あやちゃん視点

文字数 1,656文字

「ふんふふーん」
 本日も機嫌がいいのか、お母さんは鼻歌を歌っていた。
 青い空が広がる昼下がり。私は隣でおかずを盛り付けていた。ブロッコリーにコーンに、ミニトマト。うん、今日もいい感じにできた。彩りもいいし、これなら美味しそう。
「あやー、そろそろおじいちゃんを呼んできて」
「はーい」
 今日はすっごい自信作。たぶんおじいちゃん、すっごく驚いてくれるだろうなー。
 そういえば最近、畑仕事に熱中しているな。なんでも『美味しいトウモロコシを食べさせてやる』って言ってたかな。前に隣のおじいちゃんからもらったトウモロコシが美味しいって言ったせいかな? すっごいヤキモチ妬いてたし。
 確か昔から一緒に遊んでいた幼なじみだったかな。うーん、だから対抗心が出ちゃったかも。
 下手に褒めないほうがいいかな、うん。
「あ、いたいた」
 一生懸命にクワを持って耕してる。あんなに高く振りかぶったら腰を痛めちゃいそう。ま、言ってもやめないと思うけど。
 とにかく帰ってくるように言うか。
「おじいちゃん、ご飯だよー」
「ちょっと待ってろ。すぐ行くー!」
 さて、と。これで任務完了。あとは帰ってくるのを待つだけっと。
 うん? ありゃ、あんなところにシロがいるじゃん。なんかおじいちゃんと睨み合っているけど、どうしたんだろ?
 よく見ればスズメを咥えているし。もぉー、また捕まえて来たのね。この前はネズミを持ってきたし。あれはさすがにビックリしたなぁー。
「グゴゴォッ!」
「いたっ! やりやがったなドラ猫!」
 うわ、本格的にケンカを始めちゃったよ。
 まずいなぁ、おじいちゃん動物相手に容赦しないし。特にシロには手厳しいし。
 そういえば畑仕事を始めたばかりの頃、シロに出たばかりの芽をかじってたっていってたなぁー。あと小屋にマーキングしてるみたいだから、いっぱい他の猫が着てテリトリー争いしてるらしくてカンカンに怒ってたし。
 と、とにかくおじいちゃんを止めなきゃ。
「グゴオァァッ」
「調子に乗るな、ドラ猫がぁぁぁぁぁ!」
 聞いたこともない怒号を放って、おじいちゃんはハイキックを放った。それは見たこともない跳躍をしたシロの脇腹を見事に撃ち抜く。
 手加減は、たぶんしてないと思う。だから派手にシロは転がっていっちゃった。さすがに死んじゃったかなって思ったけど、シロはヨロヨロしながら立ち上がった。
 よかった、猫だから受け身とか取れたのかも。でもすごく痛そうな顔をしてる。
「ンニャー……」
「クックックッ、年貢の納め時だな」
 って、クワでトドメを刺そうとしてるし!
 待って待って、ちょっと待って! そんなことしたら捕まっちゃうよ!
 ああ、もぉー! 仕方ないな!
「おじいちゃん!」
「うおっ! なんだ、お前か」
「なんだじゃないよ! ほら、ご飯冷めちゃうから早く早く!」
「待て! 今そこのドラ猫を始末するところ――」
「猫いじめちゃダメでしょ! ほら、手だって引っかかれているし!」
「あいつが先に手を出してきたんだ! ワシャ悪くないわ!」
「いつもいじめているからでしょ! とにかく帰るよ!」
 ったく、もぉー。何があったかわからないけど、とにかくこれでよし。後でおじいちゃんの手を消毒してあげなきゃ。
「もぉー、シロ。ダメだよ、おじいちゃんに襲いかかったら」
「ニャー。ニャー」
「うーん、この子は死んじゃっているなぁ。ダメだよ、無駄な殺生は」
「ニャー。ニャーニャー」
「お墓を作らなきゃ。君も早く帰って、身体を休めるんだよ」
 伝わってるのかな? ま、いいや。
 私はそう思いつつ、別れ際にシロの頭を撫でてあげる。
 するとシロは、嬉しそうに喉をゴロゴロと鳴らしていた。
「それにしても――」
 ふと何となく考えちゃう。
 どうしてシロは毎日のようにスズメやネズミを持ってきてくれるんだろう?
 こう毎日を持って来られると、ちょっと困っちゃうなぁー。
「全くもぉー」
 ちょっとした謎だよ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み