メイド喫茶編

文字数 2,932文字

 店の名はポエム。最近では珍しく24時間営業。仕事上不規則な生活パターンの私にはありがたい店だ。
今日も日付変更線をこの店で越えることになった。
同じような客もチラホラ。知らぬうちに会釈を交わすような人もいる。
そして今日もさまざまな人間模様が私の地獄耳に入ってくる。

「マリオ氏、こんな時間に呼び出されるとは、一大事でござるか?」
「ルイージ氏、迷惑とは知りながら、我儘に付き合わせること、先に陳謝するでござるよ」

なんだなんだ?マリオにルイージって、、、その割にはヒゲはえてないよ、君たち。それに言葉遣いっ!
ツッコミどころ満載の二人は、斜め前のテーブルでヒソヒソと話している。

「実は今日、異世界転生してきたでござるよ」
「ほぉ、どちらの異世界?」
「黒い卵ワールドでござる」
「なんと奇遇!吾輩も昨日いって、、、もとい転生してきたところでござるよ」
「ルイージ氏も、、、、酷い目にあったでござろう?」
「酷い目?とんでもない、あまりの素晴らしさに女神降臨と叫んでしまったでござるよ」
「女神降臨?!」

明らかにオタクであることを全身で主張している二人。マリオは「けもツレ」の、ルイージは「このすぱ」のキャラクターTシャツを身に纏い、手には「ファンロード」の紙袋。
これくらいのオタク知識は、私の守備範囲ではある。異世界転生も、たしか、メイド喫茶へ行くことだったと記憶している。しかしながら、黒い卵ワールドというのは、初耳である。素早くケータイを開き、クーグル先生に質問してみる。
なるほど、メイド喫茶の名前を指す言葉だったのか。
『ギャルメイド喫茶Egg』
コンセプトは『普通のメイドじゃ物足りなくなった人たちへ』とのこと。シブキバ系、渋谷とアキバの合成語だろう、
在籍しているメイドさんたちも、褐色肌のお嬢さんが並んでいる。ロングヘアーからベリーショート。可愛い系からミステリアス系まで。沢山の顔写真が並ぶ中、顔を隠している子が半分程度、いわゆるヤマンバメイクの子は顔出ししている。多分メイクを落とせば別人なのだろう。店の名前がEggなのも、納得だ。

ふと良い匂いに顔を上げると、ナポリタンが二つ、彼らのテーブルに運ばれる。

「左様。ジャガー殿が拙者のお相手であったが、マリオ氏はどのケモ娘であったでござるか?」
「小生もジャガー殿であったでありんすよ?」

いや、語尾がおかしいって。

「ネコ耳ですぞ?」
「ネコ耳しか勝たん!」
「色黒がお気に召さぬ?」
「ならばそも、あそこには参らぬ」
「どのコースを選ばれた?」
「ツンデレ」
「何がマリオ氏におきたのか、、、」
「ツンデレコース、ジャガー殿、と、GM(ゲームマスター)に頼んで、言われたコックピットに体を沈めたでござるよ、、、、」

いちいち、例える言葉がウザいのは我慢するとして、そして、マリオはルイージに、店での出来事を話し出す。

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「ちょりーっす。あたいジャガー。この爪出させるようなことしたら、まぢオコだかんね。よろ」
デコりまくった長い爪をヒラヒラさせるジャガーちゃん。髪も金と黒でジャガーっぽく、さすがギャルといった出立ちにネコ耳カチューシャ。

「ま、ま、マリオでござる」
「えー、マリオってウケる。ヒゲ生えてないぢゃん、赤い帽子かぶれよ、オーバーオール着てこいよw」
「あ、あはは、す、すみません」
「あやまんなよ、カワイイぢゃん」
「そ、そうですか」
「ぢゃなに?連れに亀とかフグとかいるの?」
「フグはいませんが、亀はほらここにいましゅよ」

「・・・・・」

*.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**


あんぐりと口を開けるルイージ。うん、その反応は正常だよ。ルイージくん、君は常識人なんだろうね。
そんな相棒の様子もお構いなしにマリオの話は続く。


*.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**

「亀さんのお顔見たいでしゅか?」
「いやいやいや、見たくないし。それよか、オムライス喰う?喰うよね?今すぐ喰うよね?」
「な、な、なにか怒ってましゅか?あー、ツンでしゅね、ツンなのでしゅね!この後、デレが来るでしゅね?はい、すぐにいただきましゅでしゅ」
「はーい、ジャガーちゃんの、特製オムライスで、とりまてんあげー!」

店員に目配せするジャガー。店員は、すかさず店の奥へ行き、オムライスと赤い容器をテーブルへ。

「はーい、今からジャガーちゃんがぁ、マリオたんに今思ってる言葉書きまーす」

容器の先から赤いペーストを巧みに操り書いた文字。

『   シ ネ    』
「え?」
マリオの顔が凍る。
すかさずジャガーちゃんは書き足す。
『  マシ"ネ申   』

「あー、心臓が止まった」
「はーい、ツンデレオムライスぅ」
「なるほど、しゅばらしいー」
「あと一つお願い言ってよき?」
「よきよき!」
「このオムライスをきれいに一気喰いできたら、もーっと羽ばたくデレが待ってまぁす」
「わ、わかったでありんす。この程度なら、まかせて安心、あるしょっくっ」

そして、一気にオムライスをかきこむマリオ。一口、二口目で、、、

「ぶばゃあがぉかかかぃゅはまぁ、、、、」

散弾銃よろしく口の中のものを全て吐き出すマリオ。

「「「きゃあーーー」」」

周りのテーブルの子たちも悲鳴をあげて店内はプチパニックだ。
あわてて水を飲み、周りを見ると、ジャガーちゃんの姿はなく、コワモテのお兄さんが3人、マリオを囲むように席についていた、、、、

*.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**

「そして、まだ時間も残っているのに、お店から放り出されたであります。何が何やらさっぱり分からず、ルイージ氏に愚痴を聞いて欲しくて、こんな夜中に呼び出したのであります」

また、語尾がおかしくなってるし。

「結局マリオ殿はむせて吹き出したのではないのでござるか?」
「気のせいか、このナポリタン、、、あのオムライスと似た味がするなりよ」

ルイージくんが、「あっ」と声にならないリアクション。
私も全てを悟った。
ジャガーちゃんが書いた赤い文字、ケチャップではなく、なにか唐辛子系のペーストだったのであろう。それをわざと一気喰いさせたジャガーちゃん、、、、でも彼女は悪くない。

「ジャガー殿の愛情がたっぷり過ぎたのかも知れませぬ。それが、まぁ喉に引っかかったのでござろうよ。ついてなかったですな、マリオ氏」

常識人の精一杯のフォロー。仲がいいんだなと、変なところで感心してしまう。

「あのケチャップ文字、、、小生と同じような書き方なのに。何がのどてぃんこに引っ掛かったのだろう?」

お前様には一生理解できんでありんすよ!
はっ、私まで語尾がおかしくなったでござるよ、、、、

一生、異世界転生は控えていただきたい。世界平和のためにも、、、

店の名はポエム。今日もさまざま人間模様がこの小さな喫茶店の中で繰り広げられる。

おしまい
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