プロット

文字数 5,547文字

起)死者を蘇らせる奇妙な居酒屋

 ねがいをかなえてくれる居酒屋「ねがいや」。
 都市伝説の噂やネットなどで話題にはなっているのだが、まさか本当にそんな居酒屋があるなんて思わないだろう。でも、そんな居酒屋が実在するのだ。

 これは、偶然「ねがいや」という居酒屋を見つけた男性の話だ。恋人を事故で亡くしたばかりで、落ち込んでいた20代男性がやってきた。会社員であるが、最近は以前のように仕事に熱を入れて働くことはできないでいた。落ち込み、ひどい悲しみの淵に立たされた男は、自分自身を保つことで精一杯だった。そこで、居酒屋に入って晩御飯でも軽く済ましながら、酒を飲んで嫌な現実から背けたい、そんな気持ちでのれんをくぐる。

「俺の恋人が事故で死んだんだ。生き返らせてほしい……なんてねがいはだめだよな?」
 冗談半分、本気半分だった。

「はい、可能ですよ。生き返りますが、生き返った人間には

。だから、生き返った彼女は生前と少し性格は違うし、死んだという事実がなくなり、今の世界が少し変わってしまいます。それでもいいですか? 

。あなたの自宅に彼女がいます。さあ、帰宅してください」」

 しかし、彼女の記憶に俺のことはなかった。婚約者だと信じてもらえず、結局彼女を失った。
 後日、彼女とねがいやの店主らしき男が手をつないで歩いているのを見かけたが、その後探してもみつからない。俺は「ねがいや」という居酒屋を探すべく、毎日街をさまよったのだが、どうやっても見つかることもなく二度とあの店に行くことはできなかった。もちろん、部屋のどこを探しても、写真のデータを確認しても、彼女の写真一枚見つかることはなかった。なぜなのかはわからないのだが、俺がマキと恋人であり婚約していたという事実は消滅させられたのだ。
あれ? 彼女を事故で亡くした時と結局何も変わっていないよな。
 毎日酒をたくさん飲んで、彼女を失った悲しみを忘れようとしているのだから。

承)洗脳女神
 俺の名前は正義。せいぎと読む。名前の通り正義の塊だ。ある日突然、いつもの通学路に女神が舞い降りたんだ。運命の出会いなんて突然あるものさ。美しいその女性は、俺に語り掛ける。

「ねぇ、あなた、私と一緒に神の仕事をしてみない? 私は女神よ」
「俺は怪しいことには興味ない」

 俺は、突然のスカウトに戸惑った。しかし、その美しさを纏った純白の衣装に目を奪われてしまった。息を呑むとはこのようなことをいうのかもしれない。後光が射した美しさはまさに女神だ。それは一目惚れだったのかもしれないし、思考が女神に取り込まれたのかもしれない。美しい女神に興味はあるが、何やら面倒なことに巻き込まれるのはごめんだ。

「なぜ俺なんだ?」
「この世界のために正義感の強い人を求めているの。あなたとならば正しい世界を創造できると思ったの」
「正しい世界を創造する? 馬鹿げたことをいうな。俺一人の力で世界なんて変わるはずはないだろ。それに、世界規模の平和よりも自分自身の平和のほうが大事だと思っている」
「たしかに、たいていの人はそう言うわ。でも、世界が平和になれば自分自身が平和になるのよ。知らなかった?」
「どういう意味だ?」
「もし、戦争やテロが起きれば、自分自身の平和は乱されるでしょ。不幸に巻き込まれるわ。だから、巻き込まれないために平和を創造するってこと」

「あなたのお父さんは本当に正しいの?」
「厳格な父で真面目で仕事一筋だ。正しいに決まっている」
「それって思い込みでしょ?」
「まさか、父は正義感が強い正しい人だ」
「じゃあ、みてみる?」

 女神はモニターで仕事中の父の姿を映し出す。

「こんなこともできんのか!! おまえは虫以下の能力か!!!」

 すごい勢いで怒鳴りつける父がいた。パワハラの域に入っているようだ。
 それも部下をことごとく怒鳴りつけ、本当に正しいことなのかどうかも、何をそんなに怒っているのかもわからなかった。

「家庭では本当にお父さんは正しいの?」
 女神がほくそ笑む。顔立ちがきれいなだけにその笑みさえも美しい。

「俺の家では、母親が家事育児を全て行っており、父はイクメンとはいいがたい。幼少の頃から機嫌が悪くなると母を怒鳴り散らすのは日常茶飯事だった」
「本当にいいお父さんなの?」

