休むんだな? あいつら散らしてくる! ーーいっぱい来てるんだ……。」
「え? 」
そんなに見舞い客がーー? と、病室の外の廊下からその先、待合室まで、起きたばかりで寝呆けていて気づかなかったけれど、家族や友人が集まっている様だった。
「あはは、ーー散らすのはしなくて良いよ。来ない様にだけして貰えれば……。ひと眠りだけ、ひと眠りして、話を聞ける状態だったら対応するから。出来なさそうだったら、その時にーー」
「ーー分かった……。」
納得いかない様子だった。不貞腐れている様な、不機嫌そうなーーいや、不機嫌にはなっているみたいだ。
「積もる話も皆んなあるみたいだから。ね。」
「ああ。ーーもう積もる話してる奴がいるーーあいつら……。ちょっと行って来る。」
「うん、ゆっくり話したら良いよ。」
自分のいない所で自分の関わる話や自分の話をされていたからだ、機嫌が悪かったのは……。
そう納得しながら、落ちて来る瞼をそのままに、目を閉じて、僕は眠った。
ーーそもそも、記憶でなくても良いのだ。
対価として支払えるものならば。
けれど、何でも、という訳でもない。
契約した悪魔の欲しいものや、納得してくれた対価なら……。
天使で悪魔でやっぱり天使な、少し前まで僕より背の低かった弟は、今では僕の背をぐんと追い抜いて僕を見下ろしてくる。
でもそれはーー願っていたはずのそれは、弟にはコンプレックスの様になってしまったらしい。
三人いる弟の真ん中、このオリバーは気難しそうに見えてフレンドリーで、子供っぽさの残る表情で、大人を驚かせる思考能力を持っている。
『気難しくて子供っぽい思考はそっち、パークスの方だ』と紹介されるのが、この僕。
オリバーの交代人格、契約している悪魔を僕は王と呼んでいる。オリバーも王も同じ事を言うから、僕は本当に気難しくて子供っぽいんだろうね。
小さな郊外から、小さな島国ーー日本に来て、また長い時間が経った。
僕らは元々日本に居たものだったけれど、時令で海外へ行っていた。
僕は閻魔という役職を務め、オリバーは明華という閻魔に仕える事が代々になった家柄の鬼で、僕の補佐をしてくれていた。
話が前後していたり、二転三転しているヶ所は、気にしないで欲しいな。大人の事情ではなく、僕たちの話は君たちが思うより、ずっと長くて深くて広かったから……。
僕の契約している方の悪魔から、"今回の記憶を取れば、お前はもうお前ではいられないーーいられなくなる。出来れば取りたくないがーー……。決めているのだろうな、もう、お前は、止まらない。"ーーなんて言われて実際止まらなかった僕は、弟曰く、『世界を変えてしまった』らしい。病院のベッドで、弟と王が心配そうに僕を見ながら、そんな言葉を伝えてくれた。
オリバーの契約している悪魔も、記憶を取る悪魔。僕をなぞっているオリバーも、ならきっと世界を変える。僕はその時の為にーー……。
あぁ、その時の為に世界を変えて、記憶を失くしたんだ。
まぁ、失くした記憶は僕の方の記憶を取る悪魔が持っていてくれるし、消えたりしないのだけれど。
弟と王の話を少しだけーーそれだけ聞き、半分だけ上げられ傾いているベッドの枕に、頭をポスっと乗せて項垂れた。
「ありがとう、悪いけど、僕は少しーー」
「疲れたから休むんだな? あいつら散らしてくる! ーーいっぱい来てるんだ……。」
「え? 」
そんなに見舞い客がーー? と、病室の外の廊下からその先、待合室まで、起きたばかりで寝呆けていて気づかなかったけれど、家族や友人が集まっている様だった。
「あはは、ーー散らすのはしなくて良いよ。来ない様にだけして貰えれば……。ひと眠りだけ、ひと眠りして、話を聞ける状態だったら対応するから。出来なさそうだったら、その時にーー」
「ーー分かった……。」
納得いかない様子だった。不貞腐れている様な、不機嫌そうなーーいや、不機嫌にはなっているみたいだ。
「積もる話も皆んなあるみたいだから。ね。」
「ああ。ーーもう積もる話してる奴がいるーーあいつら……。ちょっと行って来る。」
「うん、ゆっくり話したら良いよ。」
自分のいない所で自分の関わる話や自分の話をされていたからだ、機嫌が悪かったのは……。
そう納得しながら、落ちて来る瞼をそのままに、目を閉じて、僕は眠った。