第1話

文字数 1,077文字

「お兄さん、ちょっと占われて行かない?」

22時過ぎの歓楽街は人で賑わう。居酒屋、風俗のキャッチの声に混じってこんな声が聞こえた。

「占い〜?おれはそんなん信じてないんだわ、悪いね。」
「いやいや、お兄さん!絶っ対占った方がいい!つーか占わせて!だいぶヤバいから!無料にするし!」

ヤバいのはお前の口調だと思いつつも、無料と言われれば話は変わる。

「無料なら聞いてやらないでもないけど…」
「やった、おいでおいで。」

男は道端の端っこに小さな荷物と看板を持った、誰が使うんだと見る度に思う占い屋を初めて使う。

「あのね、お兄さんマジやべーから。ガチやべー。冗談抜きでやべー。」
「何言ってんだお前は。やるならちゃんと占え。」
「お兄さんにはね、まじ死相が見えてるよ。」
「でたでた、その類いね。帰るわ。」
「マジだって!今あそこを歩いてるおっちゃんにも濃いのが見えてるんだけど…見てみもうすぐぶっ倒れるから!」

占い師に言われるまま向かい道を歩くおっちゃんを見る。するとそのおっちゃんは急に顔を歪めると倒れてしまった。

「…まじか。」
「信じてくれた?だからお兄さんもやべーんだって!ちゃんと占わせてよ!」
「無料だからな…」



「…このカードは臓器の不調、このカードは意識外の災い、このカードは絶望を現すのよ。ちゃんと健康診断行ってる?」
「そういえば最近行ってないな。」
「絶対行った方がいい!なる早!つーか明日!」

占いは想像よりもまともだった。ただ男にはさっきの出来事が気にかかる。流石にタイミングが良すぎじゃないか?

「…なるほどねぇ。じゃあ健康診断行けばいいのね?」
「でもそれだけじゃ心配だな…そうだ!そんなお兄さんにオススメなものがあるんだ。」
「本性表したな…!壺だの水晶だのは俺は買わな」
「じゃん!ブザー!」
「…ブザー?」
「そう、これは紐を引くと音が鳴って人気がない所で倒れても誰か駆けつけてくれるよ!失くしても大丈夫、2個セットで1500円!」
「…あー、そうね。うん。」

予想外の物に男は面食らってしまった。同時に笑いが込み上げてきた。

「はは、面白い占い師だな。まぁいい。今度健康診断行ってみるよ。中々面白かったけどブザーはいらないから帰るね。おやすみ。」
「え!ちょっ、待ってよ!」

男はいい気分で帰路についた。

「あーあ、帰っちゃった。…おれも帰るか。」

そういうと占い師は机を畳み、荷物をまとめた。

「なんで誰も信じてくれないんかなぁ。あの濃さはまじやべーのにな。明日にも上で取り扱うレベルだ。」

そういうと占い師は翼を広げ天へ羽ばたいていった。

男がその後家にたどり着くことは無かった。







ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み