 女神が念を押すように言い放つ。俺は一瞬考えた。俺が考えていた正義について、ずっと目を逸らしていたことに。

「いや、ずっと心にわだかまりがあったんだ。きっとどの父もそうなのだろう、父親とはいつも無口で不機嫌で家庭では何もしない一番偉い人だと洗脳されていたのかもしれない」
「じゃあ、お父さんに神の力で気づかせてあげないと」

 ある日、母親を怒鳴りつける父親を言葉で説き伏せようとしたが、どうやら言葉で通じることは無理だった。仕方がない、これは力でねじ伏せるしかない。今まで親孝行をしてきた俺だが、これは父親のための最後の親孝行だ。父に間違いを気づかせるための最大の親孝行だ。

 気づいたら父親が俺の目の前で気絶していた。俺が神の力で父を正しい方向へ導かせようとしていた結果だ。

 女神は突然現れては俺に色々なことを吹き込む。このままだと女神の指示により、他人にも制裁をくだすことになるだろう。普通ならば警察に捕まってしまうかもしれない。でも、選ばれた神である俺は捕まることはないだろうがな。俺は、根拠のない自信と自己愛の中で模索する。そして、女神と視線を交わし合う。

 誰にも見えない女神の存在は俺にしかわからない。本当に女神が存在しているということは証明不可能なのだ。だから、他人から見れば俺は虚言妄想癖だと思われるかもしれないな。でも、たしかに女神は俺の中にいるのだ。もう、戻れないところまで来てしまった。振り返ると女神がいる。自分自身の意思ではなく女神の指示で行っているのだから、俺は何も悪くない。

 都市伝説に洗脳女神という女神がいるらしい。目撃者の特徴は正義感が強く、正しい世界を創ってみたいと思っている者。むしろ神に憧れを抱いている者が洗脳女神を目撃する傾向にあるようだ。

 女神を創造し、派遣しているのが「ねがいや」という正体不明の奇妙な何者かだということは誰も知らない。


転)過去に戻ることができる喫茶店

 会いたい人に手紙を書くと会える喫茶店があるらしい。正確に言えば、戻りたい時間に戻ることができる喫茶店なので、自分が体験した過去にしか戻れないらしい。過去に会ったことがある人ならば、この世にいない人にでも会えることは可能だ。ある女性が手紙を書いた。普段手紙など書かないのだが、どうしても会いたい人がいて、戻りたい時代があるらしい。

「この手紙をこの喫茶店に送ってきたのはあなたですか?」
 美しい男性が女性客を見てほほ笑む。

「ここには青い紅茶があって、それを飲むと会いたい人に会えるそうですね」
「正確に言えば、会いたい人がいた時に一時的に戻ることができるとでもいいましょうか」
「しかし、本当の過去ではなく、あなたが思い描いている過去なので、過去の自分と遭遇して困るということはないのです。しかし、夢を見ているのとは違うリアルな世界です。痛みや味覚や嗅覚などは本物と同じです」

「私はその世界にいきたいのです。過去に戻るためには思いを込めた手紙が必要なんですよね」
 美しい青い紅茶が出された。これを一口飲むと、色が変わるらしい。どんな色になるのだろう? それは飲む人によって色合いが変化するらしい。

「じゃあ、行ってきます」
「もちろんですよ。ここは心の拠り所ですから」

 何かが変わるわけではない、一時的に欲求が満たされる場所。それは自己満足にすぎないかもしれない。でも、私は再び訪れるだろう。ただ、会うために。紅茶を一口飲むと女性は夢の世界へいざなわれる。

その後、店主は独り言を言う。

「この喫茶店は

ので、何度も来ることはできないのですが、彼女は自分が死んだことに気づいていないみたいですね。そんなお客様はたくさんいるので、珍しいことではありませんが……。誰しも生前、戻りたい場所、会いたい人がいるものですから。そして、ここを利用した人の魂はここの喫茶店のエネルギーに変わるのです。そう、ここにある青い紅茶は魂のエネルギーからできるもの。利益は全部私のものになるのです」

人生最期に騙される、幸せならばありじゃないでしょうか? あなたはここを利用してみたいですか? 私はあえて、騙されてみようかと思います。だって、会いたい人がいて、戻りたい時間と場所があるのだから。

 銀髪の男性はため息をひとつついて独り言を言う。
「私も騙されてここで働くこととなった元人間ですから。仕事はきっちりさせていただきますよ。死後の世界に行く前にほんのちょっとだけ幸せになれるお手伝いですがね」

