ある朝、いつもの道で

文字数 1,834文字

湿度が低く、心地がよい快晴の朝。
「はぁ~やっぱりいい天気って気分いいな~」

いつもの見慣れた道を歩いていると、1台の車が道をふさぐように、ど真ん中に停まっているのが見えた。

「なんだろう?あれ」

遠くに停まっている車をよく見ようと目をこすっていると、体が浮き上がる感覚に襲われ、急いで目を開けた。

「うっうわぁ~何が起こってるんだ(起こってるの)?かっ、体が、宙に浮いてるっ!」

10センチほど宙に浮いた体は、車のすぐそばまで来ると、フワッと優しく地面に下ろされた。

「な、なんなんだ?一体」

すると運転席から降りてきた一人がこちらに近付いてきて、こう言葉を放った。

『あなたをずっとお待ちしておりました』と。

その言葉を聞き終えると同時に、目の前が真っ白になり意識を失ってしまった。


しばらくして目を覚ますと、真っ暗で何も見えない。

「ここは、どこなんだ…」

意識がだんだんとハッキリしてきた。
道をふさいでいたあの車で連れて来られたのだろうか。

よしっ、まずは気持ちを落ち着かせて、と。
それじゃあ次は、今の状況を把握する為に客観視してみよう。

視界は?…完全にさえぎられていて何も見えない。

音は?…ヘッドホンのようなものを装着されているようだ。耳には圧迫感と無音が響いている。
声を出してみようと思い、声を出しているつもりだがヘッドホンのようなもので遮音されていて声が出ているのか分からない。

ニオイは?カビ臭いとか消毒のニオイとかは無いだろうか?…クンクンクン。うーん。これといって何もしない、無臭だ。

頭には何かをかぶらされているようなズッシリと重さを感じる。

イスのような所に座らされているようだ。背中とお尻に少し硬めのものが接触している感覚がある。

全ての指先を何かに挟まれているようだ。指先が徐々にしびれてきている。

右腕は伸ばされた状態で固定され、点滴でもされているようだ。


しばらくすると、あの車の運転席にいた人の声と同じ声が耳元から聞こえてきた。
『私の声が聞こえますか?』と。

「聞こえます」と頑張って声を出してみると、耳元から自分の声がちゃんと聞こえてきた。

疑問に思っていた事を聞いてみた。
「あなたは何者ですか?目的はなんですか?」と。

すると『自分の特殊能力に気付いていないのですか?お気楽なものですね?あなたは日本に留まらず世界から狙われてもおかしくないほどの特殊能力保持者なのですよ?』と耳元から声が聞こえてきた。

ボソっと「そんなまさか」と呟いた。

『身に覚えは無いのですか?』と続けざまに聞いてきた。

う~ん。今思い返してみると確かに不思議な事があったような。
すれ違う車の影が異様に長かったり、影が変な形に見えたり。
光の当たり具合でそう見えるだけだろうと気にもとめていなかったがその事だろうか。
そんな事を考えているとまた声が聞こえてきた。

『あなたの目は人の死期が見える特殊な能力があるのですよ。あなたの目を利用しようと悪い連中が今まで近付かなかったなんて信じられません。よく今までご無事でしたね』と感心した様子だ。
さらにこう続けた。
『今後あなたの目が悪用されないように、あなたの目を通常に戻す事が目的です。寝ている間に終わりますから痛みは感じません。ご心配なく』と聞こえてきたが、その後声が徐々に小さくなっていって、いつの間にか意識を失ってしまっていた。


聴き慣れた音楽が聴こえる。
いつも起きる時間にスマホから流れる音楽だ。

「ん~?あれ?夢、だったのかな?」

机で寝てしまったようだ。
ヘッドホンを耳にかけたまま右手でスマホを握りしめていたせいで右腕がしびれている。

「あ~いたたたたたぁ。はぁ~それにしても気味が悪い夢だったなぁ。あっ!のんびりしていられないんだった!早く出かける準備しなくちゃ!」

いつもと変わらず、トイレを済ませ洗面台で顔を洗う。
自分の顔を鏡でまじまじと見ながら「俺が特殊能力保持者?なわけないよな」と苦笑いをした。


それから数十年がたち、不思議な夢の事などすっかり忘れていた。

自分の死期が間近に迫っていた。病院で死を待つばかりだ。

突然聞き覚えのある声が聞こえてきた。
『この日を待っていましたよ』と。
この声は…そうだ!夢の中で聞いた声に間違いない。

か細い声で「どういう事だ」と聞くと、
『あなたはもうすぐ息絶える。その前に今入っている普通の眼球とあなた自身の眼球を元に戻さないといけないのです。レンタル品ですからね』と言ってきた。

まっまさか、夢だと思っていた事は実際起きていたのか!
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