 看板を見るとねがいやという文字が書いてあった。ねがいやの店主が優しい嘘をつく場所。青い紅茶を見つけたら思い出してみてください。


結)怒りを換金できる怒りバロメーター

怒りバロメーターとかいてある体温計のようなものが公園のベンチに置いてある。説明書きを読むと――怒りを測定し、怒りエネルギーを吸い込みます。地球環境のために怒りをエネルギーに変換する事業です。怒りエネルギーは当社で換金いたします。会社名は「ねがいや」と書いてある。

 市内にある会社らしい。連絡先もちゃんと書いてあるし、誰かが落としたのだろうか。交番に届けるべきだろうか。説明を読むと、続きが書いてあった。これは、無料で配布しておりますので、是非とも怒りを吸い込んで当社へお持ちください。

 怒りをエネルギーとして数値化できる機械。しかも、それが地球環境のためになるなんて、いいことじゃないか。しかも、無料配布で換金もしてくれるときた。中学生のおこづかいじゃ欲しいものも買えないからな。

 少年はニコニコしながらコンビニのほうへ歩くと、店の中から怒鳴り声がする。早速怒っている人を発見した。怒りバロメーターをその人の方向に向けると、数値が出る。50らしい。どうやら店員が商品を間違えて渡したということでおじさんが怒鳴ったらしい。すると、バロメーターから透明に近い光が出る。そして、おじさんから怒りを吸い取った。すると、おじさんはなんで怒っていたのだろうという顔をして、ニコニコして帰宅していく。

 本物だ!!!
 人から怒りを吸い取るなんて、いいバロメーターだな。社会貢献にもなるじゃないか。怒りを笑顔に変えるなんてすばらしい。たまった数値が表示されていた。

 少年はもっと怒らせようと親や友達にわざと悪口を言うことも増えた。その変化に気づいた母親はとても心配していた。

 しばらく経った頃――そろそろ換金に行こうかな。どれくらいの値段で買い取ってくれるのだろう。ある時、住所のビルに向かう決意をする。中学生でも買い取りは大丈夫だろうか。そんな不安も若干よぎる。

 横を見ると、以前中学校内でケンカしていた同級生の一人が来ていた。怒りバロメーターを持っている。つまり、彼も所有して換金していたのだろう。
「実は、最近、友達や家族に敬遠されていて――。お金がたまるのは助かりますが、どうしたらいいのか困っているんです」

 対応している社員がにこやかに知らない形のバロメーターを差し出す。
「そういった相談が多いんですよね。相手を怒らせてしまって社会的な信用を失ってしまったと。そういった方には、こちらの商品をお勧めしています。にこやかバロメーターは、相手をにこやかにさせると数値化されて、換金できるシステムになっております。こちらは5万円です」

「5万円って――俺が今まで換金した額ですよ。相手をにこやかにさせるって結構難しいですよ。怒らせる方が簡単だ」
「怒らせてお金がもらえるのなら換金できる仕事だと割り切ってください。これは、環境エネルギーに変換するための事業です。あなたは充分社会貢献している」

 少年は感じていた。この会社の異様な空気を。にこやかにさせるとお金になる――。でも、そのバロメーターは5万円だ。そんなものがなくても、相手をにこやかにすれば、人間関係は潤滑になるのではないだろうか。お金云々じゃない。人として道を踏みはずすところだった。

 少年はお金を受け取る前にその場を立ち去った。これ以上関わり、個人情報を知られたら、なんとなく厄介なことになりそうな気がしたからだ。もちろんバロメーターも置いてきた。これでもう、関わらなくて済む。そう確信する。

 いつも通り帰宅すると、母の手に見慣れないものがあった。でも、先程見たバロメーターと同じ形だ。母は、なぜかにこやかバロメーターをもって少年に向けていたんだ。



(説明)
短編連作のためどこから読んでも大丈夫です。
不思議で奇妙なお話の短編集。
裏切り系ホラー現代ファンタジー。

4作品のみ短いバージョンで掲載。他にここには掲載していませんが、以下の短編作品もあり。

完璧な契約友達
未来を確定する日記帳
寿命買い取ります
3億円のアルバイト
全知全能の神になったら
黒いポストの手神様
うわさの種と風の便り
はんぶんこ
死神と英雄
優しい天使 ねがいやの過去
ひとめぼれの○○〇3年の彼女
屋上の不思議な先輩
未来から来た子供
頭脳戦デスゲーム
スキル再生で死ぬことができない男
監禁拘束と蝶のタトゥー
あなたなしでは生きられない 花言葉に込めた愛
1年限定でイケメン最強になったら
監禁拘束と蝶のタトゥー
イキガミ
リベンジチャンス
勇者が高校生と入れ替わったら
殺し屋ジャックの憂鬱
暗殺者ジャック少女を拾う


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